逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【転生・元服編】

005 竹千代誕生

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「ほぎゃぁっ!!(死ぬぅ!!)」

 まぁ、随分と大きな声が出たもんだ。自分の発した大声に驚いて目を覚ますと、目の前には自分を覗き込み微笑む、全く見たことも、会ったことも無い、知らない顔の美女一人と美男が三人。
 千代は瞬きを何度もする。

 え? なに? どういうこと?

「あうあう(誰、あんた達)」

 ていうか、何で、赤ちゃんみたいな声が出るの。
 千代はなぜか動きづらい自分の手足をばたつかせ、視界に僅かに入った自分の手を見て固まる。
 首までもが自由に動かない。

「ファッ!?」

 そこには生まれたばかりの赤子の姿に戻っている千代が居たのだった。

(わ、私赤ちゃんに戻ってんじゃんっ!! 何でっ!? ってか、この綺麗な人達何っ!?)

 困惑しながら色々口に出しては見るものの、歯が生えていない千代の口から漏れるのは赤子の泣き声のみだった。


「竹千代君のご誕生、おめでとうございます」


 白い布を頭に被り、布には一仕事終えたように額の汗が染み込んでいた。
 アメジストを思わせる紫の落ち着いた印象を持つ穏やかな瞳に、高い鼻筋、大きな薄い唇から発せられる言葉は瞳と同じように穏やかで心地良い低音。
 今は一つに紐で縛られ纏められていてよくは見えないが、恐らくは滑らかで美しいであろう長め銀髪を持つ白の着物和服を纏った長身イケメンがそう告げる。
 年齢は二十代か、三十代か、それ以上に見えるような見えなくないような、年齢不詳な感じがする。
 身体つきも程好く引き締まり、袖を捲くっているので手首から肘までの間での憶測になるが、細マッチョである。
 一見したところ医師らしい。

「秀忠様、良く頑張られましたな。一時はどうなることかと思いましたが安心いたしました」

 医師のすぐ傍で別の声が聞こえる。
 先程よりも低く、艶のある低音ボイス。
 妖艶な二重切れ長の漆黒の瞳にすっと通った高い鼻、顎の形もすっきりとシャープな印象、髭など皆無。
 背も医師と同程度、いや、立ち上がってないのでその辺は今はわからないが、背は高そうである。烏の濡れ羽色の長く美しい黒髪は中央で分けられ、額が見える。
 俯くとさらさらと両サイドの髪が揺れてその仕草に色香を感じる。
 髪に合う艶やかな黒の羽織に、中は葡萄色えびいろから黒のグラデーションの着物。
 山葡萄の丁寧な刺繍が金糸で施されている。
 そんな見目麗しいイケメンが艶かしく微笑みながら美女を見る。
 歳は二十~三十代だろうか、医師よりもやや線が細く感じるが、貧弱さは感じない。
 千代時代に会っていたら即ストーキング対象になっただろう。

「はぁ、はぁ……ああ、江には心配をかけた。本来なら五月五日で生まれる子が、十月十日掛かるとは・・・無事に生まれて何よりだ」

 二人に見つめられ、秀忠と呼ばれた美女は黒髪イケメンに応えるように、布団に座り、白い着物と白い鉢巻きらしき布を額に巻いて、全身汗びっしょりになりながらも爽やかに微笑む。
 よく手入れされた艶やかな赤みがかった黄みの暗い黒茶色のミディアム丈の髪に、長い睫毛に大きなくりくりとした赤墨の瞳、鼻筋も程好く高く、ふっくらと柔らかそうな紅潮した頬、ぽってりとしたむしゃぶりつきたくなる潤いのある唇。
 輪郭に至っては理想的な卵型である。咽喉の奥から溢れる声音は小鳥のさえずりのように愛らしく聞こえる。
 背もそんなには高くはなく、細い肩に男なら庇護欲をそそられるだろう。その可愛らしい美女が千代を抱きながらあやしていた。
 歳は二十代半ばといったところか。

「ほら、江」
「……このお子が私と秀忠様の……何と可愛らしい……」

 江と呼ばれた長髪黒髪イケメンは秀忠から千代を受け取り、覚束ない手で優しく抱き上げ、目を細める。

「ぁう……」

 何、このイケメン、綺麗過ぎでしょ。
 と、千代は見惚れ、一時自分が泣いていたことを忘れてしまう。

「……秀忠様、お江与の方様、おめでとうございます。竹千代君、私が貴女を立派な将軍にしてさしあげましょう」

 それまで黙っていた三人とは少し距離を置いて控えていた短髪黒髪のサイドから後ろにかけては刈り上げのオールバックこれまたイケメン、切れ長のタイガーズアイの瞳につーんと通った鼻筋、医師よりは唇はやや厚め、顎もしゅっとして穏やかそうな印象で爽やかというよりどちらかといえば涼しい顔といった方が正しそう。
 江とは違う艶っぽさというか、その氷のように感じるのにその奥は熱いサディスティックな眼で見られると、

『もっと見て! もっと!』

 千代の中の何かが開花しそうな気がするのは気のせいだろうか。
 立ち上がってこちらにやってきたので、一瞬だったが背が高いのがよくわかった。
 身体付きも好く、着物を着ているので中までどうかは判らないが、大胸筋辺りが僅かに盛り上がりを見てとれるので筋肉はほどよくついていそうだった。
 声の高さは江と同じか、それよりもやや低め、涼やかで、落ち着き払ったように聞こえる。
 着物は藍墨茶の羽織に茶鼠の着物には絞り染めで小さな白い水玉が無数施されている。
 生地がそもそも淡い色のためにわかり辛いものの、品の良い落ち着いた着物だ。
 年齢も二十代後半から三十代半ば? いや、それ以上のような気がするのは彼の持つ雰囲気の所為か。
 その男は秀忠と江に近づいて、江の横から千代を覗いて言いやる。

「福、この子は私が育て……」

 江が千代を離したくないのか一瞬強く抱きしめ、言葉を続けようとするが、

「将軍家の御子……跡取りは乳母と養育係が育てる決まり。私は家康様より、養育係になるよう直に仰せつかっております」

 福と呼ばれた短髪イケメンは淡々と冷静に告げるのだった。

「それはわかっている。だが、御子はまだ生まれたばかり。今しばらくここに……」

 江は納得のいかない顔で、秀忠に千代を渡し、福に向き直った。
 福の前には江が居り、江に守られるようにして、千代を抱く秀忠がいる。

「……秀忠様はお疲れのご様子、今はお休みなられるのか先決かと。お江与の方様も、秀忠様のお側に居られるのでございましょう、私は竹千代様に乳を飲ませて差し上げたいのですが」

 福は動じることなく、江の背後の秀忠の顔をちらりと見つつ、淡々と話を進めていく。

「何を、勝手な! 長い月日我が子との対面を楽しみにしていたというのに、一度抱いたきりで手放せと申すか!」

 反面、不服なのか江は声を荒げ肩膝を立て、今にも福に殴りかからんとするかのように胸倉を掴んでいた。

「お江与の方様には大変申し訳ありませんが将軍家のためですので」

 熱くなった江とは対照的に福は冷然と江と視線を交わしながら告げる。

「……江、私は構わない。それよりも少し休みたい」

 睨み合う二人の背後で秀忠が千代の頬を優しく突きながら呟いた。

「秀忠様……あなたがそうおっしゃるなら……」

 江は福を解放し、秀忠の方へと向いて、千代を秀忠から受け取る。

「……明日には私の乳もやっていいか?」

 秀忠は福に竹千代を差し出すと、福は慣れた手付きで抱き上げ、立ち上がった。

「はい、秀忠様の御公務の合間、竹千代様をお連れ致します」
「ならば良い、明日、江も来れば良いのだ」

 秀忠は努めて明るく江に微笑み掛け、それに江も応えようと笑顔を返すが、

「……僭越ながら……明日お江与の方様は遠方の御公務にて、城には居られませんので……」

 福のこの一言で江の笑顔が瞬時に消え去る。

「……福……お前という奴は……」

 秀忠に見えないように江は福を一度睨み付けてから、ぎりっと、歯軋りをした。

「……では、竹千代様に母乳を上げますので失礼させていただきます」

 江の様子など気にもせずに福は竹千代をあやしながら頭を下げた。

「……ああ、頼んだぞ、福……」
「これで、徳川幕府は安泰ですね」

 今まで空気だった医者のイケメンが秀忠に近づいて、手首の脈を測りながら千代を抱きかかえる福を見ながらやんわりと微笑んだ。

「ええ、竹千代君貴方はきっと良き将軍となりましょう」

 福が応えるように千代を覗き込み優しく微笑む。


「ファッ!?」


(それって、私のこと!?)


 こうして、喪女千代は竹千代……後の徳川三代目将軍、家光として二度目の人生を歩むことになったのだった。
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