逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【転生・元服編】

007 世が世なら女子高生なのよ

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 千代の転生、あれから十七年の月日が経った頃。
 千代改め竹千代はというと、
 
「いっぽーん!! はぁっ……はぁ――……」
「参りました……はぁっ、はっ……」

 道場で白装束に黒袴を身に纏った竹千代は、深く息を吐く。
 同じ衣装を身に着け、床に手をつき肩で息をした御小姓の稲葉正勝を見下ろし、鼻先に片手で竹刀の先を向け、空いている方の腕で汗を拭いながらにやりと笑った。

「……っ、竹千代様はお強い」

 春日局の若い頃を思わせる美しい顔立ち、さらさらの髪は少し前髪は長いものの、全体的に野暮ったさは感じさせない襟足まで伸びるナチュラルヘア(かつての春日局とは異なり刈り上げていない)に爽やかな、まだ少年の面影が強く残る、某アイドルグループに居そうな美青年が千代の顔を見上げ、頬を赤くする。
 背は五尺と八寸ちょっと(176cm前後)、竹千代よりは頭一つ分高めである。
 竹千代とは三つ違いで、現在二十歳。竹千代が三つの頃から傍でお仕えし、共に育ったのだった。

「ん? 正勝どうしたの? 熱でもあるの? 顔があか……」

 竹千代が膝をついて正勝の額に手を当てようとすると、正勝ははっとしたように身を引いた。

「い、いえっ、何でもありませんっ!」

 正勝は慌てて立ち上がり、頭を何度か振るった。

「……変な正勝だなぁ」

 竹千代は正勝の様子に疑問符を付けながらもさして気にも留めず、柔和な表情を浮かべながら立ち上がる。

「……申し訳ありません。竹千代様が美しくてつい、見惚れてしまいました」

 竹千代が立ち上がると同時、正勝は突然にその場に両膝をつき、深々と土下座をした。
 これに驚いたのは竹千代だった。

「えっ……ええっ!? (まっさかぁ――!? 私は喪女ですよ!?)」

 竹千代は座礼する正勝を見下ろしながら驚愕していた。
 正勝の耳が赤く染まっている。
 嘘を言っているというわけではなさそうだ。
 そもそも正勝は竹千代の御小姓とはいえ、これまで一緒に育ってきた兄弟のようなもので、今まで竹千代に対し嘘など吐いたことなどない真面目な男だった。

 だからこそ、驚いたのだ。
 無理もない。
 竹千代は生まれ変わりはしたものの、今まで鏡を見る機会が無かった。
 生まれてからこれまで、着替えから何から何まで、全て誰かが世話をしてくれる。
 そして、日々の着るものなどは全て春日局のコーディネートで決められ、自分は好きな色や柄を伝えるだけ。
 後は着せ替え人形のように任せっ放しなのだ。
 それに、まだ幼少の頃ある寺院に出向いた際、寺|(またはいずこか)の少年(やっぱり美少年)に一言言われており、その一言が竹千代に自分の姿を見ないよう、鏡から足を遠のかせていた。


『この醜女ぶおんな!』


 こんなことを、見目麗しい少年に面ッと向かって大声で言われてしまった竹千代はショックで寺院から帰った日は夕餉も取らずに部屋に篭ってしまった。
 そんな経緯から、竹千代は生まれ変わってもやっぱり喪女なんだと、思い込んでいたのだった。

 本当は、生まれ変わって超のつく美少女なのに。

 秀忠譲りの滑らかなで、艶やかな髪。
 色は秀忠よりも明るい。
 大きな瞳は千代時代も同じだったが、今度は二重目蓋で涙袋が愛らしい。
 睫毛は当然長く、頬は化粧もしていないのにチークをのせたようにほんのりと赤らんでいる。
 ぽってりとした唇は潤いを帯びていて、男を誘うように動くが自覚はない。
 卵型の輪郭に、パーツの配置が絶妙、そして白い陶器の肌。
 たわわに実った果実は両手で掴んでも零れそうな程に成長し、肩こりが最近の小さな悩みである。

 なのに。

 ちょっと前世拗らせてます。

 だからこそ、正勝の言葉がにわかに信じられず、疑いの視線を向けてしまうのだった。

「……ま、またまた~、冗談言っちゃってやだなぁ~」

 竹千代はぽんぽんと正勝の肩を軽く叩く。
 心の中ではこう思うのだ。
 幼馴染の正勝、しかも、春日局ばりの美しい少年にそんな冗談言われたら立ち直れない……と。
 百歩譲って正勝は自分の御小姓だから、一緒に育ち傍に居て見慣れている。
 だからこそ、たまたまどっかのパーツが良く見えたのだとしても、やっぱり辛い。

 だって、竹千代は前世を拗らせているから!!

 せっかく生まれ変わったのに、また容姿で辛い思いはしたくないのだ。

 現在の歳は十七。
 世が世なら人生で一番最強の女子高生時代、恐れるものは何もない。

 はず。

 が、

 女子高生と同じ年代になったとはいえ、中身は三十七プラス十七歳のおばさんである。
 そして喪女ときた。
 前世の女子高生時代にはモテ期なんぞなく、友人とある程度の交流はあったが親しい友達も喪女ばかり。
 取ったプリクラは自主規制(自分の写った部分は黒く塗りつぶす)が入るほどに酷い出来。
 友達との日々はそれなりに楽しかったはずだが、街で幾度も見知らぬ人からブスと言われたことは忘れない。

 楽しくもあり、辛い日々でもあった。何であんなにたくさんプリクラ撮ったんだろう。
 羽目外し過ぎだろう。
 今のプリクラみたく加工なんて出来ない時代なのに、クローゼットの中、クッキー缶に山のように埋もれている負の遺産。
 どの笑顔も気持ち悪すぎる。

 つまり、もう思い出したくないのである。

 二度目の人生はあまり派手に羽目を外すことなく、着実に真面目に生きようと思っている竹千代であった。

 そんな訳で寺院の一件以後、容姿に関することを言われるのは嫌いだと、周囲に悪態をついたことがあり、そういった発言は慎むよう、春日局に頼み禁止としたものの、皆聞こえないよう影で褒め称えていたのだが、正勝は竹千代の望み通り、一切口にしないようにしていたのだった。

 そんな優しい正勝に竹千代は懐いて、これまで育ってきた。
 そして、竹千代は正勝にもう一つ望んだことがあった。

 それは、男女関係のない、友人関係というものだった。
 正勝はその真面目な優しさで竹千代が望むままに、容姿に触れず、男女ということも意識せずにいた。

 ……というか、意識しないようにしていた。

「いえっ、決して冗談などでは! 本当にっ、竹千代様は美しくっ! 私は竹千代様がっ……!」

 だが、歳を取る毎に美しさと艶やかさが増していく竹千代に本音が隠せなくなり、この日を迎えてしまったらしい。
 顔を真っ赤に染め、正勝は涙目で、訴えかける。

「……」

 正勝の必死な表情に竹千代は半信半疑で、見下ろしたまま、その場に立ち尽くしていた。

「正勝、何事だ?」

 二人の背後に、昔より髪が伸び七三分けにし、耳の横で一つに結んだ以前よりも妖艶さが増した、若さ自体は然程変わっていない印象の藤色の着物を着た春日局が現れ、竹千代は振り返った。

「あ、福!」
「春日局とお呼びください」

 竹千代が助け舟とばかりに笑顔で春日局に走り寄るが、春日局は無表情で応える。

「いいじゃん、ケチー」

 竹千代は春日局の腕を両手で引いて、ぶんぶんと振り回した。
 春日局はこれまで竹千代を育ててきた養育係であり、幼い頃は表情豊かに接してくれていたものだったが、それがいつしか、能面のように抑揚のない顔が増えていった。
 黙っていても美しいが、竹千代はうっふーんなところも見られているからか、非常によく懐いていた。
 竹千代はセクシャルなことをされると依存心が芽生えるのか、懐いてしまうようである(※但しイケメンに限る)。

「いいですか竹千代様。竹千代様もじきに元服です。きちんとしていただかなければなりません」
「はいはい、わかってるって~」

 春日局は腕に纏わりつく竹千代に表情を崩さず告げるものの、言われた当の本人は聞きなれているのか気にも留めていなかった。
 こんなときは決まって、

「はぁ……」

 と、春日局がため息をつくのだった。

「ところで、正勝、竹千代様はこれから湯浴みの時間だ。湯殿までお供するように」
「はい。父上」

 春日局が竹千代と正勝の竹刀を手にしながら、正勝に告げる。

「正勝、お前も元服したのだ、春日局と呼ぶように」
「はっ。春日局様」

 春日局から冷ややかな視線を向けられると、正勝は未だ座ったまま座礼で返したのだった。

「……武家って大変なんだねぇ~」

 こういった場面をいままで幾度となく見てきた竹千代は一人すたすたと足早に湯殿に向かう。前世の記憶でこうして時々妙な言動をしては回りから奇異な目で見られることもしばしば(春日局と正勝は慣れているため、特に気にしない)。

「あっ、竹千代様、私も参ります!」

 慌てて正勝は竹千代を追い掛けるが、竹千代は何故か足を速める。

「一緒に入んないよ!」

 どうやら、先程の一件で動揺しているらしい。

「もちろんですっ!!」

 正勝は竹千代の動揺に申し訳なく思い、背後に着かず離れずでついて行った。

「……やれやれ。竹千代様はあの素晴らしく精到な容姿の何が御嫌だというのか……にしても、正勝……」

 湯殿に向かう二人の背中を見つめながら春日局は正勝の気持ちに気付いて、何やらぶつぶつと独り言を言いながら竹刀を片付けてその場を立ち去った。





「あーいっぱい汗かいたからゆっくりお風呂につーかろっ! 正勝は覗いちゃ駄目だからね!」
「のっ、覗きなど致しませんっ!」

「あははっ! 目隠ししてるとはいえ、いっつも洗い場まで一緒にいるのに真面目だなぁ! ……あ、あれ誰だろ? ちょーイケメン! タイプかも!」

 湯殿に向かう途中、元の通り楽しく会話する二人だったが、遠くの廊下に背の高い凛とした佇まいの見目麗しい美しい青年が数人の従者を連れ立って奥の部屋に入っていくのが見えた。
 花浅葱色の生地に金糸で梔子が描かれた着物を身に纏う青年の髪は黒、というより藍にも見える。
 背は恐らく正勝より高い。
 髪型はアシンメトリー。随分とお洒落さんである。

 というか、ここの人達誰も髷結ってないけどいいわけ? と思う竹千代だった。

 まぁ、いいけどね。今更だもんね。

 視力のいい竹千代は瞳を輝かせにやりとほくそ笑む。

「え? いけめんってなんですか? たいぷって??」
「ああ、こっちのこと。新しく入った母上の側室候補かな? いや、でも母上もう子供産めなくない? それにちょっと若い感じだった」

 疑問符だらけの正勝を余所に竹千代は考えを巡らせていた。
 一瞬見ただけだったが、ここには居ないタイプのイケメンだった。

 人を惹き付けるような濃い藍の瞳、高い背丈(この大奥に居るもの達は皆そうだが)、大きく薄い唇。
 身体つきは中肉、ぴんと張った背筋は普段からそうしているのだろう、歩く様がどこか優雅でつい眼を奪われる。
 歳は二十前後、耳にはピアス(イヤリングかも)なんかしちゃったりして、オシャンティー。
 この世界ちょっと所々おかしいなと思いつつも、楽しいからいいやと竹千代は気にしない。
 正勝が可愛いイケメンならば、彼は正統派イケメン。
 福には適わないが、男の色気は中々のものだ。
 イケメン探知機のついた私がいうのだから間違いない。

(だが、はて……? どこかで見たことがあるような? まぁ、いいか)

 竹千代は鼻息を荒げ、満面の笑みを浮かべた。
 
(よぉし! 見に行ってみよう!!)
 
「あっ! 竹千代様駄目です!!」
「いーからいーから!」

 悪戯心が芽生えた竹千代はそう決めて、止める正勝を無視してこっそりとイケメンの消えた奥へと向かったのだった。
 
「えーっと、ここを曲がって……探検しなれてはいるけど、ここって広いよねー正勝」

 竹千代が辺りの様子を伺いながら大人達に見つからないよう、部屋の角に身を寄せながら、後ろについて来た正勝に声を掛ける。

「竹千代様……早く湯殿に参らねばまた父上……いや、春日局様に叱られますよ?」

 何だかんだと竹千代に弱い正勝は、先程の人物にさして興味はないが、竹千代の気が済むならと大人しく付き合っていた。

「大丈夫だって。福のこれからの予定は把握してるから。今日は何かお偉いさんと会うとか言ってたじゃん」

 竹千代は今朝方のことを思い出しながら正勝に伝えていく。


 それは今朝方の竹千代が目覚めた時の出来事――――。
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