逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【城下逃亡編】

268 眠る時は温かい腕の中で ★

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 屋根に打ち付ける雨音は相変わらずで、部屋は寒いというのに満と密着しているだけで温かい。
 明日この温もりを手放さなければならないと思うと悔しくて仕方なかった。

 臣下に輿入れするくらいなら、自らに輿入れすればよくないだろうか。
 臣下と男を取り合うのは気まずいが、そこは権力でねじ伏せるくらい容易いこと。
 のちに多少のいざこざはあるだろうが、そこもまあ何とかしてみせる。
 思い切って満に輿入れ先の変更をしないか相談してみようか――。

 ……一瞬過ぎったが、この手は満に嫌われる危険を孕んでいる。


 (みちるさんに嫌われるのだけは、どうしても嫌だよ……。)


 結局何も言えないまま、家光は満にぴったりとくっついたまま。
 満もまだ頭を撫でながら黙ったまま……。それから少し経って彼が口を開いた。


「千代さん」

「ん……はい?」


 名前を呼ばれて顔を上げると、ど真ん中の顔が間近で優しく見下ろしている。
 それだけで家光の胸はきゅうっと締め付けられ、涙が溢れそうになった。


「……千代さん」

「はい♡ みちるさん……♡」


 互いに名を呼び合い、どちらかともなく唇を重ね合わせる。
 ちゅっ、ちゅっと啄むような口付けから直ぐ、舌が擦れ合い唾液が交わる濃密なものへと変化していった。
 その後は盛り上がってしまい、再び身体を重ねることに……。

 屋根を打つ雨音が下半身から聞こえる腿の付け根がぶつかり合う音も、くちゅくちゅと鳴る粘着質な水音も、家光の嬌声も全て覆い隠して二人は夢中で深い交わりに溺れていく。
 必要な言葉は互いの名前だけで、あとは意味をなさない喘ぎ声だけが家光から溢れ続ける。
 家光は啼きに啼いて満に縋り、満も家光を腕の中へと閉じ込めるように抱いた。


「ふあっ♡ ああああっ♡♡(も、らめえぇぇ……♡♡)」

「っくぅ……!」


 ……三度目。満が達した頃には家光の意識はほぼなく、喘ぎ疲れて目蓋は閉じていた。
 初めてだというのにこんなに感じてしまっていいのだろうか――。そう思った家光の表情は穏やかで、この上なく幸福そうに薄っすらと笑みが浮かび、心地好い疲れにまどろんでいく。


「千代さんありがとう、おやすみなさい……」


 意識が途切れる寸前、満の優しい笑顔が見えた気がした。
 ……それから暫く経ち――。


「……ん?」


 身体が疲れ切るまで行為を重ね意識を失った家光だったが、ふと目を覚ます。
 いつの間にか浴衣も身に付け、横になっていた身体には掛布団が掛けられ寒さを知らず、温かかった。
 これまで満と同衾していたのに、今夜は褥が二枚に増えて別々だ。

 満が落としてくれたのだろう、灯りは既に消され部屋の中は暗い。
 まだ夜は明けていないようだが雨はいつの間にか上がり、出入口の障子戸が月明かりにぼんやりと照らされ、闇に慣れた目は何となくではあるものの、辺りの様子を把握することができた。

 隣の褥に視線を移せば、満がすやすやと寝息を立て眠っている。


「寝顔も素敵なんだからも~……♡」


 ――さっきのはまさか夢……? 私、みちるさんとしたよね……?


 眠り姫のように眠るあまりにも美しい満の寝姿に、彼と繋がったことは夢だったのだろうかと、夢うつつの家光には判断がつかなかった。
 小さな呟きに満が目覚めることはない。
 ならばもう少し近くで見てもいいだろうか。

 家光は上体を起こし、満に近付こうとした。


「ぃっ!?」


 ずきっ。
 上体を起こした家光の腰を、鈍い痛みが急に襲い掛かる。
 両腿の付け根の奥も ひりひりと痛んでいることをたった今、感知した。


「ど……」


 ――この鈍痛~こ、これっ……!


 腰を労わるように擦り擦り、家光は生娘でなくなったことを思い出す。
 確認のためそっと隠し所に手を差し入れると、温かく湿ってくちゅりと音がしたため驚いてすぐに引っ込めた。
 その引っ込めた指先を恐る恐るくんくん。鼻をひくつかせて嗅ぎ、においが自分のものだけではないことに気が付く。


 (……不思議なにおいがする……、もしかしてみちるさんの……?)


 あの綺麗な満からは想像もできない 吐き出されたとろみのある白い液体が、自らの隠し所から溢れ出てきている。
 微睡みから目覚め まだ夢うつつなれど、事実確認が取れた家光の口角は勝手に上がった。


 ――確実にやっちゃってる……みちるさ~ん♡♡


 胎内の鈍痛に、洞の入口辺りのひりつく痛み。
 やはり夢ではなかった。


 (ここにみちるさんがいるのね……。)


 家光は下腹部を撫で、はらに出された白い精が体外に出るのが惜しく思う。
 あんなに沢山注いでくれたというのに、仕方ないとはいえ少しずつ流れ出ていくのが体感でわかったからだ。

 今夜が一緒に居られる最後――。
 だから彼に引っ付いて眠りたいと、褥から抜け出て満に近付く間、とろりと腿に伝う液体に、どうか出て行かずにずっとそこに居て欲しいと願わずにいられなかった。

 満の子を孕むことが出来たなら、彼が側に居なくても生きていける。
 満に嫌われたら生きていけない。
 だから娶ることはしないけれども、彼の分身だけでも手に入れられたなら。


 (浅ましいかな……。)


 嘘を吐いて中に出させてしまった理由を話すつもりはない。
 だがいつかどこかで満に再会出来たなら。
 その時、もし子が出来ていたならば。

 自分は将軍で、既に正室がいる……。
 全てを打ち明け、許しを請うてもいいだろうか。


 ――私は嘘吐きです。


 眠る満を見下ろし、家光は微苦笑する。


「いやいやいや、そうじゃないよね……」


 ――みちるさんは誠実な人だから……正直に言わないと……。


 明日朝にでも正直に打ち明けた方がいいかもしれない。
 だが、昨日の今日で急に話しては嫌われるのではなかろうか。

 首を横に振り振り自問自答を繰り返す。


「……本当の私を知っても、あなたは愛してくれますか?」


 やはり最愛の人に嘘を吐いてはいけない。
 家光は明日起きたら正直に自らの身分と置かれた状況を説明することに決め、満の褥にこっそり忍び入った。
 彼が起きることはなかったが、無意識でも家光が入って来たのを受け入れるように腕を背に回し、抱き寄せ頭を撫でてくれる。


「みちるさん……すき……♡」


 家光も温かい腕の中で眠りに落ちた。
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