乙女ゲームの悪役兄様、冷徹神王騎士団長の寵愛に囲われる

高無

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ゲームの始まり

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「ローラ、神王様に恥ずかしくない行いをしなさい」

「はい!お母様」

昨日買ってきた青いドレスを着て、後頭部にリボンを付けた妹のローラはこれから始まる輝かしい未来に満面の笑みを浮かべていた。

とうとうこの時がやって来た。

俺はずっとこの時が来ないように頑張ってきたつもりだ。

彼を悪く言うのは心苦しかったが、未来に起こるであろう悲劇を回避するために神様がいかに怖いかをローラに知ってもらおうとした。
興味がなくなったり苦手意識が芽生えたら、自ら巫女の座から降りたいと思ってくれる。
神への冒涜だと母さんに狭くて冷たい地下に数日閉じ込められる事になっても止めなかった。

ローラが使用人だと思っている俺の言う事なんて聞くはずもなかった。

何度も「式典には行かないで!」と言ってもこの時が来てしまった。
最終手段で俺はローラのこれから起こる運命を教えようと思った。
嘘だと鼻で笑われても知ってほしい、少しでもローラの心が傷付かないために…

その時、喉が焼けるような締め付けられる感覚になった。
首を絞められているかのようで、声を出す事が出来ない。

決まって未来を口にしようとする時だけ、呪いの紋様は拒絶した。

口を閉ざして数時間経つと、先ほどの痛みなんてなかったかのようにスッと痛みが消えた。
この世界も人々もゲームと同じだけど、ゲームに反する事は許さないのか。

俺の記憶にはっきりと残っていても、プレイヤーではなく登場キャラクターに生まれたから変えられないのかな。
変える事が出来るのは、もしかしてプレイヤーが動かせる主人公だけなのか?

だとしたら、あの子に頼めば変えてくれるのかな。
俺達フェルナン伯爵家の悲劇でしかない絶望の未来を…

横にある姿見鏡を見つめると、今の俺の姿が映る。

首には黒いチョーカーが見えて、俺の呪いの紋様を隠してくれている。
ローラは今日で16歳の誕生日を迎える、主人公と同じ誕生日じゃなかったら少しは違ったのかな。

巫女は16歳の誕生日に選ばれた少女がなる式典が行われる。
貴族や王族などが集まり、選ばれた人達のみが神と巫女の誕生を見る事が出来る。

フェルナン伯爵家は貴族として呼ばれていて、巫女として呼ばれているわけではない。
代々続く巫女の一族だから、今回は呼ばないでほしかった。

国王の通達で招待状と共に説明が書かれていたはずだ。
ゲームでは主人公の少女の力を帝国が見つけたのは昨日だった。
慌てて少女を巫女にしようとしてバタバタしていたとはいえ、俺達を切り捨てるのが雑すぎる。

ずっと国のために巫女としてやってきたけど、国にとって手紙一つで済ます事なのかな。

そしていつもの事だから母さんは巫女としての招待状だと勘違いして、手紙を見る事なくメイドに命令した。
ゲームの知識でその場にいなくても知っている。
母さんがまだローラを巫女として見ているからきっとゲーム通りに進んでいる。

口に出せないなら手紙だけでも読むようにと母さんに言っても無視された。
俺の話を聞かない妹と違い、俺の声は届かないようだ。

俺と家族の距離はどんどん離れていき、俺の頭が可笑しいんだと思われている。

俺がなんて思われても構わない、悪の道に進まなければ…

最後の頼みは主人公だけど、貴族とはいえ一般人が神の次に大切に扱われる巫女に近付くのは難しい。
彼も俺の事を忘れているんだろうし、彼に近付くのは不可能に近いほど無理だ。
ローラを止めるために忙しくて、彼とは街ですれ違う事すらなかった。

そういえば彼も騎士団長になって日が浅いのに、さすがの神様で魔物の脅威から国を守っていた。

今から数年前、突然神の加護の結界が壊れて魔物が街に入ってきた事があった。
平和だった帝国は一気に恐怖に歪み、悲鳴と恐怖でまさに地獄絵図だった。

当時の騎士でも太刀打ち出来ずに半数以上が犠牲になった。

彼はその時、まだ学生で騎士団に入っていなかったのに力を解放して魔物を一掃した。
光り輝く聖剣を持ち、戦う姿に人々は心を奪われた。

その時、彼が神様でありこの国の英雄だと知られて20歳という最年少で騎士団になった。
帝王は神を独り占めしたかったのか、不満そうだったのが少し不穏に思えた。
ゲームでの悪役は俺達一族だから、帝王がなにかするとは思わないけど…

そして昨日、神と適合能力がある人間をこの国に連れてきた。
ゲームの物語が始まるんだ、いつも以上に行動に注意しないと…

俺は今はまだ16歳だけど、数日後に17歳を迎える。

ローラのように派手に祝われたりはしない、いつものように一人誕生日だろうけど来年もその次も誕生日が迎えられるようにしなくては…

「ユーリ様、こちらに…」

「分かった」

メイドの後を付いていき、外に出ると馬車が用意されていた。

もう一つの馬車には両親とローラが乗っていて、俺が乗る馬車には俺しか乗らない。
今に始まった事ではないからいいけど、ここでも使用人扱いか。

いや、逆に考えよう…これは貸し切りなんだと…

一人の時間を楽しもうと馬車に乗ると、走り出した。

すぐに寂しくなり、早く着かないかな…とそれだけを考えていた。

街の風景を見つめるが、満月の夜だからほとんど街灯で照らされる静かな街だった。
遠くに見えている灯りは酒場かな、こんな遅かったら酒場ぐらいしか店はやっていない。

家の灯りも見えるけど、酒場ほど明るくはない。

馬車に揺られながら、俺はあの日の事を考えていた。

初めてで最後である人に優しくされた、短くても温かな時間。
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