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【城下逃亡編】
245 どっきどきの同棲生活⑤
しおりを挟む「なるほど! これで洗えばよく落ちそうですね!」
「ええ……、よく落ちますよ」
「じゃあ、早速洗っちゃいますね! お水ありがとうございます!」
「はい、では私は片付けに戻ります。終わったらすぐ来ますから濯ぎはお待ちください。文吉さん……」
家光が明るい笑顔で揉み洗いをしだすと、満は優し気にそれを見下ろし文吉に視線を投げる。
この長屋のまとめ役の一人である文吉と一緒なら安心できるのであろう、朝餉の片付けがまだ残っているため、満は一度家に戻るらしい。
「はいはい、姫さまの面倒は任せときな……んふふふ……♡」
「っ……、こほんっ、お、お願いします……」
やり取りの一部始終を見ていた文吉の視線は怪し気だ。
にやにやと探るような目に、満は居心地の悪さを感じたのか、そそくさと去って行った。
「……手洗い久しぶり~……(って何年振りよっ!)」
家光の手の中で褌風ショーツがくしゅくしゅと泡立つ。竹・千代として死ぬ前、生理中に洗ったのが最後だ。
……約二十年振りの手洗いである……。
現在穿いている替えの下着は文吉に借りた“湯文字”と呼ばれる膝上丈の腰巻。褌とも、前世のショーツとも違い、ただ四角い布を巻くだけのため、陰部はスースーしている。
家光も以前使ったことがあるが、ぺろっと捲れてしまうとうっかり陰部が見えてしまう仕様。
他人様の物だが、踝丈の裾よけを湯文字の上に着ているのもあって、陰部が触れない分 貸し借りもそこまで抵抗がない。
以前家光も、褌風ショーツを開発する前に身に付けたことがあった。
「――ちゃん」
「……っしょ……(みちるさんと一緒にいるとパンツ濡れちゃうんだよな~、私の身体ちょっとヤバイよね)」
――でも、濡れちゃうものはしょうがないよね……!
満といると、たまに下半身が疼くことがある。
特に触れられたわけでもないのに過剰な反応の気がするが、これも振との閨を重ねた結果なのか……。
振には「家光さまは濡れやすいですね。褌がもうびちゃびちゃです」なんて耳元で囁かれ、何度羞恥に涙したことだろう。
昨日脱いだ褌風ショーツは、おもらしした記憶が無いのに濡れていた。
そんな下着を満に洗われたくはない。
……思い出した家光の頬がぽっと赤みを帯びる。
「ちよちゃん……で、名前合ってるかい?」
「はっ!? あっ、はい。千代ですっ、なんでしょう?」
文吉に呼ばれていることに気付き、家光ははっとした。
そうだ、今 隣には文吉がいたのだ。
一つのことに集中し始めると、周りが見えなくなるのは困ったものである。
「……んふふ、ちよちゃん。あんた、満ちゃんとどういう関係なんだい?」
「え? あ……、どういう関係……。えっと……うーん……(どう説明すれば……)」
訊ねられて家光は口籠った。
満の恋人でいられる時間は限られている。下手に恋人だなんて伝えてしまうと満が不利益を被ったりしないだろうか……。
本心では“みちるさんは私の恋人です!”そう告げてしまいたいが、この場に本人が居ないため、どう答えるのが正解かわからない。
「おや、恋人じゃなかったんだ?」
「いえ、恋人ですっ!(あ、言っちゃった)」
二週間限定だけど……と。恋人じゃないと否定ができずについ、肯定してしまった。
満には悪いと思いつつ、不意を突いて口から出てしまったものは仕方がない。
言葉にした途端、現実味を帯びて心がこそばゆくなる。
「ほぉ。そうなのかい? そうだろうねえ。満ちゃんの顔見てりゃわかるよ」
「え?」
「満ちゃん……あの子、ここに来てまだそんなに経ってないけど、あれだけの二枚目だろ。これまで女関係で苦労したらしくてね。女嫌いだって言ってたんだよ。ここに来る前にどっかのお屋敷で居候していたらしいけど、複数の女に追いかけられて嫌な思いをしたんだってさ」
「みちるさん……」
……先日満から聞いた話と似た話だ。
満は昔から女に何かと絡まれ嫌な想いをしている。女嫌いだとは聞いていなかったが、側室になるのを嫌がっていた理由の一つに、恐らくそれもあるのだと今今理解した。
「あの子の髪や瞳はちょっと特殊だからねえ……、目を惹くし、優しい雰囲気に声も良いからってんで、女が放っておかないのさ」
「わかります。わかりみが深い……(そうなの! みちるさん、顔はイケてるし、しかもイケボで優しいのよ……!)」
満に惹かれているのは、やはり自分だけではないと家光は確信する。
誰が見ても満は美しい いい男なのだ。
「だろ? この長屋にやって来た時なんか あたしが女だからか始めは警戒心が凄くて居た堪れなかったよ。それが一昨日、急に女連れで帰って来たから驚いたもんだ」
「あ、あははは……」
文吉の話は続き、話を聞いていくうち、満に鬘と眼鏡を勧めたのが文吉だということが判った。
この世界で茶色の髪は、黒髪に次いで多い髪色。
鬘を被るようになってから、声を掛けられる回数も随分減ったらしい。
それでも全く声を掛けられないということはなく、文吉は巷で満が声を掛けられているのを一度見掛けたことがあるのだという。
相手は押しの強い女性で、満の顔は引き攣って青褪め、今にも倒れそうだったために、咄嗟に文吉が助けに入った。
女嫌いだというのに、優しい応対をするから女が勘違いするのだと説教したら、ぐったりした様子でお礼を告げて、ふらふらと家に帰って行く。
少々過剰な反応が気になって、のちに相手が知り合いだったのかを訊ねてみたが、そういうわけではないようで、満がただわざとらしく笑って終わってしまったとのこと。
……文吉は古那から長屋のまとめ役として、満を見守るようにと頼まれており、なるべく気に掛けるようにしているのだが、満の作り笑顔はよく見るものの、先程の家光に対する 嬉しそうで穏やかな表情は、見たことがなかったのだ。
「いつの間にか恋してたんだねえ……。さっきの満ちゃんの顔、幸せそうだったよ」
「そ、そうですか……」
――なんか照れる……。
家光はぽりぽりと頬を掻く。
満が幸せを感じてくれていたなら嬉しいと思う反面、これまで色々あったんだなと同情した。
……そんな話をしながら洗濯を進めていると、朝餉の片付けを終えた満が戻って来る。
「……文吉さん。また私の悪口ですか……? 口は禍の元ですよ?」
にっこりと優しい笑顔で口元に人差し指を添える満は、洗い物に精を出す家光の隣に腰を下ろした。
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