逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【転生・元服編】

023 夜が明けて……

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「おはようございます、家光様……!?」

 家光を起こしに来た正勝は寝起きの家光を見て驚いた。
 というより、その隣にいた人物に驚いた。

「ん……おはよう」
「むにゃ、家光しゃま……」

 起き上がり上掛け布団をぱたんと倒し、寝ぼけ眼で可愛く目を擦る家光の隣に、昨日会ったばかりの月花が家光作の抱き枕を抱え丸まって眠っていたのだった。

「こ、これは一体どういう……」

 正勝はわなわなと震えていた。
 無理もない。同性ではあるが昨日出会ったばかりの人間が家光様と褥を共にしているなんて!

 斬るっ!!

 と思ったものの、

「あー、月花ここで寝ちゃってたんだね。昨日遅くまで話し込んでてね、その内眠くなっちゃってそのまんま……」

 ふわぁあああと、大きな欠伸をしながら背伸びをする家光に免じて何とか堪える。
 それに、ここにある刀は家光のものだから勝手に使うわけにもいかない(普段自分のは別室に置いてある)。

「……月花、起きなさい。主君より長く寝るとは何事ですか」
「あ、いーよ、私があっちに行くから」

 正勝が月花を揺り起こそうとするが、家光は立ち上がって隣の部屋へと移動するのだった。

「家光様、良いのですか? 甘やかすと後が大変ですよ?」
「大丈夫大丈夫、月花はいい子だから。ぎりぎりまで寝かせてやって」

 正勝の心配事も気にせず、家光は寝巻きの帯を取り去り、いつも通りに脱ぎ始める。

「ここは月花にお任せくださいませ!」

 正勝が家光の脱いだ着物を受け取ると、突如背後に月花の声がして振り返った。

「え?」

 家光と正勝が同時に背後に立つ月花を見つける。

 あれ?

 さっきまで隣の部屋で寝てたはずじゃ?

「家光様の柔肌を殿方にお見せするわけにはいきませんから。それは正勝様でも同じですよぉ?」

 やだなぁ~と、素早く呆気に取られたままの正勝の背を押して、褥のある隣の部屋へと追いやった。

「え?」

 正勝は状況把握が出来ず、隣の部屋で立ち尽くす。

「肌襦袢にお着替えして、それから着付けですよねっ。これから肌襦袢までは月花がさせていただきますね。家光様はずっと正勝様にお着替えを任されていたのですか?」

 月花が正勝の持って来た肌襦袢を家光に着せていく。

「あ、ありがとう。うん……そうだね、ここには男性しかいないからね……」

 家光は月花に言われた通りに頷く。

 そうなのだ。
 着替えは全て、人任せ。

 ここは男女が逆転した大奥(正勝のような例外もあるが)。
 お世話するのは男ばかりなのである。

「まぁ! そんなことさせてたら、いつか家光様襲われてしまいますよぉ」

 月花は隣室に居る正勝に聞こえるようにわざと大きな声で話す。

「え? そ、そうかな? でも、するときはいつも目を瞑ってくれてるし……」

 家光は十歳を過ぎた頃から実は恥ずかしかったのだが、自分の親もそうしているからそれが普通だと思い込んでいたのだが、やっぱりおかしいのかと改めて気付くのであった。

「そんなの宛てになんないですよぉー。家光様のお胸大きいですし、こっそり見てますって!」

 月花はにやりといやらしい笑みを浮かべて家光の背後に回る。

「そ、そうかなぁ?」

 家光は気恥ずかしくて、自分の胸を見下ろし、思う。
 何とも大きく育った立派な胸である。

 正直、ここまで育たなくても良かったが、神様はすごい。

(ああ、貧乳だったあの頃は肩凝りとは無縁だったのに。
 贅沢な悩みだわ。

 そうだよね、こんな胸を晒してるんだわ。
 恥ずかしいと思うのが普通だよね……。

 そういえば、私このおっぱいを色んな人に晒してたんだな……。
 春日局や正勝はもとより、嫌いな孝にまで。

 恥ずかしすぎる……)

 少し恥じらいを憶えた家光であった。
 そうこうしているうちに、月花は家光の胸を後ろから鷲掴みにする。

「あっ、ちょっ、やだっ、月花どこ触ってっ!?」
「家光様っ!?」

 ばんっと、勢いよく襖が開き、正勝が鋭い視線で月花を睨む。

「本当、大きい~♪ 揉み応えありますね!」
「あんっ……いやぁっ!」
 家光は月花に胸を揉みしだかれ、目には涙が滲み頬を赤らめていた。


「月花ぁっ!!」


 今にも飛び掛らん剣幕で、正勝は月花を家光から剥がす。

「……ま、正勝ぅ……」
「大丈夫ですよ、家光様」

 家光は怖かったのかすぐに正勝に抱きついてきたのだった。
 正勝は怯えた家光を自分の背後に隠してよしよしと頭を撫で安心させると、月花を再び睨みつける。

「う……正勝様、冗談ですよぅ、そんなに怒らないでくださいませぇ……。家光様も、ごめんね?」

 蚊の鳴く声で、悪乗りしすぎたことを詫びる月花であった。

「……うん……許す」

 正勝の影からまだちょっぴり涙目の家光が顔を出して、月花を許す。
 家光のそんな様子が可愛く思えて、月花は身を乗り出すと手を差し出した。

「……な、仲直りしましょう?」
「……うん、もう、しないでね?」

 正勝が訝しい顔をするも、家光が手を出すので仕方なく、その様子を見守る。

「はい! もう無断ではしませんから安心してください!」

 月花は家光の手を取り、ぶんぶんと乱暴に握手を交わした。

「何?」
「あ、いえっ、もう、いたしませんっ! はいっ!」

 月花の言動を一言一句聞き逃さなかった正勝はじろりと月花を見下ろすと、正勝の視線に春日局の眼を思い出したのか、彼女の身体が強張った。

 その一方で、家光はこう思う。

(女の人にあんなことされるなんて思わなかった!! これは衝撃的過ぎる!!
 てか、私ってかなりのビビリじゃね?

 ううん、
 それよりも、

 私って、ひょっとして、男女問わず狙われてたりする!? ……なーんてな♪)

 と考えたが、いつもの調子で気にしないのだった。
 本当は当たってるんだけど。


「やはり、お着替えは私が担当した方が良いのではないでしょうか?」


 正勝が家光の旅支度を整えながら、話す。

「うん……でも、月花の言ってることも最もだと思う」

 恥じらいに気付いた家光は月花に言われたことは最もだと思っており、それを正勝に伝えるのだった。

「え……」
「あのね、正勝は男の人だから、やっぱり、肌襦袢までは月花に頼もうと思う。あ、別に正勝を信用してないわけじゃなくて、何となく、その、恥ずかしいから……」

 少々ぎこちない言い方で、恥じらいながら言う家光に正勝は、

「……はい、それも、そうですね」

 自分を少し意識してくれたものだと思い、快く承諾するのだった。

「……では、またすぐにお迎えに参ります」
「うん、わかったー」

 一通りの準備を終えて、春日局に指示を仰ぎに正勝は月花と共に家光の部屋を出る。

「正勝様、先程は失礼しました」
「ん?」

 前を歩く正勝に、月花は突然立ち止まって頭を下げた。

「……正勝様は家光様をお慕いしているご様子。実は私、春日局様より、家光様に女としての恥じらいに気付かせるよう仰せつかっていたのです。少しやり過ぎた気もしますが……」

 先程とは違う言い方に正勝も立ち止まり、振り返った。 
 そこには家光の前とは違う真面目な顔があって、正勝は面食らってしまう。

「そうなのか……それで……」

 正勝は先程の月花の行動に合点がいったように、頷く。

(春日局様は月花に着付けをさせ、私から家光様を少しでも遠ざけようとなさっているんだな)

 そのことに気付くのである。

「貴方様から離すようにも言われていると気付いておいでかと思いますが……」

 正勝の出した結論を裏付けるように月花も同じことを零す。

「あー、うん、春日局様ならそうするだろうね」

 春日局なりに自分を心配されているのだろうと正勝は思うものの、正直ありがた迷惑だった。

「……ですが、家光様があのように怯えられたのは想定外でして、あれでは引き離しようがないので致し方ありません。それに、どちらかと言えば家光様が恥じらいに気付くことの方が大事でしたので、春日局様もご納得くださるはずです」

 先程の家光を思い出したのか、ふわりと表情を和らげたあとで、真っ直ぐに正勝を見る。

「……君って名役者だねー……」

 月花の様子にはー、と感心する正勝であった。

「あ、いえ、家光様が可愛いのでつい、構ってしまいたくなっただけですよ。それにどちらかというと、素はさっきの方なので、じゃ!」

 と、言いたいことを言うだけ言って、月花は消えてしまった。

「なっ、一体君は何なんだ――!!!?」

 一瞬で消えた月花の居なくなった廊下で叫ぶ。
 すると、正勝の目の前に、

「忍びです!」

 梁に足を掛け宙吊りのまま月花がにっこりと笑って現れたかと思うと一瞬で消えた。

「うわっ!?」

 正勝はそれに驚いて床に尻餅をついたのだった。

「全く、朝から騒々しいぞ正勝」

 正勝が尻餅をついた横で襖が開くと、書簡を手に春日局が自分を見下ろしていた。

「申し訳ありませんっ、家光様、支度完了いたしました」

 正勝は慌てて座り直し、座礼する。

「わかった。秀忠様も先程準備が完了したとのこと。では、外で待つと伝え、お連れしろ」
「はい」

 春日局は書簡に目を通しながら正勝に告げ終えると、更に、宙を見上げて続ける。

「ああ、それから月花、お前もきちんと変装するように」
「はーい」

 姿は見えないものの、天井裏から月花の声が聞こえ、春日局は再び部屋に戻っていった。

「……忍びって怖い」
「そうですか?」

 正勝は立ち上がり、部屋に戻ろうとすると、突然背後から声が聞こえたのだった。

「……音もなく後ろに立たないでくれませんか?」

 すぐ後ろに立つ声の主に正勝は振り返る。

「正勝殿もご一緒なさると聞いて、安心しました。月花だけだと、家光様の御身が心配ですからね」

 そこに立っていたのは風鳥だった。
 風鳥はほっとしたような顔で正勝を見ていた。

「風鳥が居るのに?」

 正勝は首を傾げながら風鳥に訊ねる。

「あ、いえ、そういう意味では」
「……あー……そういうことか」

 どこか不味そうな顔をして風鳥が首を横に振るので、正勝は思い当たって、頷いた。

「月花は殊の外家光様を特別視しておりまして……護衛にあたっては問題ないのですが、なんというか、盲目なのです」

 風鳥は、正勝様はもう気付いてるかもしれませんが、一応説明しておきますという風な口ぶりで、続ける。

「それ、何だか誰かと似ている気がする」

 どこかでそういう人を見た気がするというか、それは自分のことだと正勝は思い当たる。
 月花のようには振舞っていないはずだが、傍から見たらそんな風に見えるのかと思うと、何だか少し気恥ずかしい。

「はは、そうですね。誰でしょうかね」

 正勝の様子に風鳥はからっと笑って、素知らぬ振りをしたのだった。

「……家光様は私がお守りします」

 正勝はなんとしても自分が家光様を守らねばと心に誓う。
 護衛の月花が家光様を狙っている(別の意味でだけど)なんて本末転倒もいいところだ。
 何故春日局様は風鳥はともかく、月花のような者を護衛になど。
 自身にはわからないことが多すぎると、正勝は小さくため息を吐いたのだった。
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