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一章~新入生親睦会~

番外編 壱

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side明日霞〈開演前〉


うん…やっぱり無理じゃね?

シンデレラの姉2役を引き受けた明日霞だが、着替えて化粧をされ、鏡を見つめる。

そりゃあ、姉1の桐埼ちゃんは169センチでしょ?
継母の園原ちゃんは、160センチで可愛いし、シンデレラの桜川ちゃんなんて普段から男っぽさなんて無いよね。

俺さあ、178センチよ?体も何気に鍛えてるんだけど。別に守山ちゃんみたいに中性的でもないし。

「素敵です!」
「お美しいです~!」

マジか?
自分では、納得しきれずにもう一度鏡を見てみる。

ありっちゃあ、有りか?

肌のハリも良く、髪も艶々としている明日霞の女装は悪くは無いが、本人の好みは自分より背が低い人…なので、いまいちなのだろう。

うん…やっぱり、無理だな~。

「…そー?ありがと~。」

へらりと笑い、メイク担当の生徒へ軽く頬に口づける。すると、室内の生徒はきゃあきゃあと騒ぎ出す。

めっちゃ可愛い!今夜はどうして遊ぼーかな?

口には出せない夜の事を思い浮かべ、ご機嫌で舞台に向かうのである。




side美景〈終演後〉 


…冬宮 直久。あの男…良い加減にしろ。

シンデレラ終盤で行われた、王様(直久)から太閤(千里)へのキス。唇へでは無かったが、美景の神経を逆撫でするには十分な物だった。

千里様がお優しいからと調子に乗って!

元々、冬宮から千里様への態度は慣れ慣れしかったが、今回のは少し度が過ぎるだろう。しかし、春宮家当主となられる千里様は、冬宮と良好な関係を築くのは良い事だ。

分かってはいる。分かってはいるが…でも、私だって!大学部を卒業すれば、今の自由もなくなる。千里様との時間も、無くなる。

冬宮は、三大家の集まりがあると聞く…一緒に過ごす時間もあるだろう。それに気づいて、桜川や冬宮とは違い、親衛隊という一歩下がり守る立場になった。 

私だって…。千里様を愛してる。なのに、ずるい。もっと、私の背が高く男らしければ?三大家と同格の家であれば?

いや、違う。私は私なんだ。それに、千里様の親衛隊隊長を誰にもさせる気は無い。

美景は、衣装を脱いで化粧を丁寧に落としていく。ぴったりの制服に袖を通し、櫛で髪を整える。

「さあ、行きましょう。」

お守り、お仕えしよう。彼に、自分の持てる全てを捧げよう。いつもの私で。 




side???


「おやおや、良いんですか?親睦会楽しそうですよ?」

ある室内で、二人の人物が話し合う。
一人は制服の下にパーカーを来て、パーカーで顔を隠す。もう一人は、優雅な物腰で紅茶を一口啜る。

「…ええ。興味がありませんので。」

ごく自然な口調で言う相手に、パーカーの人物もやれやれと肩を竦めた。

「仕方ありませんねえ。そんなに、お嫌いなんですか?あの人が。」

パーカーの人物は、見える口元に愉しげな笑みを浮かべる。あの人…という言葉に、相手は僅かに動きを止めたが、直ぐにまた手を動かす。

「…ええ。とっても。だから、貴方を呼んだのでしょう?…黒鎖君。」

黒鎖は、クックと嫌な笑い声を立て、親睦会が行われている体育館の方角へ目を向ける。

「正直な方は好きですよ?…月宮さん。」



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