逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【京都・昇叙編】

102 可愛い鼠

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「家光はんの傍にこんな護衛ええおとこが居るとはなぁ。朕の護衛も複数居るけど、そないに大事にしてくれる者は一人も居らへん」

「天子様、私はいつでも命を捧げますよ……?」


 後水尾天皇が風鳥を見ながら羨ましそうに告げると、久脩は彼女に向かってすぐさま目元を優しげに緩めて語り掛けるのだが……。


「……ふんっ、知らん。あんたの三文芝居は見飽きたわ」

「………………申し訳御座いません」


 後水尾天皇は急に不機嫌になり、久脩の視線を拒否するようにそっぽを向いてしまった。


「朕はここに居るから、さっさと送り出したりっ!」


 後水尾天皇は、いつの間にか丸めた懐紙を幾つか久脩に投げ付けていく。
 久脩はそれを黙って受けていたのだった。


「…………嫌われてしまったようです」

「ぇ……(だ、大丈夫なのかな……?)」


 後水尾天皇に紙玉を投げ付けられた久脩は、弱り目で呟くと、「参りましょうか」と、家光の傍までやってくる。


「失礼致します」

「え、わっ……!(わぉっ、抱きかかえられちゃった!)」


 久脩は畳に伏せる家光を軽々と抱き上げる。


「…………家光様、軽いですね」

「そ、そう……? 久脩さんが力持ちなだけなんじゃ……って……えっ!?」


 久脩が優しい眼差しで見下ろすと、家光は目を見開いた。


(ちょ、久脩さんっ、距離近いっ、近いって! はぁ~、いい匂いするっ、っ、胸板厚い、美しすぎるっ!!)


 意図せず鼻の穴が広がり、つい、くんかくんかしてしまった家光だったが、次には鼓動が早くなるのを感じた。


(何だこれ、何だこれ、何だこれーっ!? 胸がぎゅううううっってっ!! ぎゅうぅぅぅってするぅ~!!)


 何か恥ずかしいっ!!


 家光は間近に迫る久脩を直視出来ず、視線を外す。
 その先には風鳥が居り、丁度家光と視線が絡んだ。


 風鳥は眉間に皺を寄せ、黙っている。




「…………っ?(風鳥……?)」


 風鳥の様子がおかしいと気付くも、家光は理由わけがわからず、瞬きを何度か繰り返した。


「……鼠さん。お願いいたします」

「……はい、御返し頂きますよ」


 久脩が風鳥に家光を渡そうとすると、ぶすっとしたような顔で告げる。
 久脩は目をぱちくりさせた。


「風鳥……? 何怒ってるの……?」

「っ、…………、……怒ってはいません……。さぁ、こちらに御渡しください」


 家光が首を傾げて訊ねるも、風鳥は静かに否定し、久脩に催促する。
 そうして、久脩がそっと風鳥の腕に家光を乗せ渡すと、彼は二人から距離を取った。

 すると、


「ふふっ、家光様は鼠さんに随分慕われているのですね……」

「そう……? 嫌われてはいないと思うけどね……」


 久脩に云われて家光が“ははは”と小さく笑う。
 風鳥は自分の腕の中にすっぽりと収まる、小さくて愛らしい彼女を見下ろし、特に言葉を発することはなかったが、心中は穏やかではなかった。




 嫌ってるわけねーだろっ!
 他の男に惚けやがってっ!


 って……、俺はこんなこと言う資格ないんだった。


 くそっ、
 駄目だ、


 やっぱ家光が他の男を見つめたりしてんのを直に見んのはさすがにきついっ!!




 と、風鳥は心の中で叫びつつ、顔には出さず無表情を貫いて、家光を見下ろしていた。


「…………?(あ……風鳥も、イケメン……なんだった……)」


 風鳥から見つめられ、それに気付いた家光の頬が不意に色付く。

 とくとくとく、と家光の鼓動が早まる。


「え……」

「っ、あんまり見つめないでよ……」

「え……?」

「は、恥ずかしい……」

「っ、え、……あ、はい……。…………っ!?(な、何だこの反応……!?)」


 家光は久脩の時と同様、風鳥の視線からも逃げるように、瞳を伏せてしまう。
 今までと違う家光の様子に風鳥は驚いた様子で、釣られて頬を赤く染めた。



 何だ……!?
 俺の顔見て、赤くなってんのか……!?

 滅茶苦茶可愛いんだがっ!!



 と、風鳥は照れる様子の家光をじっと見つめたのだった。







「では、参りましょうか」


 久脩の案内で、部屋から出る。
 廊下に出て後水尾天皇に軽く会釈し、襖を閉じ掛けたその時……、


「……家光はん。朕の願い、必ず聞き届けてもらうで? ……でなければ、可愛い鼠ちゃんがどうなるかわかってるやろなぁ?」


 後水尾天皇が妖しげな視線を二人に投げ掛け、艶のあるぽってりとした唇の両端が上がる。
 一見優しい笑顔に見える笑みも毒を含むように感じられて、風鳥は動きを止めた。


「……ん? っ、わかってます。心配しなくても、ちゃんと文を送りますからっ!(お茶誘うくらい、いくらでもするってば!)」



 何で脅すような物言いするかなー。
 あー、ほらほら、風鳥が怯えて……?


 ん?





 家光が自分を抱えている風鳥の腕が急に強張った気がして頭を上げる。
 すると、彼は後水尾天皇を見ながら金縛りにあったように微動だにしないで、額に汗を滲ませていた。


「…………ん?」


 風鳥の様子がおかしい気がして、再び後水尾天皇へと視線を移してみれば、彼女は唇を窄めて投げキッスを送っているではないか。


「っ、後水尾天皇っ! 私の護衛をからかわないで下さいっ!」

「あははっ! 悪い悪い。あまりにも可愛い鼠やから、つい」

「失礼しますっ! 久脩さん閉めて下さい!」


 “はい”と、久脩が襖を閉めた後も「あははははっ! かーわーい~!!」と愉快そうな後水尾天皇の高笑いが聞こえたのだった。



*



「…………申し訳ありません」


 閉じられた襖の奥からまだ“くすくす”と、微かに後水尾天皇の笑い声が聞こえる中、久脩が軽く頭を下げてくる。


「いや、別に久脩さんが謝ることじゃないですよ」

「……鼠さんを余程気に入られたようです」


 ちらっと、久脩が風鳥を見やるが、風鳥は先程の金縛りから未だ冷めない様子。瞬きすらしない。


「……鳥、……風鳥? 風鳥、大丈夫?」

「…………、…………ぁ。はい……、ま、参りましょう……(あの方に見られると、身体が勝手に固まって……)」


 何度か家光に呼び掛けられ、風鳥はやっと口を開いたのだった。
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