【第一幕完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

葵井瑞貴

文字の大きさ
36 / 40
~ 救国の転生幼魔女 ~

36話

しおりを挟む
 裏庭の一角にある、赤茶色のレンガブロックで囲まれた花壇。
 本来であれば初夏の花で埋め尽くされ、目にも鮮やかな景色が広がるべきそこには、青々とした草がこんもりと生えていた。

(なんだ、これは……?)

 確かセレスティアは『おはなをそだてて、かだんをつくりたいの!』と言っていたはずだ。
 しかし、アルフレッドの目の前にあるのは草ばかり。ところどころ白や薄桃色の小花が咲いているものの、どう見てもこれは花壇ではなく薬草畑である。

「ここがセレスティア様の花壇でございます。こちらはオレガノ、あちらはグランフェリシア原産のスイート・タイムで、そちらはカモミールですな」

 案内役のモーリスが丁寧に解説してくれるが、驚きのあまりアルフレッドの頭にはいまいち情報が入ってこない。
 とりあえず、観賞用の花ではないことは分かった。

「薬草園でも作るつもりなのか……うちの娘は」

「ほっほっほ。わしもてっきり綺麗な花を植えるものかと思っていたのですがね。お嬢様が、どうせ育てるなら美味しくて健康によいものがいい、とおっしゃいましてのぉ。結果、このような食用草ばかりに」

 花壇の草花にまで食べられることを条件とするあたり、食に対するセレスティアの飽くなき探究心と執着心が窺える。

「花より団子……いや、花よりハーブか。セレスティアらしいな」

「花よりダン……? なんですかな、それは?」

「見栄えより実利を重視することを、東方の異国では『花より団子』、あるいは『色気より食い気』などと表現するらしい」

「ほっほっほ、それはお嬢様にぴったりの言葉ですなぁ。おっ、噂をすれば」

 モーリスの視線をたどれば、庭の一角にしゃがみ込み、土いじりをするセレスティアの姿があった。

 袖をまくった白シャツに茶色い脚衣、目深にかぶった麦わら帽子。
 農作業用の手袋をはめた手で雑草や花殻を拾い、時折首から下げた布で額の汗を拭う仕草はやけに様になっている。

「随分と手慣れているな」

「そうなのですよ。物覚えもよく作業もとてもお上手で、わしも毎回驚かされるばかりです。初心者、しかも三歳でこれほどできるとは。いやはや、セレスティア様は末恐ろしい才能の持ち主ですぞ」

 果たして薬草栽培の才能は、令嬢として活かせるのだろうか。

(……いや。どう考えても、要らないだろう)

 貴族にとって庭は愛でるものであって、触れるものではない。

 もし先代公爵の父が生きていたら、「リシャール家の令嬢が庭師や農民の真似事をするなどけしからん!」と怒り狂うだろう。
 そして「即刻辞めさせろ」と言うに違いない。

 まぶたを閉じれば、怒鳴り散らす父と顔を歪める母の姿が容易に想像できた。

(貴方たちの教えは、俺の代で断ち切らせてもらいます)

 みずからが抑圧された子供時代を送ったからこそ、アルフレッドは娘に思う存分、本人がしたいことに挑戦させてやりたい。
 たとえそれが令嬢として普通ではない、常識外れの趣味だったとしても。

 我が子の翼を折るような親にだけは、なりたくないのだ。

「セレスティア」

 そう声をかければセレスティアが弾かれたように顔を上げ、輝くような満面の笑顔で駆け寄ってきた。

「おとうしゃま、どうしたの? おしごとは? もうおわり?」

「いや、終わりではないが、休憩がてら様子を見にきた。モーリスから、光る不思議な薬草を育てていると聞いたのだが、見せてもらえるか?」

「うん! これだよ!」

 セレスティアが指差したのは、細い茎に無数の小さな葉がついた植物。
 アルフレッドには、先程モーリスが「オレガノ」と言っていた草と、ほぼ同じに見えた。

「光ってはいないな」

「あっ、おひさまで、ひかりがみえないの。こうしたら、キラキラするよっ!」

 セレスティアがかぶっていた麦わら帽子を脱ぎ、日差しを遮るように薬草の上にかざした。
 すると、なんの変哲もなかった草が淡く光り輝きはじめる。
 
 このような植物は見たことがない。

 ──霊的なものへの干渉力がある薬材が必要。

 霊脈説を唱える学者の言葉がふと思い出された。

「セレスティア、この薬草はいつから、どうやって育てたんだ? 種か? それとも苗か?」

「え? えーっと、えーっと……わかんない!」

「分からない?」

「うん! いつのまにか、はえてて、みずをあげたら、たくさんふえた!」

「……そ、そうなのか」

「こっから、ここまで。ぜーんぶ、ホシツユクサだよ」

「ホシツユクサ?」

「このくさのナマエ。つけたの」

 セレスティアによると、それなりに広い花壇の四分の一が、今やこの謎の光る薬草──ホシツユクサらしい。
 育てはじめてまだ日も浅いはずだが、恐るべき繁殖力である。

「この薬草を少しもらってもいいか?」

「うん! まっててね!」

 頷いたセレスティアは、根を傷つけないよう慎重にスコップで土を掘り返し、モーリスが持ってきた鉢植えに一株薬草を植え替えた。

「おとうしゃま、どうぞっ!」

「ありがとう。俺は仕事に戻るが、あまり根を詰めすぎないように。こまめに休憩を取り、水分補給も忘れずにな」

「はいっ! おしごと、がんばってね!」

 鉢植えを受け取ったアルフレッドは頷き返し、建物に向かって歩き出す。

 娘の笑顔に癒され、声援に活力をもらったからか、その足取りは先程までとは別人のように軽やかだった。
 書斎へ戻ったアルフレッドは、すぐにホシツユクサを領都の研究支部へ送るよう、ジェラールに頼んだ。



 ──事態が動いたのは、それから三日後の真夜中のことだった。


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...