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二章~親交会・対立~
春と冬
しおりを挟む落ち込む僕の所に来た直久は「俺が嫌いなら、言って欲しい」と言って来た。
嫌がるのに側に居るのは辛い、とも。
言い置いて扉から出ようとする直久の胸元を引いて、唇を重ねる。
此処で、彼が離れてしまうのは駄目な気がした。 この学校に入り、最初に僕に好意をくれた人。だけど、僕はそれを拒み続けて来た。勿論、君の事が嫌いでは無いんだ。
小学校まではちゃんと女性として生きて来たんだ…そういった思いが無い訳でも無い。だけど僕は『男』として、これから長い時間を生きる事に決めてしまった。春宮の当主となるのだから。誰にも、僕の秘密は言えない。
どうしてだろう?
唇が重なった時、恵とした時よりも違う何かを感じた。本能では理解している。直久なら、きっと僕を守ってくれるだろう。安穏と生きて行けるだろう。
ごめん。それは出来ないよ。
動きが止まった直久から唇を離し、自分よりも高い目線を見上げる。
…凄く驚いているね?ああ、直久とのキスって初めてだっけ。
相手の頬に手を添えて、静かに見詰める。
「…僕も、君が好きだよ。」
直久は驚きに瞳を見開き見るからに動揺を浮かべるが、次の千里の言葉で直ぐに複雑な表情となってしまう。
「でもそれは、他の皆と同じ位なんだよ。」
彼も理解しているのだろう。千里の博愛主義的な部分を。
(そんな優しい千里も愛しい…それでも、俺は)
「…俺は、お前の゛特別″になりたい。それは、無理なのか?」
頬に添えられた手に、直久の手が重ねられる。触れる部分の温度が高まり、気付かぬ内に千里の鼓動も早まっていく。
特別…か。
「君って…よく分からないな。」
「…何だ?」
思わず口から出てしまった言葉は、千里の心にずっと燻っていた物だ。
「僕は男で、春宮の子息だよ?仮に付き合っても、今だけの火遊びに過ぎない。君だって、きっとすぐ忘れる気持ちだ
…。」
「…おい、待て?」
つらつらと語るその千里の思いを聞き、直久の眦が吊り上がる。
「お前、そう…思っていたのか?俺が、ただの恋して惚れて単純に勢いで付き合いてえ…だとでも?」
低く唸る様な声音は、直久の怒りとやるせなさがひしひしと伝わる。
いや、そうじゃないのか?所詮、高等部から知り合った程度。表面の僕しか知らないのだ。
そんな思いが伝わったのか、直久は苛立たしげに歯噛みする。
「俺は、本当に、お前が…千里だけが好きだ。他の奴らなんかどうでも良いし、お前が俺の世界の全てなんだよ!春宮の子息?だから何だ。そんな事は百も承知で、俺と付き合ってくれっていってんだよ!」
溢れだす思いが、直久の口から息も尽かさず出ていく。千里を見つめる瞳が切なく揺れた。
「お前が男とかどうでも良い。俺は、千里の全部が好ましい。髪も、瞳も、唇も、声も…何もかも。お前が望むなら、何だってしてやる…。」
「…何で?…君は」
そこまで?と唇だけで呟く。どうして、僕をそこまで想ってくれる?何も返していない。拒んでいるだけの僕を。
「千里が、俺の世界を変えてくれたから。」
自分だけに向けられる優しい瞳は、柔らかく細まり色を乗せる。
何?これ…。
知らず知らず、顔の温度が上がっていく。普段、勝手に口をつく言葉達は、何も働かずただ口を開けてはまた閉じる。それを見た直久の頬も赤らみ「ああ…っと」と視線を泳がせた。
「少しは、お前の心に入れてくれねーのか?」
千里はこの学校に入ってから、今初めて直久を直久として見てみた。冬宮の子息としてじゃなく、直久として。
自分だけを思ってくれて、頼みも全部聞いてくれて。僕に秘密があるのを、一度も聞かないで。
努力家だけど、そんな事おくびも出さないで。
「何言ってるんだい?君は、もう僕の世界の一部だよ。」
初めて見せる年相応の笑顔は、普段より千里を幼く見せた。その言葉で舞い上がる直久は、あまりの嬉しさに直ぐに墓穴を掘ってしまうが。
「俺と、付き合ってくれるか?」
幾度も聞いた台詞に、気付かぬ内に素が出てしまう千里である。
「…ふふ。ばーか。テストで勝てたらって決めただろう?」
クスクスと笑い軽口を叩く様は、直久にとっては少し千里に近付けた気がした。
「ったく…。やっぱり、ほだされねえのかよ。」
「まあ、そこまで気は抜けないかな。」
直久の溜め息に、普段の笑みに戻った千里は内心苦笑する。
危なかったな…あまり、自分を出してしまうのは危ないか。絶対に、バラせない。
それでも…緩む頬は自然な物だ。
「直久、気持ちは嬉しい。ありがとう。」
「………っ!」
お礼が終わらぬ内に、直久の腕の中にすっぽりと入れられてしまう。
「お前それ…俺の忍耐でも試してんか?」
抱き締められるのも、嫌じゃないな。まあ、抱き締めるのは勿論好きだけど。
「直久?頼んでも良いかい?」
「…ああ?勿論。」
「じゃあ…。」
顔を上げて、相手の頬に軽く口付けを落とす。
ずっと、僕の側に居ること…。
冗談抜きで、その後口元がにやけるのを押さえるのが必至だった直久である。
というか、そういえば…直久って何で早退していたのか。少し聞いてみようかな?
千里の軽い疑問が、相手を慌てさせるのはまだ知らない。
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