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一章~新入生親睦会~
黄昏の微睡み
しおりを挟むあー眠かった。何とか午前中は頑張った。小テスト中も、見えない範囲で腕をツネり続けていたしね。
美景と親衛隊との穏やかな昼食も終わり、そろそろ眠い。
途中で月宮とすれ違ったが、挨拶を交わしたのみである。あまり危ない人間には見えない。まあ、表面上だけかもしれないけれど。
早めに実行委員会用の会議室に入り、中央のソファーに腰かける。
うん。ドアが開いたら、起き上がれば良いか。
横向きにソファーに寝転ぶ。うとうとと微睡み、次第に夢の世界へ誘われていく。
「……………へ?」
そこへ運悪く入室したのは、Bクラスの木村 太郎である。千里にとって残念な事に、木村は影が薄くて存在感が無かった事だろう。木村の入室に気付かず、無防備な寝姿を晒す。その様はさながら、麗しい王子様の昼下がりの午睡に他ならない。
(うわあ…寝顔も綺麗だなあ。俺の寝顔なんて、薄目で口の開いた間抜け面だって言われたし。)
自分の寝顔に涙を流した木村は、室内を世話しなく歩き続けた。出来ればSクラスの者が来る前に、千里に目覚めて欲しいのだ。
(園原さんが来たら、俺殺されるのか?)
ブルブル震え、顔を青くしつつ咳払いをしてみる。
「…ゴホン、エッヘン!」
(頼む!起きてくれ!)
しーん…。
それでも起きない千里に、木村も不安になってきた。
(もしかして、呼吸してるよな?)
生きている事すら疑問になる千里の寝姿に、木村はゆっくりと近付く。ふと、千里が小さくくしゃみする。
(…あ、何か掛けるべき?でも、もう誰か来るかもしれないし…)
悩んでいる内に、千里の睫毛が震え、瞳が開かれる。木村を視界に入れ、1度室内を見渡し体を起こす。
「…まだ、君だけかい?」
「は、はい!」
多少眠気が取れ「そう」と返事を返し、少し崩れた髪を結び直す。
(綺麗な髪だなあ。)
ぼんやりと自分を見つめる相手に、千里はクスリと笑う。
「…何?物欲しそうな顔だね。無邪気な小鹿さん。」
瞬間木村は顔を沸騰させ、片手を素早く振る。
「っいえいえいえ!何でもありませんん!あ、お茶、お茶の用意をしてきます!」
普段お茶は美景や桐崎が用意しているが、木村は口実を作る為に駆け出して行った。
(こ、小鹿ってなんだー?!初めて言われたぞ?王子マジ半端ねえ!)
慌ててお茶の用意をする木村は、混乱する頭でお茶菓子を適当に取り出す。それは、秋道寺 明日霞が遊び半分で取り寄せた物であった。勿論、木村はそんな事など知らない。
『ロシアン 饅頭』
箱の外には、そう書かれていたのである。木村が用意を終えた時、実行委員会メンバーも揃っていた。
「ああ、木村君ありがとう。持っていくよ。」
様子を見に来た桐崎が、茶器を半分程持っていく。
やっとメンバーが全員揃い、一枚の紙が配られた。
初めに口を開くのは勿論千里だ。名前だけ実行委員会委員長の直久だが、進行のほとんどを千里に託している。
「…じゃあ、スタンプラリーと借り物競争の確認からしていこうかな。」
周りを見渡し、肯定が返されると簡単な説明を始める。
「スタンプラリーでは、体育館がスタート地点とゴール地点。実行委員が校内を動き回り、参加者はそのメンバー全員にスタンプを押して貰い、体育館で紙を提出する。クリア出来た速さで10位までの生徒は、プレゼントが有りと。」
スラスラと言い切り、そこで美景が頷く。
「…そして、私と守山君が体育館の担当ですね?」
「そう。よろしくね?」
守山と美景に微笑み、美景は頬を赤らめ、守山はコクリと頷く。それを確認し、更に続ける。
「…あと借り物競争は、実行委員会メンバーも盛り上げる為にも、参加する予定だよ。ええと、実況放送は明日霞で良いかな?」
「良いよ~。頑張るね!」
ヘラっと笑う相手に、千里も小さく笑い頷く。ノリの良い明日霞なら、面白可笑しい実況をしてくれるだろう。細々とした事を話終え、美景と桐崎が淹れたお茶を啜る。
「じゃあ、そろそろ休憩にしよっか。」
話しが纏まり、息を着いた頃に資料を各々がしまう。AやBの者は丁寧にしまうが、意外とSのメンバーは資料を適当に扱っている。というのは、内容を確実に覚えているからだろう。
この後の事など知らず、千里は目の前の饅頭を見つめるのだった。
今日のお茶菓子もおいしそうだな。
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