王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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一章~新入生親睦会~

親睦会Ⅷ

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テント席には妙な空気が流れる。その間に、美景と鈴木はゴールしていた。

早くしないと、木村最下位になるんじゃないかな?
とりあえず直久と守山に手で制し、全く下心の無さそうな相手を見上げる。

「それで?僕にどうして欲しいのかな。」
「…あ、は、はい!」

青ざめていた木村の顔にやっと生気が戻り、一度息を吐いて続けた。

「あの、春宮さんの身に付けている物を…貸して欲しいんですが。」 

言っている内にまた緊張してきたのか、木村の声が少し震えている。

ああ、何だ。本当に、来ている服を脱ぐかと思ったよ。良いよ、と軽く頷く千里は、身に付けていた腕時計を外して木村に渡す。

まあ、そろそろ新しいのも欲しかったし…あげても良いぐらいだけどね。

「ありがとうございます!」

周囲の視線が怖いのか、木村はそそくさと去っていく。そんな中、アナウンスの声も聞こえてくる。

〈はーい、じゃあ皆ゴールしたみたいなので~?お題を見ていっくよ~〉

明日霞も飽きて来たのか、頬杖をついて手元の紙を広げていく。

〈んーっと園原ちゃんは『美少年』〉

1位でゴールした美景の隣には、天使の様だと例えられる恵がつまらなそうに立つ。勿論シンデレラを難なくこなした恵が美少年だと言うことを否定する者は無く、美景の1位は確定だろう。

美景も当然だと言わんばかりに微笑み、千里と目が合うと控えめにはにかむ。この時点で、春宮親衛隊から歓声が上がり、盛大な盛り上がりを見せる。

〈ま、園原ちゃんが1位って事になったけど~。他はどうかな?〉

2位の鈴木は『裏庭の四つ葉のクローバー』。彼の俊足でなんとか、裏庭までの往復時間を短縮できたのだ。判定は合格。ぎりぎり四つ目の葉が小さいがついていた。

〈…えーっと~木村のお題は『超絶美形の身に付けた物』かあ~。さあ、どうかな?〉

その人が超絶美形かどうかにかかっているが。現場を見ていない生徒は、木村が適当に持って来た物かと疑っている。

特に、都丸兄を最下位にしたくない生徒は「誰のだよー!」とあからさまにヤジを飛ばす。

「…春宮千里さんから、お借りしました。」

木村が腕時計を見せると、明日霞も興味を持ち手に取り確認する。

(お?千里ちゃんのっぽい?)

隣のテント席に視線を送り千里の顔を見れば、頷きにこっと笑みを向けられる。

(…めっちゃ可愛いな、千里ちゃん)

〈木村の持っているのは本物だよ~。てわけで、最下位は都丸兄~〉 

まさか千里の持ち物を非難する者は居らず、都丸兄も文句を言わず直ぐに走りに行くのだった。

都丸のお題って何だったんだろう?
そんな疑問の答えも特に出ずに、途中明日霞が勝手に5分間の休憩とする。

「…あの、これありがとうございました。」

その間に、千里から借りた腕時計を返しに木村が来た。

「ああ。態々すまないけど…そろそろ買い換えようと思ったから、君にあげるよ?」
「え?!でも…」

分かりやすい位に、木村は戸惑い腕時計をチラリと見る。

「ん?いらないなら、捨てても良いから。」

そう言うと「あー、は…い」と目を瞬き、顔を赤くしたり青くしたりしつつ元の席へと戻って行く。

(これ、一体いくらだよ?!絶対うん百万以上するだろ?貰っちゃったけど…どうすんだこれ)

木村がBクラスの場所に戻った瞬間、様々な生徒により高額の買い取りを持ちかけられる事になるのだった。休憩が終わり、明日霞も親衛隊が差し入れた数多くの飲み物を飲みつつ始める。

〈はーい。それでは~第3レースだよ~。うーん…じゃあ、最下位にはあれ歌って貰おうかな!〉

ご機嫌で言う明日霞の言う曲名は、流行のアイドルグループのバラードだ。

…地味に嫌な罰だね。

〈えーっ…第3レースの選手は、Aクラス篠村~。Dクラス矢代~。Dクラス夏雪~。Aクラス都丸弟~。〉

おおー。これは、また面白いメンバーだね。

実は、篠村のストーカー行為はきつい罰を受けさせた事で、学園内には広めていない。だからなのか、水泳部で外見は良い篠村はそれなりに人気はあるようで、声援を受けている。

都丸弟は、兄の雪辱戦という訳か、気合いを入れてスタートラインに立った。夏雪が千里の執事になった事は知られており、涼やかな容姿の美しい物腰の人物に注目が集まる。

よーい…パン!
その銃声が鳴ったきっかり30秒後、ゴールには息1つ乱していない一人の執事が立っていた。

…………え?

まだ紙を拾う他の選手を尻目に、夏雪は普段と変わらぬ表情で紙と何かを提出する。

〈えーっと…夏雪のお題は『食堂の銀食器』だよ~。うーん…本物みたいだね〉

と言う明日霞も不思議なようで、隣の親衛隊と小さな声で話し合っている。恵はビデオ係を呼び、千里の肩を叩いてモニターを確認した。

映像をスローモーションにすると、窓を凄いスピードで跳び移り三階の食堂に入り、また窓から飛び降りて来る夏雪が映る。

「…ねえ。あいつ、本当に人間なの?」
「人間、ではあると思うよ?」

驚くよりもむしろ呆れる恵に、千里は人間だと信じたいので何とか平静を装う。

〈はいはーい。今回は早く決まったね~。1位は~夏雪だよ~!〉

どよめきと歓声が響き渡る。

「凄かったね。おめでとう、夏雪。」

先ほどまでと同様、千里の後ろに控える夏雪に労いの言葉をかければ、夏雪は何事も無いようただ頭を下げる。

「…お褒め頂き、光栄にございます。春宮様の執事として、当然の事をしたまで。」

完璧な主に、完璧な執事とでも言うのか?夏雪という人間はよく分からない。

その横で、美景は不快そうに僅かに目を細める。今まで千里の為と、東奔西走して尽くしてきた美景にとっては面白く無いのだろう。勿論そんな空気を千里も感じている。

これは、良くないね。美景とも後で話しをしないと。

その間に、矢代は若い教師を連れてゴールし、都丸弟は校舎へ走って行く。

〈さあさあ~。だーれーが、最下位になっちゃうかな~?〉

「…嫌な奴だな。」

うん。同感。
心からの直久の呟きに少し笑ってしまう。しかし、千里の笑いもそこで止んでしまう事となる。

あー嫌な予感。

千里の視界には、妙な気迫で走って来る篠村が入ってしまった。そっと、視線を逸らすのは仕方ないだろう。



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