116 / 124
三章~新風紀委員会・親交会~
ある廊下で
しおりを挟む強靭な肉体といえど、一応の検査はするらしく暫く離れがたそうな黒鎖だったが、夏雪が引き剥がす形で医務室に留めおいて置いた。
そういえば、直久に電話を入れるか。
制服のポケットから携帯を取りだし、廊下の壁に寄り掛かり掛けてみる。人の通りの少ない時間だが、夏雪は隙無く周囲を伺う。
「…もしもし?」
『ただ今、留守にしております。…ピーという発信音の後に…』
おかしい。
黙って留守番電話を切る。千里からの電話に出ない事はあるが、態々このタイミングでの留守電の意味が分からない。智や恵の時の様な嫌な予感を感じ、僅かに早足となった。
しかし、直久は自らその場を去ったと聞いたので、あくまで自分の用事だと信じたいが…。
「…雪はどう思う?」
千里の簡潔な問いかけでも、夏雪は「何が?」などとつまらない答えは返さない。
「はい。突然の急用か、桜川様の時の様な月宮側の策かは判断しかねます。…ただ今、Dクラスの部下を動かしてはおります。冬宮様は腕も立つ方、直ぐには重大な危機に陥る可能性は薄いかと思いますが。」
「ああ。僕もそう思うけれど。」
携帯をしまい、とにかく親衛隊の情報を待ちながら、僕も出来る範囲で動くか。先ずは直久の部屋に行ってみるかと、寮への道を進んで行く時だった。
夏雪の足音が消え、千里の後ろから前へと移る。雪…と呼び掛けて止めた。それほど、夏雪の横顔に緊張が孕んでいたからだ。
何なんだ、夏雪の警戒するのは月宮ぐらいだと思うが?
そのまま足を進めれば、夏雪が前方から来る誰かから千里の視界を遮る。一瞬見えたのは、黒い髪と…。
「…酷いな。そんなに警戒しなくて良いと思うけどな。」
その人物の動きが止まり、千里もそれに釣られて歩みを止めた。
「…これは失礼致しました。主は急いでおりますので、これで失礼を。」
今だ見えない相手の声は、耳障りの良い艶の有る声だが、聞き覚えは無い。夏雪の急かす様な促しに疑問を抱きつつ、視線を戻そうとすると、その人物が微笑む気配がする。
「…急ぐ理由って何だろう?冬宮君の事かな?…夏雪青薇君、君のご主人様に僕を会わせたく無い様に見えるのは、気のせいか?」
「まさか。…っ我が君?」
何故、直久の事を?
相手の言葉が聞き捨てならず、雪に横にずれる様にジェスチャーをする。珍しく緩慢な動作の夏雪が下がり、やっと相手の姿を知れた。
身長は、僕より僅かに低い位で、綺麗に切り揃えられた黒い髪に一房の紺色のメッシュ。そして、真っ白の学ランは、風紀委員である証。
「…こんにちは。初めまして、だよね。春宮の若君様?」
「ああ、初めましてだね。ええと、君は?」
確かに会った事無い筈だが、何か不思議な感覚だ。昔から知っているよな何か懐かしい…?
相手は、ふふ…と、艶を含んだ、まるで作ったかの如く完璧に綺麗な笑いを溢す。
「…朱峰歳光だよ。」
よろしく…と返そうとした千里へ距離を縮めた朱峰は、千里にだけ聞こえる声で囁いた。
「…君は、千を貰い、僕は、歳を貰った。君ならこの意味が分かるだろう?」
現春宮当主であり、千里の父の名は『春宮 千歳』である。千里は、両親から一字ずつを貰った名を使っているが。
この朱峰が、父から名を貰った?
ならば、春宮の血筋の者だというのは間違いない。
もしや…。
千里の脳内に直感が走る。朱峰が月宮側だと言うのは、風紀委員であるのなら一目瞭然だが、加えて彼はきっと…
「…そう、春宮家当主候補か。」
朱峰は無言で微笑む。春宮家特有の、相手を魅了する笑みで。
「流石、聡明なだけあるね。それが分かれば後は分かるだろうね?僕は、歳光の名に置いて…君の全てを超えて、当主の座を返上させると誓う。」
なるほど。月宮側だが、目的はあくまで(当主)か。
なら、分かりやすい。
「そう。困ったな、既に決まった事を蒸し返すなんて、ね。良ければ、お手柔らかに頼むよ?」
にこりと王者の笑みを送り、少し嬉しそうに見える夏雪を連れて悠然と去っていく。
その場にごく小さな舌打ちが、風に紛れて消えた。
何処かに歩いて行く朱峰だが、一人の人物を見つけ気安く声を掛ける。
「…やあ?君って、幼稚舎から居るんだろう。良ければ校舎を案内してくれないかな。」
朱峰の瞳には、心の読めない麗しの姫君…園原美景が映っていた。朱峰の勘違いしていたのは、美景が春宮の魅力に惹かれているのでは無く、千里自身を敬慕している事だ。
「…申し訳ございません、今は親衛隊全員で冬宮様の捜索をしておりますので。いずれ、機会がありましたら。」
美景にしては丁寧だが、はっきりと拒絶の意思を表に出す。
「…そう、残念だな。今度が直ぐ来ると良いけれどね。」
ふわ、と笑う朱峰の表情に一瞬だけ見惚れた美景は、直ぐ様心を切り替え頭を下げて、その場を後にする。
初めて、美景の背筋に嫌な悪寒が走った。千里に心酔しているからこその、千里に似通った雰囲気への無条件の好意。美景だからこそ、拒めたが…。
(月宮煌有…嫌な人間を見つけて来たものだ)
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる