王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

文字の大きさ
72 / 124
二章~親交会・対立~

都丸弟のお願い

しおりを挟む

学園の医務室。それはまるで病棟の様で、専属の医師が二十四時間体制で応対している。Bクラス以下は、大部屋での入院及び治療だが、A、Sクラスになれば個室での治療が受けられる。

智は、庭に面した景色の良い個室で入院をしている。本来は、入院する程の怪我では無かったが、親衛隊の心配が尋常では無かっただかららしい。

受付に一言挨拶をし、智の部屋に向かう。必ず守山親衛隊の誰かしらが居るそうだから、きっと一人では無いだろう。
向かう途中、見知った人物に気づく。千里が足を止めると、相手も気付いた様で駆け寄って来た。

「春宮様!来て下さったんですね。」

嬉しそうな人物は、制服をキッチリ身に付けていて花束を持っている。

「やあ、都丸。その花束はお見舞い用かい?」

きっと都丸兄弟の兄に、軽く手を振り微笑む。千里もお見舞い品を持ってきたが、甘い果物の詰め合わせだ。

「凄い花束だね」と感心して目を向ければ、都丸兄も少し照れて頷く。
「はい。1日に2回は花を替える様にしていますので。」

流石、と言って置こう。決して気持ちが重いとは言わないが。

「ああ、病室は此方で良かったかい?都丸兄。」

幾つかの個室がある為、相手に尋ねる。防犯の為、個室には名前はついていないのだ。

「…………え。」

しかし千里の質問に相手の返事は無く、驚きに見開かれる瞳が映った。

ん?何か変な事を言ったかな?ああ、つい都丸兄と呼んだからか?少し気安かっただろうか。

そう思い謝罪をしとこうかと口を開くと同時に、都丸兄の微かに震える唇が動く。

「…何故、俺だと分かったんですか?」

目に見える動揺は、千里も少し不味かったのかと思った。

都丸もAクラスという事もあり、大企業だっただろうか。跡取りが双子の男子なら、どんな葛藤が
あったのか想像はつく。
そういえば、公の場でもあくまで〈都丸兄・弟〉と呼ばせているのだ…名前を覚えられて見分けて欲しくないのだろう。

彼らを分けて対応する生徒も、見たことが無い。
僕が見分けられたのは、都丸兄の方が腕を組む事が多く、都丸弟が無邪気な笑顔で居る事に気付いていたからだが。余計な事は言わない方が良いね。

強張る表情の都丸兄に、自然に首を傾げてあくまで不思議そうに尋ねる。

「え?何となくそう思っただけだったけど、合っていたのかい?」
「…っいえ。はい、流石です。勘も素晴らしいですね!」

安堵する都丸兄は、直ぐに智の個室の扉を叩き、入室した。

「…失礼致します。」

室内には、室内着で長椅子に凭れて読書をする智と、側で紅茶?を淹れる都丸弟が見られる。都丸兄の声に反応を示さない智だが、それには特に気にせずに千里に入室を促し智に声を掛けた。

「守山様、春宮様がいらっしゃいました。」
「…!」

千里の名前に片眉を上げ、勢い良く扉に顔を向ける智に、にこっと笑みを浮かべる。

「急に来てすまないね?良かった、元気そうで。」
「…千里。」

ぱあっと背後に花が咲くような笑みを作る智に、都丸弟が口を開けたまま固まり紅茶を床に溢していた。

「おい」と都丸兄に突っ込まれ、慌てて片付けて来ると走る都丸弟に、花を差し替えて来ると退出する都丸兄。

さてと。
静かになった室内で、お見舞いの果物を渡せば喜ばれる。千里と一緒に居る事事態が嬉しいらしく、ご機嫌な智が座り直した長椅子に共に座り微笑む。

「今日来たのは、お見舞いもそうだけど…親交会実行委員会について聞いて置こうと思ってね。」

都丸兄弟にある程度聞いていたのか、戸惑わず智は穏やかに頷いた。

「…俺、は…千里の、味方。実行…委員会に、入れて?」

真っ直ぐに見つめてくる瞳に、千里の心が揺らぐ。
ずっと側で笑っていた恵を喪失した千里の心を、暖かく癒やしてくれる。

この子には勝てないな。
それは、対等に歩む直久や、ただ尽くしてくれる美景とも違うもの。そっと、智の手を取り両手で包む。

「…千里?」

はあ。何だろう?思ったよりも疲れているんだろうね。

僕は、自身の心労に気づいていた。美景には、弱味を見せられないし、直久には対等な三大家として頼りたくない。明日霞は、言ったら暴走されそうだな。
そんな千里をじっと見つめていた智は、何も言わず抱き締めてくれた。

「…疲れた?大丈、夫。大丈夫…だよ。」

頭をただ優しく撫でてくる智に、気付かず泣きそうになる千里。

「ありがとう。君は、本当に優しいね。」
「…千里、だけ。」

そう答える純粋な心に、またもや胸が痛んでしまう。言葉だけでも送って置きたいと思う。

「智の優しい所、僕は好きだよ。」

そう言えば、智は体をバッと離して顔を真っ赤にして狼狽えている。普段の守山智を知る者なら、信じられない事だろう。
その後、穏やかな時間を過ごし、明日になった退院にはまた顔を出す事を約束したのである。

そうして個室を出た千里に、都丸弟が緊張混じりに話し掛けて来た。

「…どうしたんだい?」

都丸弟も、見分けられる事を知ったのか?

「あの、これを!」

予想に反し、相手が取り出したのは1枚のカードだった。
これは、もしや。

「お願い券を、使ってもよろしいですか?!」

何故、僕に?智に使えば良いのに。

「良いけれど。お願いは?」

心の突っ込みは口に出さず、都丸弟にお願いの内容を聞いてみた。

「…はい!明日の守山様の退院日、守山様の部屋に泊まって頂けませんか?」




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...