逆転!? 大奥喪女びっち

みく

文字の大きさ
303 / 310
【異能覚醒編】

302 朝の目覚めと、まだ秘めた夜の余韻

しおりを挟む





 明くる朝、家光が起きたのは、まだ朝陽が昇る前だった。
 背に振の温もりを感じながら、気怠い身体を奮い立たせ、もそもそと褥から這い出る。

 こっそり部屋を出て自室に戻ると、廊下でいつもは目覚ましに「もう」と呼びかける小姓が驚いた顔をしていた。


「ふぅ……」


 自室に戻ると家光は一息つく。やはり自室は落ち着く。
 もう一眠りしたいところだが、二度寝したら起きられない。

 このまま起きていよう――そう考えていた矢先。


「家光様、お早いですね」

「っ!?」


 背後から声がして家光は驚いた。
 そうだ、昨日春日局が泊まったんだった――と、恐る恐る振り向く。


「……まだ暗いですよ。もう少し休まれては?」


 家光が振り向くと、御休息之間――いわゆる寝室から、春日局が前髪を掻き上げながら出てきた。

 ……まったく、なんて色気だ、この男。

 寝ている間に緩んだ衿ぐりから覗く鎖骨と逞しい胸筋。見つめられると、臆してしまいそうになる鋭い虎目石タイガーアイの瞳に、少し不機嫌そうに長い髪を掻き上げる仕草――そして、はらはらと落ちてゆく黒髪。

 たぶんまだ眠いのだと思うが、いつもぴしっとしている彼が、起き抜けはこんな感じなのか……男の色気が駄々洩れだ。
 幼い頃は一緒に寝ていたが、こんなだったっけ――と、家光は首を傾げる。

 父親じゃなく、赤の他人として出逢っていたら見惚れていたかもしれない。
 朝陽に照らされていれば、さぞかし煌めいて見えたであろう。

 ……朝からなんてものを見せるんだ。


「ソ、ソウダネ……」


 なんとなく気まずくなった家光は目を泳がせた。


「……ふむ。なにかあったのですか?」


 家光の様子に、春日局は腕組みして首を傾げる。


「べ、別に~?」


 ――いや~、振と致してきちゃった♡ ……とは言えないよ~~。


 振とのことを、今言っていいものかわからない。
 どうせそのうちバレることだが、今は言う気になれなかった。


「……そうですか。では、私はお先に」

「え? もう行くの?」

「ええ、まあ……朝の仕事がありますから」


 ……春日局曰く、大奥の朝は早いらしい。
 皆が起きる前にすべきことがいくらでもあるのだとか。

 大奥を取り仕切る身分は大変だなと、家光は心の中で「お疲れさま」と労っておいた。


「そうなんだ。早起きだね」

「いつものことですよ。今日は少々寝過ぎました。家光様はもう少し休まれてから起きてください。では、また朝の御勤めで」

「うん、また……」


 春日局とすれ違い、家光は寝室へと戻る。


「……福、珍しく気付いてなかったっぽくない?」


 すっかり冷えた褥に腰を下ろし家光は身体を横たえた。

 何かと鋭い春日局にツッコまれずに済み、ほっとしたが、夕方までに伝えた方がいいだろう。
 もうすでに振と致しているわけだから、今夜は奥に行かなくても済むかもしれない。


「そんなことより、振だよ……!」


 ――ああ、どんな顔して会えばいいの……!?


 昨夜の失態にジャンピング土下座したい気分だ。

 だが、他の者達が居る手前、そんなことは出来ない。
 この後、御鈴廊下で顔を合わせることになるが、非常に気まずい。

 振を直視できるのだろうか――いや、無理だな……。
 自分の行いを思い返すと……穴があったら入りたいくらいだ。

 ……家光は眉を顰めた。

 こんな気まずい思いをしたのは初めてである。
 発情発作は自我を失わせるほどに凄まじかった。
 しかも、しっかり記憶が残っているのが辛いところ……。

 あとで春日局に報告ついでに、振とのことを相談しよう――そう考えながら目を閉じた。









『もう』


 四半刻もしない内に小姓の声が聞こえて、二度寝した家光は目を覚ました。


「ん……ン~~!!」


 いつものように、まだ薄暗い部屋で上体を起こし、伸びをする。
 振は起きただろうか……。

 ……身体は昨夜のままだ。
 気絶するように眠りに就いた彼を放置し――そのまま黙って部屋を出てきてしまった。

 目覚めた振は何を思うのだろう……交通事故に遭ったとでも思ってくれないだろうか――江戸じゃ交通事故なんて滅多にないけども。
 嫌われていなければいいけれど……と、ぼぅっとした頭で考える。

 その時だった。


『おはようございます、家光さま。お目覚めですか?』

「ん、おはよう。起きたよ~」

『御着替えお持ちしましたぁ~』


 廊下から月花の声がして、家光は「は~い」と答えた。

 ……家光の身支度を手伝いにきた月花が、寝衣に手を伸ばす。
 始めは軽快な様子で衣擦れの音がしていたが、途中で手が止まった。


「……」

「ど、どうかした?」

「……すっごく臭うんですけど?」


 帯を取っ払い、前身頃を開けたところで月花が眉を顰める。
 月花の視線は家光の太ももに注がれていた。

 家光も下肢へと視線を落とす。


「……」


 ――そりゃあ……そう、ですよ、ね……。


 すでに乾いているが、腿の内側には“何か”が垂れた白い跡がくっきりはっきり残っている。
 臭いの元はおそらくそれ――。


「……このまま家光さまを御勤めに向かわせるわけにはいきません。御台さまの湯浴みの刻限ですが、入れるか聞いてきますね」

「あ、ちょ、月花!?」


 ……湯殿には、家光は夕方に入るが、孝はいつも朝に入るらしい。

 きっと月花は察しているとは思うが、相手が誰とは聞かずに部屋を出て行った。

 少しして戻って来た月花が、「御台様が譲ってくださいました!」と湯浴みさせてもらえることになった。
 朝餉兼、診察も控えているからさっさと入ったほうがいいだろう。将軍の一日は予定がびっしり詰まっている。

 家光は頭に着物を被り、奥の者に見つからないよう湯殿に向かうと、早速湯浴みし、身体を洗浄――。
 朝陽が差し込む湯殿で、“朝風呂最高~♡”なんて寛ぐ時間はない。
 さっさと身体の汚れを取って、次の予定に移らねば。

 ……月花が手伝ってくれたが、彼女は何も言ってこなかった。

 その沈黙だけが、妙に胸に残った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【美醜逆転】ポジティブおばけヒナの勘違い家政婦生活(住み込み)

猫田
恋愛
 『ここ、どこよ』 突然始まった宿なし、職なし、戸籍なし!?の異世界迷子生活!! 無いものじゃなく、有るものに目を向けるポジティブ地味子が選んだ生き方はーーーーまさかの、娼婦!? ひょんなことから知り合ったハイスペお兄さんに狙いを定め……なんだかんだで最終的に、家政婦として(夜のお世話アリという名目で)、ちゃっかり住み込む事に成功☆ ヤル気があれば何でもできる!!を地で行く前向き女子と文句無しのハイスペ醜男(異世界基準)との、思い込み、勘違い山盛りの異文化交流が今、始まる……

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...