逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【新妻編】

198 奥の性事情

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「お前の性事情なんて知るか。俺について来た時点で独り身確定だろうがよ……」

「このまま女体を抱かずにいたら干乾びる一方ですよ! 孝様が家光様とお出来にならないんだから、他で発散するしかないではないですか!!」

「発散って……。俺が出来ないのを良いことに申請したんだろうが……!」

「ぐ……、わ、私は孝様を思ってですね……!」


 お前の腹などお見通しだ――と、孝は上臈御年寄の男に軽蔑の眼差しを送った。
 上臈御年寄の男は冷や汗を掻き掻き引き攣り笑いを浮かべる。




 ……この世界の大奥の男達は大まかに分けると二種類存在し、表向き・・・禁欲を命じられている。

 二種類の内一つは去勢された男達、もう一つは去勢されていない男達だ。

 去勢された男達が可哀想だという声も一部あるが、去勢された男達は皆自ら志願した者で構成されていた。

 女に嫌気が差した、男が好きだから美男の集まる奥に勤めたい、家での厄介払い、金が必要……と理由は様々だが中々の好待遇の為、人気があったりする。
 御目見得以上、且つ、幾つかの条件が合わないとなれない……といった制限はあるものの、なりたいと名乗り出る者は少なくない。

 通常奥勤めはほぼ三十路前の若い者ばかりなのだが、去勢された男達は一生勤めることが許されており、高給が約束されている。
 主に子を既に成し、子はもう要らないなどといった男達が地方から出て来て志願することが多い。

 一方で通常の男性機能を持つ男は二十歳前後の若者で、家光の相手候補であったり、年季奉公の期間限定であったり、いずれはどこかに輿入れする者達だ。

 ……若い男達が禁欲生活を強いられるのは酷だが、表向きそうなっているだけで、実は春画の配布や、月に一度公娼を城に召喚することを認めるという公娼召喚制度がある。

 公娼とは公儀幕府が認めた娼妓のことだが、その公娼を大奥に召喚する場合には幾つか条件がある。
 奥を管理する春日局に申請しなければならないことはもちろん、召喚する部屋が決められていること、召喚費用を負担しなければならないこと、公娼と寝た場合は後に身体検査の義務付け――等々、少々面倒だったりするものの、御目見得以上で利用する者が多かった。

 やはり高給取りな御目見得以上ならではなのだろう。御目見得以下では毎月公娼を呼ぶ者は少なく、御目見得以上の者に取り入ってお零れをあずかったり等、知恵を巡らせる者もいたりする。
 ……そこは御目見得以下の給料が安い為仕方ない。

 では、御目見得以下の男達は完全に禁欲、又は自慰、衆道に走る――といったことで我慢しているかといえば、そうでもない。
 御目見得以上の男達は城を出ることが許されていないが、御目見得以下であれば奉公の年季によって宿下がり(まとまった休暇)もあり、その際に精を発散させていた。
 ……中には衆道に走り、奥で愛を育んでいる者もいるにはいるらしい。


 だが、正室――御台所が娼妓を呼ぶのは初めてのことである。
 そもそも御台所が娼妓を召喚することなど今までなかった。

 初代将軍家康は、伴侶や側室に娼妓を呼ぶのを禁じていたし、先代将軍秀忠はといえば、伴侶である江が秀忠に執心だったため、娼妓を嫌い、呼ぶことすらしていない。非公式な側室も同様で秀忠に一途であった。

 では三代目将軍の家光はというと……?

 ……申請が通ったということは、側室はともかく、御台所の孝に限って言えば“夫婦で致すことはないだろう、自由にすればいい――”なんて、寛大な措置ではないか……。
 家光が申請のことを知っているかは定かでは無いが、もし既知ならば彼女を慕う孝からすれば別の女を勧められているのと同義――虚しいだけである。


「夏、何人申請したんだ?」


 孝が上臈御年寄の男を“きっ”と睨み付けた後で隣の夏に訊ねた。


「え?」

「夏! 独りであったよな?」


 上臈御年寄の男は、夏に普段は絶対しないであろう ぎこちなさ満載の笑顔を向けるのだが――。


「あ、二名です。内一名は水揚げしたばかりの女性にょしょうを希望する、と……」

「ぐぬう……夏め……ちょっとは空気を読むってことを……」


 夏はにっこりと満面の笑みを浮かべ、澄ました顔で孝に報告をした。
 ……途端、上臈御年寄の男の眉間に皺が深く寄せられ、顔に歪みを見せる。

 上臈御年寄の男、彼は水揚げしたばかりの女性にょしょう――、まだ男に慣れていない女が好みらしい。召喚制度を昨日知り、早速夏を通して春日局に申請したというわけだ。

 自らだけでは心疚しいのか、孝を引き合いに出し、ちゃっかり好みの女を指定した……この際だからと欲をかいたらしい。


「……ちゃっかり自分の希望を申請してんじゃねーか……(この助兵衛め……)」

「……っ、べ、別に私は……」


 孝は呆れ顔で上臈御年寄の男をじろり。
 ……睨まれた男は目を逸らした。


「はぁ……夏、そろそろ商人がやって来る頃だろう。そいつを連れて行け」

「……はい畏まりました! ささ、上臈御年寄さま参りましょうか!」


 大きく溜息を吐いた孝の手が“さっさ”と払われ、上臈御年寄の男をあしらう。
 孝の命を受けた夏は明るい声で二つ返事――、直ぐ様立ち上がり上臈御年寄の男の腕を引いた。
 上臈御年寄の男は夏に促され立ち上がるも、あまり行きたくなさそうである。

 だが、既に夏は彼の背を押しており、力が強いのか足袋が滑り襖まではあと少し……。


「し、仕様がないですねぇ……。孝様いいですか! 敵に塩を送ってはなりませんよ……!」


 全くこの馬鹿力には参ったものですよ……、などと実は夏の力に敵わない上臈御年寄の男は笑顔を引き攣らせながら孝に小言を吐く。


「あーはいはい。今日は注文したやつが届くんだろ?」


 ……孝はうんざり顔だ。


「はっ! そうでした! 夏、行きますよ!」


 孝の言葉に二の足を踏み抵抗していた上臈御年寄の男は思い出した様子で目を見開き笑みを含ませ、自ら襖を開け放ち廊下へと出る。

 注文した何かが届く……また勝手に贅沢をしたのだろう。
 孝の名を使いあれもこれもと購入し、奢侈な生活を楽しむ彼は天井を知らない。
 さっきまでの抵抗など無かったかのように、足取り軽やかにさっさと行ってしまった。




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……という男女逆転の大奥での性事情でございました。
どう考えても若い男が年中禁欲生活は無理ですよ。
ヘイトが溜まり、謀反が起きちゃいますからね。
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