【第一幕完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

葵井瑞貴

文字の大きさ
35 / 40
~ 救国の転生幼魔女 ~

35話

しおりを挟む
 王都からリシャール公爵邸に帰還して早二週間。
 帰宅した直後に過労で倒れてしまったアルフレッドだが、翌日にはベッドから起き上がり、遅れを取り戻すように執務に取り組んでいた。

(【分析の結果、死骸虫に対する効力は認められず】か……)

 部下から届いた報告書を読み終え、アルフレッドは目頭を押さえてため息をついた。
 もはや自国の製薬技術と薬材だけでは有効な駆除剤を開発できぬと思い、異国の薬師や医師、研究者にも協力を仰いでいるが、いまだかんばしい成果は得られていない。

 そもそも死骸虫はグランフェリシア王国以外にも生息してはいるものの、他国では蝗害を危惧する存在ではないため、専用の駆除剤の開発はおろか、研究すらろくにされていないという。

 ではなぜグランフェリシア王国にだけ、こんなにも大量発生するのか。
 原因については、これまでさまざまな仮説が立てられてきた。
 
 その中で、現在もっとも有力視されているのが〝霊脈説〟である。
 死骸虫は、この土地の地下に縦横無尽に走るエネルギーの奔流──〝霊脈〟の影響を受け、生命力および繁殖力が活性化されているという学説だ。
 
 昔から、妖精や神などの目に見えない霊的な存在を提唱する学者は多い。
 だが現実主義のアルフレッドにとって、こういった超自然的スピリチュアルな話は眉唾に思えてならなかった。おそらく幼少期から、根拠に乏しい発言を諫められ、童話などの物語に触れることすら禁じられてきた影響だろう。

 とはいえ、霊脈説以上に有力な学説はないため、現在は渋々これを参考にしている。

 霊脈のエネルギーに影響を受けて変異した死骸虫。それに対抗する駆除剤を作るためには普通の材料だけでは足りず、霊的なものへの干渉力がある薬材が必要だと学者たちは言っているが……。

「そんなもの、どこにあるんだ……」

 思わず口からこぼれた弱音にハッとし、アルフレッドは後ろ向きな考えを振り払うように首を振った。

 災厄は今この時も、刻一刻と迫ってきている。
 愚痴をこぼしている暇などない。

 ものの数分で休憩を切り上げ再びペンを走らせていると、書斎にノックの音が響き、ジェラールが姿を現した。

「失礼いたします。支部から報告書が参りましたので、お持ちいたしました」

 支部というのは、今回の死骸虫の問題を受け、リシャール領都内に一時的に設置した医薬研究所のことだ。
 
 王都には医薬府直轄の大規模研究所がある。
 しかし、リシャール領からは馬車で数日を要する遠方だ。

 手に入れた薬材を分析しデータを収集するのに、いちいち何日もかけて王都に運んではいられないため、アルフレッドが急ぎ自前で研究所を用意したのだ。

 ジェラールから受け取った支部からの報告書にも、目立った成果は記されていなかった。
 ある程度予想していたこととはいえ、一向に出口の見えぬ状況に、落胆せずにはいられない。

 どうしたものかと考え込んでいると、ジェラールが案じるように声をかけてきた。

「恐れながら旦那様、お顔の色が優れないようにお見受けいたします。少しご休憩なさってはいかがですか?」

「問題ない。大丈夫だ」

「……ですが、せめて食事と睡眠は十分に取ってくださいませ。三日前に奥様とお嬢様と夕食を取ったきり、仕事の合間にサンドイッチを摘まむ程度で、まともに食べていないではありませんか。このままではお身体を壊してしまいます」

「気遣いには感謝する。だが、ここが正念場なのだ。必ず結果を出し、蝗害を食い止めなければならない。……家族と、領民を守るために」

「旦那様……」

 自己犠牲も厭わぬほど追い詰められた主君を前に、ジェラールはなにもできぬ歯がゆさに顔を歪めた。
 その時、再びコンコンとノックの音が響き渡る。

 アルフレッドが入室を許せば、現れたのは生成りのシャツにサスペンダー付きの脚衣を身につけた、年配の男性使用人。
 先代の頃からリシャール公爵家に仕えている庭師のモーリスだった。

「おや、貴方が書斎に来るのは珍しいですね、モーリス」

 同世代で、ともに長年公爵家に仕えてきたジェラールが親しげに声をかければ、モーリスもまた気さくな口調で応じた。

「ちょいと旦那様にお知らせしたいことがありましてね。お嬢様のことなのですが……」

 今から二週間ほど前のこと。セレスティアが突然、『おはなをそだてて、かだんをつくりたいの!』と言い出したのだ。

 そのため、少し早めの誕生の祝祭の贈り物として、庭の一角を好きに使っていいと許可を出した。そして庭師のモーリスに花壇づくりを手伝ってやってほしいと頼んだのだ。

「セレスティアになにかあったのか? まさか、また転んで頭でも打ったのか?」

「いいえ! そうではありませんので、ご安心ください」

 飄々としたモーリスがやけに真剣な顔で『お嬢様のこと』と言ったため、まさか怪我でもしたのかと心配したが、早合点だったようだ。

「では、なんの報告だ?」

「実は、わしも気付かぬうちに、お嬢様が不思議な薬草ハーブを育てておりましてね」

「不思議な薬草?」

「昼間は日が当たるので分かりにくいんですが、夜になると灯りで照らしてもいないのに、こう……きらきらと光るんですわ。いやぁ、わしも長いこと庭師をやっとりますが、あんな薬草は初めてです」

「モーリス。旦那様はお忙しいのですよ。光る草に興奮しているのは分かりますが、そのようなことで貴重なお時間をいただいてはなりません」

「いや、違うんじゃよ、ジェラール。わしは世間話をしに来たんじゃない。薬草の効能を旦那様にお伝えしたかったのじゃ」

 薬の材料探しに難航しているアルフレッドとしては、気になる情報だ。報告を続けるよう促すと、モーリスが本題を語り出す。

「今時期は湿度と気温が上がってくるせいで、虫が増え出す頃でしてな。特に今年は例年にも増して草花を食う害虫が多くて、わしも対策に苦労しておったんです」

 けれども、とモーリスは続ける。

「セレスティア様が光る薬草を育てはじめてから、不思議なことに害虫がめっきり少なくなりましてな。試しに普段使っている駆除剤の中にその薬草を混ぜてみたら、これが効果てきめん! 虫食いの被害が格段に減ったんですわ」

「ほう、そんなにすごい効果があるのか」

「ええ! あの薬草の効力には目を見張るものがあります。おそらく、特定の虫が嫌がる匂いか成分を発しているのでしょうなぁ。それで、死骸虫の対策にも使えんかと思いまして、ご相談にまいった次第でございます」

「モーリス、その薬草がある場所に案内してくれないか?」

「もちろんでございます」

 アルフレッドは椅子の背もたれにかけていた上着を羽織り、モーリスとともに書斎を出て、さっそく庭へと向かったのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...