逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【新妻編】

173 もう、許してあげるっ

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 孝の腕は布団に伸びたままで布地を掴み、決して家光に触れようとはしない。


「っっ!?(こ、告白ぅぅっ!?)」


 ――ちょ、孝、泣い……!?


 毎度のことながら、孝には驚かされることばかりである。
 孝が瞳に涙を滲ませているではないか。

 ……家光は突然の告白に驚きびくりと身体を震わせ身を引いた。


「…………ぁっ、本当に申し訳ないことをしたと思っています。貴女に付けた傷は一つや二つではないことは解っています。もう二度としません。貴女にも貴女の許しが出るまで触れたりしません。だからどうか……お慈悲を頂けないでしょうか……!!」


 家光の反応に孝は怖がらせてしまったのかとはっと目を見開き、再び頭を布団に擦り付け言葉を紡ぐ。


 ――ここで怯えられでもしたら離縁される……!!


 “家光と離縁したくない……!”


 ……孝はこれ以上家光に嫌われたくなかった。

 家光は黙り込んでしまい、孝はこれ以上どう言えば良いのか……次の言葉を探しながらこうべを垂れ続けた。




 ……そうして少しすると。




「孝……あんたさ……」

「……今日この場で許してもらおうとは思っておりません。また機会を改めて謝罪させて下さい。とにかく今夜は私のことはお気になさらずお休み下さい。私は朝までこうしていますから」


 家光の口が開いたタイミングで孝は被せるように告げる。

 ……今すぐに許してもらおうなどと、都合の良いことは考えていない。

 春日局から聞いた話によれば、過去の自分の何気ない言動が幼い家光を傷付けたらしい。
 彼女はその傷を今も引き摺っており、心に影を落としている。

 そんな家光を二度も襲い、怯えさせ、新たな影を背負わせてしまった自分はなんて愚かな男だったのだろう……。

 無自覚で、短絡的。粗暴な振舞い――、口まで悪い……ときた。

 鷹司家では肩身の狭い思いをしていたからか、ちょっと捻くれて育ってしまったが故の所業である――。

 ……家光に嫌われてもしょうがない気がするが、孝は幼い頃家光と初めて出逢った時から、まさか将来の伴侶になる相手だとは知らず、彼女に惹かれていたのだ。再会してから恋に落ちるまで、時間は殆ど掛からなかった。

 今更家の所為にしたところで、どうにもならない。
 ならば――。


 ……家光が望むような男に変われば良いのだ――。


 離縁だけは避けたい孝は謝罪の機会をまた貰い、彼女が許してくれるまで頭を下げ続けるつもりである。


「休めったって……」


 ――人に頭下げさせておいて寝れるかーーい!!


 ……どうすればいいわけ……?


 ずっと頭を下げ続ける孝に家光はどうしたものかと考えあぐねる。

 会う度に自分を乱暴に扱ってくる孝が今日はまだ一度も自分に触れて来ない。
 ……春日局の指導はかなり厳しかったようだ。

 どんな指導をしたのかわからないが、春日局は肉体的な指導は元より精神的指導の方が得意であろう。


(……あの孝がこんなに変わるなんて……、福はいったいどんな指導をしたんだろ…………、――うわっ!! 怖っ……!!)


 ……春日局の冷笑を思い出し、家光は身体を震わせた。

 思えば初夜以降の数週間、今日まで孝と一度も顔を合せなかった。
 奥へと来れば会うことはなくても孝の名前くらい聞こえても良さそうなのに、孝のの字も聞かなかった。

 奥では一時的に居ない者扱いでもされていたのだろうか……。
 どこぞに軟禁・ないし監禁でもして指導したというのか。

 ……鷹司家の抗議文も現在は春日局に丸投げしてしまったから何かあったとしても家光にはわからない。

 そのお陰で家光は孝のことを考えることなく過ごせたわけだが、その裏側で孝は厳しい指導を受けていたということなのだろう……。

 ……春日局が怒ると怖いというのは月花がよく言っているが、家光はそこまで怖いと思ったことはなかった。
 家光にとっては時々怖いこともあるっちゃある養父だが、基本的に春日局は家光の味方である。
 春日局が味方で良かった――家光は本心からそう思う。

 そして、数週間でここまで人の性格って変わるものなのかと驚愕すると共に、家光は春日局の恐ろしさに少しばかり肝を冷やした。


「おやすみなさいませ、家光様」

「いや、だから ずっと土下座されてるのに独り寝るっていうのも何なのさ。あんたも寝ればいいじゃん」

「……私は、お許し頂けるまでこうしています」

「…………」

「……申し訳御座いませんでした。どうぞ、ゆっくりお休みください」


 …………。


 家光は横になる気分になれず、黙って孝を見つめる。


(何なのっ……! こんなの私の方が悪いみたいじゃない……! 気分悪いんだけどっ!?)


 ――上司に怒られ、一晩中土下座で寝ることも許されないなんて、なんてパワハラ……!


 家光の胸がもやもやと。得も言われぬ気持ち悪さが渦巻いた。


「…………はぁ、あぁ……もう」

「…………?」

「……もう、いいよっ! もう、許してあげるっ!! 今までのこと、全部なかったことにしよっ!!」

「ぇ……あ……、…………」


 諦めたような溜息の後で、家光が半ば投げやりに許容の言葉を投げ掛ける。
 それに対し、孝は一瞬顔を上げようとしたが黙り込み、頭を上げることはなかった。


「許してあげるから、顔上げなよ。さっきからあんたらしくないよ。孝、あんたはいつも自信家で、高慢ちきなヤツだったじゃん。今更そんな殊勝な態度取られても違和感あるわ」

「ぁ……、っ……俺……あ、私は……まだ未熟な者故……」


 家光の言葉に孝は申し訳なさそうに恐る恐る頭を上げるが、家光と目を合わせ瞬間嬉しそうな顔をするもすぐに目を伏せた。

 いつもは上から目線で凝視してくる癖に、目を落とすとは――。


 ……家光は気持ちが悪くて仕方ない。


「っ、あのねぇっ!! 私が許してやるって言ってんだから、その言い辛そうな自称、元のに戻しなよ! あんたがなんて言うの変だよ」

「……い、家光様がそう、仰るなら……」


 ……おずおずと。
 孝は目線を上げて、家光を窺い見る。


 “自称をに戻していいんですか……?”と孝の瞳が不安気に揺れていた。
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