逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【転生・元服編】

006 人生一からやり直し

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 ちょっと待て、ちょっと待って!!

「ほぎゃぁ! ほぎゃぁ!」
「どうなさいました? あぁ! お腹が空いたのですね。少々お待ちくださいね、乳母を連れてまいります」

 どこの和室かは知らないが、真新しい畳の匂いに包まれた白壁の部屋で、ふかふかの肌触りの良い布団の上に必死に語りかける(泣き叫ぶ)千代を寝かせ、黒髪短髪オールバックイケメン、

 あれ? 名前なんだっけ……?
 その男が優しく微笑みながら、乳母を呼ぶ。

「すぐ参りますからお待ちくださいね」

 言い聞かせながら千代の頭を優しく撫でた。
 私、こんな風にイケメンに撫でられたこと、今まで無かったな……。
 と、しばしポーっとしてしまう千代……もとい、竹千代であった(というか名前は変わってない)。

「あぅー」

 自分の世話をしてくれる名も知らぬイケメンの優しさについ、嬉しくて竹千代の頬が緩む。

「……なんと可愛らしい」

 竹千代の笑顔にイケメンが初めて見た時には想像しなかった破顔で返してくれる。

 いや、しかし、これはどういう状況なのよ?

 竹千代は混乱していた。
 
 自分が生まれ変わったのは、何となく理解できそうだ。だって、手足を見たらちっせぃ!

 そして、腕なんか千切りパンだし。
 身動きが取りづらいし、何度話そうとしても赤ちゃん語で話にならない。
 でも、疑問はまだまだあるのだ。

 まずは、

 本当に生まれ変わったの?
 なら前世の記憶があるのは何で?

 ていうか、

 ……ここどこ?

 イケメンも美女も和服を着てた。
 日本語しゃべってたから日本なのはわかる。

 でも、ここドコー?
 
 なんか、時代が古い気がするのは、気のせいですか?
 
 この時竹千代は気付いていなかったが、初めてイケメン達と出会った時にされていた会話の中にヒントが隠されていたのだった。
 だが、千代は今までに無かった超絶イケメン達と美女に囲まれた現実に驚愕していて、その場の会話など耳に入っていなかったのである。

「さぁ、竹千代様、たんとお飲みくださいませ」

 乳母が到着するや否や、イケメンは竹千代の首辺りに片手を差し込むと、首と頭を固定するようにしてもう片方の腕で身体全体を支え、優しく抱き上げ乳母に手渡す。

「本来なら私の乳を差し上げたい所ですが、生憎男に母乳は出ませんので……」

 よしよしと、あやしながら申し訳なさそうに乳母(長い黒髪に、長い睫毛と吸い込まれそうな黒の瞳、鼻の形も整っていて高く、唇は少し薄め、優しそうな面差しに淡い夏虫色の着物の模様は朝顔が咲き誇っている。身長は秀忠と同じくらいか、それに近い。これまた美人で吃驚仰天、ここの人達若くて綺麗な人ばっか!)に手渡した。

「明日には秀忠様の母乳も頂けると思いますので、辛抱してくださいませ」

 と、イケメンは乳母の背後に回り、乳母の胸を見ないように見守る。
 竹千代はとりあえずお腹も空いたことだし、と、乳母の乳首を頬張り、母乳を吸っていく。

(母乳って、腹持ち悪いよねー、すぐお腹空くんだよね。まぁ、歯がまだないからしょうがないけどね。にしても、この人もえらい美人だなぁ~)

 そんな風に考えながら過ごす。
 
 竹 千代が竹千代に生まれ変わってもう数日が経っていたのだった。





「ほぎゃぁっ! ほぎゃぁっ!! (いやっ、いやぁっ!! 恥ずかしいっ!!)」
「はいはい、襁褓おしめを変えましょうね~」

 イケメンが手馴れた手付きで竹千代の両足を持ち上げ、股に巻かれた布を剥ぎ取っていく。

「おぎゃあっ! おぎゃぁああ!! (そんなとこ見られたらお嫁に行けないって言ってるでしょう!)」

「大丈夫ですよ~、すぐ、気持ちよくなりますからね~」

 もう、何度目だろうか、赤ちゃんはトイレには行けない。
 オムツ交換が必要なのである。
 今日はお乳を飲んでいる途中で、お腹が痛くなりぷりりっと、粗相してしまったのだった。
 竹千代は抵抗するものの、動きの取りにくい身体での抵抗は虚しく、いとも簡単に布を剥ぎ取られ、お尻と大事な“うっふん”を拭かれて、新しい布を当てられ素早く元の形へと巻かれる。

「はい、出来ましたよ。どうですか? すっきりしましたね。また、たくさんお乳を飲んでして下さいね」

 イケメンは茶色くなった布を手早く丸めて、近くに居た乳母に竹千代を頼むと一言添えて、すぐ傍の庭へと降り、そこにあった井戸で水を汲み、たらいに入れ、洗い始めたのだった。

 おむつプレイ……なんつープレイなんだよ……と竹千代は思いながら乳母のおっぱいに再び吸い付きながら自分の粗相した襁褓おしめを洗うイケメンの背を眺めていた。

「竹千代様、春日局様はいつもああして、ご自分で竹千代様の襁褓おしめを洗っておいでなのですよ。竹千代様は春日局様に愛されてらっしゃいますのね」
「あぅー……」

 竹千代は優しく微笑みながら語り掛けてくる乳母に返事をしつつ、お乳に吸い付きながら何かに気がつく。

 今、なんつった?


 か・す・が・の・つ・ぼ・ね…… 春日局!?!!?


「あうっ!!(春日局ってっ!! 聞いたことあるっ!!)」

 竹千代は目を見開き、初めて会った時のことを思い出していた。


(そう、確か、秀忠様とか、お江与の方とか。言ってた)


(そして、この日本っぽい和室に、着ている着物、もしかしたら……)


 竹千代がお乳を吸いながら考えを巡らせていると、部屋に誰かが入ってくる気配がした。

「……ちょっと、邪魔するぞ」

 竹千代の前に見知らぬ、これまた長い艶やかな黒髪が印象的な、意志の強そうな焦茶の大きな瞳と二重目蓋の長い睫毛に、通った鼻筋、人情深そうな厚めの唇は紅を引いているのか紅く艶やかで、輪郭も卵型。
 鮮やかな朱に鶏頭や黄鶲キビタキ大瑠璃オオルリが描かれた和服を身に纏う絶世の美女が現れ、自分の方へとやってくると、目の前に腰を下ろし、竹千代を見つめる。
 背は然程高くはないが、竹千代を見つめる眼も、瞬きをする動きも、声を発した後に結ぶ唇も、腰を下ろす様も、所作が流れるようで隙がなく一見すると可愛らしくも見えるが、オーラとでもいうのか目の前にすると息を呑むほど美しく感じられる。
 乳母も美しいが比じゃなかった。
 秀忠ならいい勝負かもしない。
 年齢は三十代……いや、二十代? 秀忠と然程変わらないような気さえする。

 そしてどことなく秀忠に似ているような?

「これはこれは、家康様!!」

 春日局が女性に気が付き声を掛け慌てて庭から部屋へと戻ると同時、乳母も授乳をやめようとするが、

「福……いや、春日局。よい、続けよ。うむ、秀忠によく似ておる、いや……どちらかというと儂に似ておるな」

 楽しそうに美女が竹千代の頬を軽く突く。

「……あ、ぅー」

 竹千代は乳首を放して、美女の瞳を見つめ何かを聞きたそうに声を出す。

「ん? 儂か? 儂は徳川家康じゃ。可愛い孫、竹千代よ」
「あうー!!(やっぱりかっ!!)」

 竹千代は合点がいったのか、一際大きく声を張り上げた。

「抱かせてもらってよいか?」
「もちろんです」

 春日局は乳母から竹千代を抱き上げると、春日局が家康に竹千代を手渡した。
 乳母はそのまま静かに一礼すると、部屋から立ち去る。

「……姉の長丸は残念だったが、お前だけでも元気に育ってくれよ」

 家康は僅かに哀しげに微笑むと、立ち上がって竹千代をあやす。

(やっぱり、江戸時代かよっ!! ってか、何で!? 家康って男なはずじゃ!?)

「…………」

 家康にあやされながら、竹千代はぽかーんと間抜けに口を開けて呆然としていた。

 私の知ってる歴史は、春日局は女だった。
 いつも持ち歩いてる日本史の本にそう書いてたわ!

 ってか、家康女じゃんか!?

 春日局がこんなイケメンで、家康が美女なわけがない。

 これは夢か?

 本当の私は死んでなくて、病室にいて、植物状態で、夢でも見てるんじゃないのか!?


「ほぎゃぁああああっ!! (そんなんやだぁああああ!!)」


 自分が置かれた立場に一気に困惑し始め、竹千代は泣き出してしまう。

「ほらほら、大丈夫じゃよ~。元気のいい子じゃな~」

 家康は竹千代の気持ちなど知る由もなく、上機嫌に笑っている。

「ははは、家康様にお会いできてきっと嬉しいのですよ」

 春日局が家康に向って優しく目元を緩めた。
 春日局が竹千代以外にこんな顔をしたのを初めて見る。

「儂も嬉しいぞ! のう、竹千代。儂の幼名と同じ名の可愛い孫よ」

 春日局のその笑顔に家康も嬉しくなったのか、竹千代の両脇を抱え、高い高いをした。

「びええええええっ!!! (植物状態のまま死ぬのはいやだぁあああああ!!)」

 竹千代は家康と春日局のことなどすっかり忘れ、自分の世界へと入り、自分が植物状態で見る夢だと錯覚していたのだった。
 赤子で思うように身体の自由が利かない今、自分で自分を抓ることも出来ないのは夢の中だとしか、認識できないのだった。

「元気なのはいいが、少し泣きすぎだぞ」

 不意に、家康が高い高いを止め、竹千代の頬を軽く摘む。


「あう!(痛いっ!)」


(あ、痛みがある!)


 夢じゃなかった!!


 竹千代は目をひん剥いて、痛みのある現実に安堵の表情を浮かべた。

「お、やっと笑ったな」

 見れば、竹千代の安堵した笑顔に家康も笑っている。その隣で、春日局も嬉しそうに微笑んでいる。


(ここは、江戸時代、私は竹千代、将来は……)


「これは将来が楽しみだな。なぁ、竹千代、三代将軍。徳川は安泰よ」
「はい、家康様」

 春日局が竹千代を抱き上げる家康に寄り添って、そっと肩を引き寄せると、二人で庭から見える空の遠くを見つめ、未来に思いを馳せた。


(……三代将軍――徳川、家光)


(私はもう一度、人生をやり直す、この、よくわからない世界で)


 竹千代も二人と一緒に空を見つめて決意を新たにしたのだった。
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