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二章~親交会・対立~
執事長の夜side夏雪青薇
しおりを挟むDクラス執事長夏雪は、主の為に日夜影で動いていた。
最近は、Dクラスの生徒の整理をした。選ぶ10名は、夏雪自らが徹底的に仕込んでいるので信用はしているが、日々観察は続けている。
問題は、その他の生徒だ。月宮が目立ち始めたと共に、学園内に増えてきた見知らぬ生徒達。Dクラスにも潜り込んだ3名を見つけた。現在は泳がせているが、何かあれば直ぐに対処しようと思う。
そういえば、最近は矢代が妙に執事の仕事を率先して学んでいたな…。いずれ、10名の誰かの補佐にしても良いかもしれない。
主の為に使う陶器や食器を磨きつつ、考えていく。
…黒鎖との約束は、明日までか。我が君はどうなさるのだろうか。万が一には、私が全身全霊で黒鎖を止めるつもりだ。主の秘密ならば、私の秘密も同然。内容は知らないが、お守りしなければ。
小さく頷き、また違う思考に飛ぶ。
園原とは最近は挨拶程度する様になったが、もう少し関係を深めないとだな。
冬宮は我が君の良い壁となるのに、婚約だか知らんが学校にあまり来なくなったのは良くない。
千里も詳しく知らない情報を持つが、美景とは異なり積極的に千里に伝えるタイプでは無い人間である。
…ん。
携帯の着信音に気付き、直ぐに開き相手の名前に反応を示す。
我が君…。
『春の方』と表示される画面に、直ぐに此方から発信する。
因みに情報の漏洩を防ぐ為、電話帳に特定の名前を入れる事は無く、Dクラスの生徒は皆【部下1~40】に統一されている。
他には、師匠、隊長殿、春長、春前長、冬殿、秋殿…など、端的な物ばかりだ。本人が知れば、失礼だと反感を買うかもしれないだろう。
「…おかしい。」
三度めに発信をしてみても、全く返信がされる事は無い。
勿論忙しい可能性もあった。何故なら、今夜は主が守山の部屋に泊まる日だ。談笑でもしているのか?
だが、それならば電話をしてくる事自体おかしな事だ。
もしや、何かあったのか?守山に襲われたか?いや、春宮様も名門の出…護身術も習っておられる筈。春宮家といえば、あの道の達人だ。ふと、春宮前当主のその姿を思い出した。あれは、勝てなかったな。いや、今はどうでも良いか。
我が君は線の細いお方だが、意思はハッキリとされている。断ろうと思えば、断れるだろう。いや、お優しい方でもある…泣いてすがられたら?憐れに思ってお情けをかける?それを困り、こっそり私へ助けを求めていらっしゃったら?
この時、夏雪の勘の良さは無駄に働いてしまった。勿論、千里が間違えて押してしまったことなど頭に無い。千里が失敗するなど、夏雪の辞書には無いのだ。
5分ごとに連絡を入れよう。10回かけて出なかったら、様子を見に行く。そう思い、時計を見ながら合間に月宮の情報収集を続ける。
9回目、10回目…。
時計のカチリという音と共に、部屋から飛び出す。
守山の部屋の前に着くと、靴の裏に隠す針金ピンセで簡単に鍵を開けてしまう。音も無く扉から入り、廊下を進む。リビングに気配は感じない…もっと奥か。
すると、風呂場の脱衣場から千里の溜め息が耳に入った。…やはり何かあったのだ!
「我が君!何かございました…か…………………?」
内心慌てて、脱衣場の扉を開いた。と同時に、思考が止まってしまう。
今まで執事の仕事の一環として、女性の着替えも手伝った事もある。それだというのに、彼の…いや彼女の裸体は衝撃的だった。男性だと思っていたのもあったが、それ以上に美しかった。
濡れた艶のある長い髪、初雪の様に白く陶器の様に滑らかな肌、すんなりと伸びた手足、女性の部分を見てしまうのも、男の性だろうか。
千里に閉めるように言われ、慌てて閉めれば足元の箱につまづいてしまった。心臓が早鐘の様で、動揺が収まらない。
我が君が何度か問いかけてくるが正直頭が働かず、やっと『明日の朝になったら、我が君の部屋に待機する』事だけは理解出来たのだ。
部屋に戻り、冷たいシャワーを浴びて濡れた髪も乾かさず、ベッドに腰掛ける。先ほどの光景が頭から離れず、顔の温度が上がってしまう。
「…馬鹿か。」
思わず壁に頭突きをし、込み上げる疼きを無理矢理抑え込む。
執事だぞ?私は。それより、我が君が女性だったのだ。しっかりとお話しを伺い、今後の対処を…。
そこで、ふと思考が途切れる。女性としての千里の、今までの行動を振り返っていく。
雪と呼んでくれ、ヘアピンを使い、顔を見せた方が良いと言い、黒鎖との取り引き…。あの様に完璧な人が、弱味などあるか?やはり、女性という事を知られたからか!
そこで確信を得て、眉を寄せて一人頷く。
千里…
主の名が、頭に描かれた。なんだ?私は何を思い出そうと…。
自然に、それは夏雪の無意識の記憶の反芻であった。まるで閉じていた蓋を開けるみたいに。
ちさと…千里?ちさと様?お嬢様?
我が君の笑みと、ちさと様の笑みが重なる。
「……あ、ああっ」
唇から呻き声を洩らし、無言でベッドに顔を埋めるのだった。その後ポツリと言った一言は、この世の終わりの如くそれはそれは重い物だったらしい。顔は耳まで赤く、羞恥を堪えている様であった。
「…絶対に知っていたな、師匠。」
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