37 / 51
霜降
15*.
しおりを挟む
また、ネクタイひとつ弛んでいない、片桐の胸元に抱き込まれて、動けないままに、トワレの香りを吸い込むと、眩暈がした。
陥落とは、こういうものなのだろう。絡め取られて、何一つ逆らえなかった。首から喉元に這って来る唇も、歯痒いような軽さで胸の尖りを弄ぶ手も、あっと言う間に前より息が上がる。
もう遠慮無く中心を探ってくる指と、包み込むうな広い掌と。下着の中で竿を伝って下りる指が、誰にも触られるような事を想定していなかった所に分け入ってくる。
それに餓えていた筈なのに、怖れが上回って身体が逃げる。片桐は身体を起こすと、片腕で簡単に押さえこんだ。心底、恐くなった。
「逃げても、いいぞ」
いつか聞いた言葉。あの時は、逃げなかった。その時にされたことをまたして欲しくて、馬鹿な追い詰め方をして、ここまできた。なのに、追い込まれたのは、自分の方だ。
今さら、怖いから優しくして欲しいなんて言えない。それどころか、片桐は最初からずっと、怖いくらいに優しい。
どうせ片桐の方から、俺の顔なんて見えやしない。目を固く閉じて涙が零れそうになるのを堪えながら、かぶりを振った。
自分の考えていることなんか、お見通しなんだろう。片桐は、硬直したままの俺をあやすように、耳の後ろを吸った。
何度も何度も、そうやって、逃げては宥めすかされる。
後ろに凭れ掛かったまではいられなくなって、力の入らない腰から下をぺたりと降ろしたまま、前へ前へと身体が進む。、形ばかり腰を支えている片桐は、、俺の背中に唇を落としている。顔を動かす度に背中を撫でる前髪と眉、そして睫毛が、身も世もないほど恥ずかしかった。
もう片桐は、何も言わない。頑なに顔を見せないのだけは変わりないのに。
時折、さらりと前を撫でて行き、俺の気が逸れるのを許さない。黙って、ただ身を任せていろと無言のままに、その腕で、唇で、雄弁に命じて来る。
もどかしくて、悔しくて、顔を見せないこの男がおかしくなりそうなほど欲しいのに、聞いてくれない。唇を噛んで涙が零れるに任せた。
ゆっくりと背骨を上から辿った片桐の口は、さらにした尾骶骨を下りて行く。力の入らなかった腰が思わず逃げるように浮いた。その隙を突いて、片桐
手が滑り込んだ。
いつの間に準備したのか、潤滑剤のついた指が、入口───本来なら出口の、辺りを探る。
なんと言われようとシャワーを浴びておくべきだったと後悔しても、もう遅い。一生、他人に触られるなんて想定していなかった場所。
どれだけ修練を積んでいるんだか、片桐の指に迷いはない。訳のわからない内に中に押し入られた前回と違って、神経と言う神経が剥き出しになっているような状態で、こちとら、ただ息を詰めて、されるがままになるしかない。
周辺を一通り調べた指は、侵入を宣言するかのように、とん、と入口を突いた。
陥落とは、こういうものなのだろう。絡め取られて、何一つ逆らえなかった。首から喉元に這って来る唇も、歯痒いような軽さで胸の尖りを弄ぶ手も、あっと言う間に前より息が上がる。
もう遠慮無く中心を探ってくる指と、包み込むうな広い掌と。下着の中で竿を伝って下りる指が、誰にも触られるような事を想定していなかった所に分け入ってくる。
それに餓えていた筈なのに、怖れが上回って身体が逃げる。片桐は身体を起こすと、片腕で簡単に押さえこんだ。心底、恐くなった。
「逃げても、いいぞ」
いつか聞いた言葉。あの時は、逃げなかった。その時にされたことをまたして欲しくて、馬鹿な追い詰め方をして、ここまできた。なのに、追い込まれたのは、自分の方だ。
今さら、怖いから優しくして欲しいなんて言えない。それどころか、片桐は最初からずっと、怖いくらいに優しい。
どうせ片桐の方から、俺の顔なんて見えやしない。目を固く閉じて涙が零れそうになるのを堪えながら、かぶりを振った。
自分の考えていることなんか、お見通しなんだろう。片桐は、硬直したままの俺をあやすように、耳の後ろを吸った。
何度も何度も、そうやって、逃げては宥めすかされる。
後ろに凭れ掛かったまではいられなくなって、力の入らない腰から下をぺたりと降ろしたまま、前へ前へと身体が進む。、形ばかり腰を支えている片桐は、、俺の背中に唇を落としている。顔を動かす度に背中を撫でる前髪と眉、そして睫毛が、身も世もないほど恥ずかしかった。
もう片桐は、何も言わない。頑なに顔を見せないのだけは変わりないのに。
時折、さらりと前を撫でて行き、俺の気が逸れるのを許さない。黙って、ただ身を任せていろと無言のままに、その腕で、唇で、雄弁に命じて来る。
もどかしくて、悔しくて、顔を見せないこの男がおかしくなりそうなほど欲しいのに、聞いてくれない。唇を噛んで涙が零れるに任せた。
ゆっくりと背骨を上から辿った片桐の口は、さらにした尾骶骨を下りて行く。力の入らなかった腰が思わず逃げるように浮いた。その隙を突いて、片桐
手が滑り込んだ。
いつの間に準備したのか、潤滑剤のついた指が、入口───本来なら出口の、辺りを探る。
なんと言われようとシャワーを浴びておくべきだったと後悔しても、もう遅い。一生、他人に触られるなんて想定していなかった場所。
どれだけ修練を積んでいるんだか、片桐の指に迷いはない。訳のわからない内に中に押し入られた前回と違って、神経と言う神経が剥き出しになっているような状態で、こちとら、ただ息を詰めて、されるがままになるしかない。
周辺を一通り調べた指は、侵入を宣言するかのように、とん、と入口を突いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる