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二章~親交会・対立~
桜川恵の崩壊side桜川恵
しおりを挟む助けて…
暗いよ
怖いよ
此処は…
どこ?
暗闇の中で、ずっと声が響いている。
タスケテホシイ?
うん。
助けて
*
僕の一番古い記憶は、5歳の時だった。両祖父母と、両親、兄三人が居て、資産家の末っ子として生まれた僕は、ある日父に呼ばれた。
「お前が、後継者だ。」
幼い自分にとって、それはよく分からない事だったが、家族の笑顔で良いことだと思ったのだ。40の終わりに近付いた両親はもう、次の子を産まない。
僕の桜川家は、一番最後に生まれた者に、家族全員が教育を施して育て上げ当主とする。それがやっと理解出来たのは、僕が7歳になった頃だったが。両親は僕にとても甘く、それは大事に育ててくれた。
兄三人も優しく、特に長兄はいつも優しく微笑んで、何でも出来る秀才であった。
僕は長兄が大好きで、長兄も僕を愛してくれている…と思っていた。
僕は学校の初等部に入り、家が遠い為寮を使用しながら通い始めた。まだ小学生の僕は、やはり寂しさが勝ち、休みを利用して何度も帰省していたが、家族は皆温かく迎えてくれていた。
兄達の誕生日には、プレゼントを渡し全員で祝い、幸せだ。僕は本当に、この家に生まれて良かった!
10才のある日、テスト期間で早く終わった為、平日だが家族に会おうと家へと急いだ。僕専用のクルマに乗り、兄達は家に居るだろうか、何の話しをしようか、とても楽しみだった。
家に着くと、両親は仕事だが、長兄は部屋にいるらしいと聞き、直ぐに兄の部屋に向かう。途中でメイドが「ただ今お仕事中ですから」と止めて来たが、メイドに言われる覚えは無い。
兄様なら「仕方ない」と笑って、きっと遊んでくれる筈だ。
「兄様~。」
あれ?
いつもの仕事部屋に居ない事に気付く。
あそこかな?
兄の部屋の奥にある書斎へ何も考えず近付く。大事な書類があるから入るなと言われているが、兄を探していたと言えば大丈夫だろう。
「…兄さ…。」
ふっと息が止まる。室内には、黒いカーテンで光が差さず、視界がはっきりとしない。ドアの隙間から慎重に目を凝らして見ると、やっと兄らしき人影が見える。喜んで声を掛けようとした時、兄の声に呼吸が止まった。
「何であいつが、何であいつが当主なんだよおおおおおおおお!!」
温厚で優しい兄とはかけ離れた咆哮に、何かをグサグサと突き刺す音。
なに、これ?
体が震え出し、慣れた目が信じられない物を映す。
「俺は学年首席で、名門の奴らも俺には逆らえない、なんたって、俺は桜川家の直系だ!」
一人で喋り続け暗い瞳で、何かを刺し続ける。
うそ?うそ?うそ!!
信じたく無かった。あの、優しい兄の狂った行動が。その、包丁で切り刻む物体が。
「俺の物だ!俺が桜川の当主だ!あんなガキに奪われてたまるかああああ!!」
ああああああああああああああああ!!
必死で声を押し殺し、見開いた目で刻まれる物を見つめる。マリー。僕の、父から貰った愛猫だった。
そういえば、昔から僕のペット…ウサギも、ハムスターも、インコも、自然と居なくなっていて。よく、世話係の使用人が叱られていたっけ。様々な感情が渦巻く頭で、僕は駆け出した。
どうして?どうして?どうしてえええ!!
全部うそだったの?優しい笑顔も、僕を撫でてくれた手も!
何も考えたくなくて、ずっと庭で踞った。辺りが薄暗くなった頃、変わらぬ優しい声が降りかかる。
「…どうしたんだい恵?帰ってきてたのなら、言ってくれれば良いのに。気分でも悪いの?」
いつもと、優しい声。もしかして、夢だったのかな?
ふと、兄のジャケットの裾の赤い物に気付く。
「…そ、れは?」
「ん?ああ。ちょっと転んじゃってね。全く、恥ずかしいよ。」
ああ。もう無理だ。
僕は、学校に用事があるからと直ぐに取って返す。
どうしよう
どうしよう
どうしよう?
僕はその日を境に、家に帰らずしっかりと寮に入る事にした。帰る時は、必ず両親が居る時だけ。
それと、僕の体に重大な変化が起きていた。夜が怖いのだ。暗い場所に居ると、どうしても不安に襲われ吐き気がして、時間が長くなるとあの時を思い出してしまう。いつも、暗くなる前に寮に帰り、カーテンで窓が見えない様にして電気を点けて眠る。
幸運な事に寮内は生徒の為に夜も全て灯りが灯っていた。フラッシュバックが起こらない様に、普段も細心の注意を払った。
中等部1年の時、瀬良という生徒に告白されたが断った。恋人になれば夜を過ごすのだろう。絶対に無理だし、もう誰も信用したくない。怖い。人間が。
でも、一人だけ、愛しても良いと思える人が居た気がする。
誰だっけ?あれ?何で…思い出せない。
*
真っ暗闇の中で、恵は体を震わせる。
『何であいつが当主なんだよおおおおおおおお!!』
兄の狂った叫びが頭の中で、何度も何度も自分を攻め立てた。
許して
許して
僕のせいじゃない
僕のせいじゃない
助けて
助けて
暗い
怖い
怖い
怖い
暗闇の中で、また声が響く。
タスケテホシイ?
「…暗いよ。怖いよ。誰か、助けて助けて助けて助けて助けて助けて…」
ジャアヨンデヨ?
「誰を?」
誰だっけ?僕の好きな人。愛している人。綺麗で、優しくて、甘やかしてくれる。
ヨンデヨ?
「誰…?思い出せないよ。」
涙が頬を伝い、胸が傷んだ。声が笑った。
ヨンデヨ?
【ツキミヤ コウ】ダヨ
ああ。そうだった気もする。僕の大事な、心から愛した人。
「月宮くん。助けて。」
恵の声と同時に、其所に光が生まれた。光から現れたのは、白い学ランに、優しい微笑を浮かべる人。抱き寄せられ、安堵の笑みを向けた。
「大好きだよ、月宮くん。」
せんり、ダイスキ。
誰それ?センリって何?
恵の心が、静かに壊れた。
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