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【京都・昇叙編】
101 反動
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「…………居るんやねぇ……。まぁ、居るやろね……、どこにでも一人は居るもんや……。ご愁傷様」
眉をハの字にし、慰めの言葉を云うわりに後水尾天皇の声は愉快さを孕むように明るい。
「ぅぅ……(何で楽しそうなのよぅ……)」
「……せやけど、あんたなら大丈夫やから安心しとき」
「……っ、根拠のない大丈夫とかやめてもらえます?」
「……ん? 朕に諫言するか」
これまで和やかに進んでいた会話が途切れ、後水尾天皇の眉根がぴくりと動く。
「……諫言? いえ、意見です。私、将軍なので後水尾天皇とは同等かと」
家光は内心怒らせたか心配するものの、秀忠の後を継ぐ身としては引くわけにいかず、互いの身分は同等と言ってのけた。
「…………ふーん。……成程なぁ。あんた云うなぁ……(ますます気に入ったわ……)」
“ふっふっふ”と、愉快そうに後水尾天皇の唇が歪む。
「……っ、お話は以上ですか? 以上でしたらそろそろ戻りたいのですが……」
家光はにやにやと嗤う後水尾天皇からの視線に居心地の悪さを感じ、風鳥をちらりと見る。
すると、風鳥は小さく頷いた。
「……ああ……、そうやね。そろそろ、そんな時間か……。お開きにしよか。……久脩」
「はい、畏まりました」
後水尾天皇に顎で指示され、久脩が風鳥の傍に寄ると小声で告げる。
「……大きな鼠さん。上に居る小さい鼠さんに戻るよう云って頂けますか? ……家光様は、長い時間座して足が痺れて歩けないという体で、お願い致します」
「え?」
「ん?」
久脩の言葉を聞き終え、家光と風鳥の二人が顔を見合わせた途端。
「…………っっ!?(あっ、脚が……!!)」
がくんっ!
家光の膝が砕け、畳に落ちたのだった。
畳に触れる寸での所で久脩が家光の腕を支えると、そっと座らせる。
「家光様っ」
風鳥は慌てて家光の様子を窺う。
「あ……、えと、大丈夫。何か急に膝が抜け……、っ……いや……、すっごい……。……これって…………、はぁ、はぁ……」
家光は両手を畳に付いて辛そうに呼吸を繰り返す。
(何なのっ? 急に身体が……、……重いんだけど……っ!)
「家光様。先程解除した呪の反動です。明日には元に戻るでしょう」
「っ……ん、わかった。はぁ、はぁ……めちゃくちゃだるいねこれ……はぁ、はぁ……。身体が重い……」
「そうですね……、家光様に掛けていたものは期間が長いですから。その分反動も強いのでしょう」
「…………呪なんて無闇に使うものじゃないね……はぁ、はぁ……」
「勿論です。元々長期間向きではないものですし」
「ぐ……。そうなんだ……」
辛いのか家光の身体が畳へと沈んでいく。
終には畳に潰れた蛙のように伏せてしまった。
「っ、家光様っ」
「だ、大丈夫。何か、身体に重石が載ってるみたいにだるいだけ」
「っ……そ、そうですか……」
風鳥の心配する姿に家光は畳にへばり付きながら、目を薄っすら細めて微笑む。
「さて、大きな鼠さん?」
「っ、月花!」
風鳥は天井を見上げる。
「あ。……ああ、そうでした。大きな鼠さん。お互いのため、天子様と鼠さん達はお会いしていないことにしておいて下さい」
ここでの出来事は聞かなかったことに、と。
久脩の細く長く美しい指が一本立てられると、口元に添えられ“ふっ”と妖艶に微笑んだのだった。
艶のある所作に家光ならうっとりと見惚れるのだろうが、残念ながら家光は這い蹲っていて見ることが出来なかった。
「っ、月花! 聞いていたかっ? 春日局様に御報告を!」
風鳥が天井に向け告げると、カタカタッと小さな音がして移動したのか静かになる。
すると、久脩が口を再び開いた。
「……行ったようですね。では、鼠さん、家光様を運んで差し上げて下さい」
「久脩」
久脩が風鳥に告げるタイミングで、後水尾天皇が声を掛けてくる。
「……何でしょう?」
「そこの二枚目な鼠の治療をしたり。血ぃ流したままやと何や詮索されるやろ?」
久脩と風鳥が後水尾天皇に視線を移すと、彼女は優しげな瞳で二人を見ていた。
「ああ……、そうでしたね。鼠さん、妄りに式紙に触れてはいけませんよ。怪我をしますから」
「式神……? っ、い、いやっ、私は大丈夫ですから!」
久脩が遠慮する風鳥の傷にどこから出したのか軟膏を塗って布を巻いていく。
「っ……け、怪我……? 風鳥怪我したの……? ……あ、そ、そういえば……」
家光が畳に這い蹲りながら風鳥を見上げると、彼の着物が所々切れて、切り傷が複数個所付いていた。
それを久脩が処置していく。
「…………幸い、殆ど掠り傷のようですね」
「……あの人形はあんた……、あ、いえ貴方が……?」
「はい。あなたを部屋に下ろさないよう見張らせたのですが、無駄に終わったようです」
風鳥の処置が終わると、久脩は人型の紙を数枚人差し指と中指の間に挟んで見せて、“ふぅ”と紙に息を吹きかけた。
すると、人形が久脩の指から飛び立ち、宙に浮いて風鳥の周りを舞い始める。“配慮のつもりだったのですが”と、お詫びなのか人形達はくるくると垂直方向に輪を描くよう宙返りを披露する。
(はぁ~~……紙の人形が踊ってる~!)
家光はキラキラと人形の舞う姿を眺めていたのだった。
風鳥も目の前を舞う人形に目を奪われている。
僅かの間、舞を披露すると人形達は久脩の元へと戻り、彼の手の中へと収まり消える。
(消えたー!?)
マジックみたいだなーと家光は目を瞬かせていた。
風鳥も一驚し、目をぱちくりさせる。
「式神はすばしっこくて、そこそこ強い奴やったはずやけども、鼠ちゃんはあれが見えたんやねぇ」
「……っ、……確かに……早かった……です」
後水尾天皇がにやにやと、ねっとりした視線で風鳥に話し掛けると、風鳥の声は上擦ったのだった。
「…………ええなぁ~」
「え?」
「ふふ……。朕が忠告したにも関わらず、家光はんを心配して下りて来はったんやろ?」
「……早とちりだったようで……面目ない……(何でそんな愉快そうなんですか……)」
……このお方……、何か苦手だな……。
と。
顎を上げ妖しい瞳でにやつき、自分を見てくる後水尾天皇の視線が、さっきから纏わりつくようで居心地が悪いのか、風鳥はぶるっと身体を小さく震わせた。
眉をハの字にし、慰めの言葉を云うわりに後水尾天皇の声は愉快さを孕むように明るい。
「ぅぅ……(何で楽しそうなのよぅ……)」
「……せやけど、あんたなら大丈夫やから安心しとき」
「……っ、根拠のない大丈夫とかやめてもらえます?」
「……ん? 朕に諫言するか」
これまで和やかに進んでいた会話が途切れ、後水尾天皇の眉根がぴくりと動く。
「……諫言? いえ、意見です。私、将軍なので後水尾天皇とは同等かと」
家光は内心怒らせたか心配するものの、秀忠の後を継ぐ身としては引くわけにいかず、互いの身分は同等と言ってのけた。
「…………ふーん。……成程なぁ。あんた云うなぁ……(ますます気に入ったわ……)」
“ふっふっふ”と、愉快そうに後水尾天皇の唇が歪む。
「……っ、お話は以上ですか? 以上でしたらそろそろ戻りたいのですが……」
家光はにやにやと嗤う後水尾天皇からの視線に居心地の悪さを感じ、風鳥をちらりと見る。
すると、風鳥は小さく頷いた。
「……ああ……、そうやね。そろそろ、そんな時間か……。お開きにしよか。……久脩」
「はい、畏まりました」
後水尾天皇に顎で指示され、久脩が風鳥の傍に寄ると小声で告げる。
「……大きな鼠さん。上に居る小さい鼠さんに戻るよう云って頂けますか? ……家光様は、長い時間座して足が痺れて歩けないという体で、お願い致します」
「え?」
「ん?」
久脩の言葉を聞き終え、家光と風鳥の二人が顔を見合わせた途端。
「…………っっ!?(あっ、脚が……!!)」
がくんっ!
家光の膝が砕け、畳に落ちたのだった。
畳に触れる寸での所で久脩が家光の腕を支えると、そっと座らせる。
「家光様っ」
風鳥は慌てて家光の様子を窺う。
「あ……、えと、大丈夫。何か急に膝が抜け……、っ……いや……、すっごい……。……これって…………、はぁ、はぁ……」
家光は両手を畳に付いて辛そうに呼吸を繰り返す。
(何なのっ? 急に身体が……、……重いんだけど……っ!)
「家光様。先程解除した呪の反動です。明日には元に戻るでしょう」
「っ……ん、わかった。はぁ、はぁ……めちゃくちゃだるいねこれ……はぁ、はぁ……。身体が重い……」
「そうですね……、家光様に掛けていたものは期間が長いですから。その分反動も強いのでしょう」
「…………呪なんて無闇に使うものじゃないね……はぁ、はぁ……」
「勿論です。元々長期間向きではないものですし」
「ぐ……。そうなんだ……」
辛いのか家光の身体が畳へと沈んでいく。
終には畳に潰れた蛙のように伏せてしまった。
「っ、家光様っ」
「だ、大丈夫。何か、身体に重石が載ってるみたいにだるいだけ」
「っ……そ、そうですか……」
風鳥の心配する姿に家光は畳にへばり付きながら、目を薄っすら細めて微笑む。
「さて、大きな鼠さん?」
「っ、月花!」
風鳥は天井を見上げる。
「あ。……ああ、そうでした。大きな鼠さん。お互いのため、天子様と鼠さん達はお会いしていないことにしておいて下さい」
ここでの出来事は聞かなかったことに、と。
久脩の細く長く美しい指が一本立てられると、口元に添えられ“ふっ”と妖艶に微笑んだのだった。
艶のある所作に家光ならうっとりと見惚れるのだろうが、残念ながら家光は這い蹲っていて見ることが出来なかった。
「っ、月花! 聞いていたかっ? 春日局様に御報告を!」
風鳥が天井に向け告げると、カタカタッと小さな音がして移動したのか静かになる。
すると、久脩が口を再び開いた。
「……行ったようですね。では、鼠さん、家光様を運んで差し上げて下さい」
「久脩」
久脩が風鳥に告げるタイミングで、後水尾天皇が声を掛けてくる。
「……何でしょう?」
「そこの二枚目な鼠の治療をしたり。血ぃ流したままやと何や詮索されるやろ?」
久脩と風鳥が後水尾天皇に視線を移すと、彼女は優しげな瞳で二人を見ていた。
「ああ……、そうでしたね。鼠さん、妄りに式紙に触れてはいけませんよ。怪我をしますから」
「式神……? っ、い、いやっ、私は大丈夫ですから!」
久脩が遠慮する風鳥の傷にどこから出したのか軟膏を塗って布を巻いていく。
「っ……け、怪我……? 風鳥怪我したの……? ……あ、そ、そういえば……」
家光が畳に這い蹲りながら風鳥を見上げると、彼の着物が所々切れて、切り傷が複数個所付いていた。
それを久脩が処置していく。
「…………幸い、殆ど掠り傷のようですね」
「……あの人形はあんた……、あ、いえ貴方が……?」
「はい。あなたを部屋に下ろさないよう見張らせたのですが、無駄に終わったようです」
風鳥の処置が終わると、久脩は人型の紙を数枚人差し指と中指の間に挟んで見せて、“ふぅ”と紙に息を吹きかけた。
すると、人形が久脩の指から飛び立ち、宙に浮いて風鳥の周りを舞い始める。“配慮のつもりだったのですが”と、お詫びなのか人形達はくるくると垂直方向に輪を描くよう宙返りを披露する。
(はぁ~~……紙の人形が踊ってる~!)
家光はキラキラと人形の舞う姿を眺めていたのだった。
風鳥も目の前を舞う人形に目を奪われている。
僅かの間、舞を披露すると人形達は久脩の元へと戻り、彼の手の中へと収まり消える。
(消えたー!?)
マジックみたいだなーと家光は目を瞬かせていた。
風鳥も一驚し、目をぱちくりさせる。
「式神はすばしっこくて、そこそこ強い奴やったはずやけども、鼠ちゃんはあれが見えたんやねぇ」
「……っ、……確かに……早かった……です」
後水尾天皇がにやにやと、ねっとりした視線で風鳥に話し掛けると、風鳥の声は上擦ったのだった。
「…………ええなぁ~」
「え?」
「ふふ……。朕が忠告したにも関わらず、家光はんを心配して下りて来はったんやろ?」
「……早とちりだったようで……面目ない……(何でそんな愉快そうなんですか……)」
……このお方……、何か苦手だな……。
と。
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