Formalisme──A Priori

朝倉志月

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立冬

11*.

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 言葉なんて、出て来るはずがない。喉の奥に熱の塊があるようで、それが漏れ出さないように飲み込んだ。

 関を切ったように好きだと訴える片桐は、俺の鎖骨に額を付けて、顔を見せなかったけれど、

(ちょうどいい)

 こっちの目にも移って、何だか目玉がひりひりする。

 それを揺すってくるものだから、俺も何か、熱いものが目尻を伝って落ちた。

 らしくないこと言いやがって。衝撃のあまり、心臓まで締め付けられる。苦しい。俺は口を引き結んで、もう一度片桐の肩に顔を埋めて、切ない所を責める片桐の熱に溜息を吐いた。

 片桐が、熱に浮かされたように、好きだ、と呟くのを自分の嬌声で消してしまうのが惜しくて、息を潜めて耳を澄ませた。

 このままただ聞いていたかったけれど、身体が押さえようもなく追い上げられた。こんなときも艶を放つ黒髪と、美しい筋肉の隆起を見せる、湯気の立つ背中。

「…………っ!!」

 全身に力が入らなくなって、気を失う瞬間、片桐の熱が注がれる身体の芯に感じながら、意識を手放した。

 どこかで、微笑むような吐息が聞こえた、のかも、しれない。
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