王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

散る夕顔

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質問を逆手に取られた 黒鎖はといえば、むしろ楽しそうに手元にあるペンをくるくると回す。

「贈り物、でしたっけ?」
「…そう。どうだったかな?楽しめたなら良いけど。」

ふふ、と花の様に笑う。
今日黒鎖を落とせないのならば、学園を辞めないといけない。仕方ないと諦める気は無い。僅かでも…隙を見つけて見せる。

捕食者の如く細まる瞳に、黒鎖のフードから覗く読めない瞳が交差する。

「そうですね。一日目は、可愛い子二人が色んな料理に、菓子に、ああ…あと、ゲームや娯楽物を持ってきてくれましたねえ。」

そう、一日目は小柄な親衛隊を送り、彼の趣味嗜好を探らせた。親衛隊二人は黒鎖に手を出されたかと思ったが、意外とキスとか前戯程度だったらしく、ダメージは無かった。

「はい、黒鎖。」

そこで妖しい笑みの黒鎖に近付き、激辛のスナックを渡してみた。

「…なんですか~?あ、毒殺?駄目ですよ。俺、普通の毒とか平気なんで。」

ケラケラと声を上げて笑う黒鎖を尻目に、千里は同じスナックを口に運ぶ。

「ん、かなり辛いね。」

サクサクと食べ進める王子様に、初めて黒鎖の動きが止まる。

「…何やってるんですか~?」
「え?僕も食べてみようと思ってね。」
「はあ、王子様って変な所あるね。」

君にだけは言われたくない。という気持ちは一先ず抑えておく。
黒鎖の手がスナックの袋を器用に開けると、1つ口に放り込む。サクサクと、室内に軽快な音が響く。

「それで?何ですかこれは?まさか、実は賄賂で俺を落とすつもりなんじゃ!」

大げさに両手で頬を包む黒鎖の口調は、からかい半分探り半分といった所だ。

「ある意味では賄賂かな。だって、君は辛い物が好きでしょう?」

相手の口元から、ポロリと一つがこぼれ落ちる。

「何故?」と黒鎖の刹那の戸惑いは、千里には見逃せなかった。

「一日目で分かったのは、辛い物を好む事と、リズム系のゲームが好きな事。」

腰掛けた机から一度下りて、締め切られていた窓を少し開ける。春らしい空気が流れ込み、思わず目を閉じる。

「エスパーとかですか~?王子様は。」

またスナックを食べ始めた黒鎖の頭に、疑問符が浮かんでは消えていく。

(好みなど出さない様に適当に食べていたつもりだったんですけどねえ。ゲームだって順番をバラけてやったのに。)

「ふふ。エスパーか…だったらもっと楽だっただろうね。君を知るのは。」

窓に向いた視線が、黒鎖のフードで見えない目元を見つめる。

「僕の親衛隊は、優秀だって事だね。」
「なるほど…。」

それでも黒鎖の雰囲気に戸惑いは無い。さも、ゲームに興じる子どもの様だ。千里の口がまた開かれる。

「二日目は、また違うタイプの親衛隊を二人送ったね。」

綺麗な子と、可愛い子の二人で本格的な色仕掛けを行わせた。物で落ちないのは分かったから、色でという訳だったのだが。
そうですね~。と、黒鎖はニヤリと口角を上げる。

「中々可愛らしい二人でしたねえ?」
「だろう?あの二人は内の親衛隊でも、見目の良い者を選んだんだよ。」

そして

「君は、綺麗なタイプが好みだと分かった。」
「…何なんですか~?」

スッと立ち上がる黒鎖は、フードの下から千里を見据えた。気づいていないのか、僅かに口調も早まっていた。

「だから何なんですか?そんな事知ったとして、俺が落ちると?」

まるで馬鹿にする様に肩を竦めるが、あくまで千里の表情は変わらない。

「思わない。だから、勝負をしないか?」
「はあ?勝負…ですか~?」

黒鎖の情報を多少は集められた。これなら、あの方法を使えるかもしれない。

かなり危ういが…。
背中に滲む汗など見られる筈は無く、涼しい顔で続けていく。

「君との約束は今日まで…ならば、手っ取り早くゲームをしようか?」 

その言葉に黒鎖の雰囲気が変わる。ふざけ半分だった彼は、獲物を刈る肉食獣の様に唇を舐める。 

「…後悔しますよ?」
「ふふ、楽しみだよ。」

直ぐに千里はゲームの内容を説明する。
それは、順番に5個ずつ相手の好きな物を言っていき、当たったら交替。外れた時点で終了という物だ。千里には黒鎖の心を動かす物に心当たりがあった。一度目で決められる予定だ。

「ルールはわっかりました~。じゃあ、どちらからいきます?」
「そうだね。じゃあ、これで。」

千里の取り出したのは1枚のコイン。
裏か表か当てたら先攻だというオーソドックスな方法である。

勿論コインを用意した者が扱うのは、やはり小細工を疑うだろう。躊躇無く黒鎖に渡す。その時、千里の動体視力は極限まで高められた。黒鎖の細工を逃さぬ様に、手元に意識を集中した。

「では、いっきまーすよ。」

ピンっと、黒鎖の指から弾かれたコイン。

パシンッ
黒鎖の拳の上に置かれて、もう片手に覆われたコイン。

「裏。」と笑う黒鎖。
「…裏。」と目を閉じた千里。

しかし、直ぐに「…だが」と付け足す。

「本物は、表だ。」
「おやあ~。流石は王子様ですね。」

楽しげに笑う黒鎖は履いていた靴を素早く脱いで見せる。靴の裏側には、表を向いたコインが見つかる。上機嫌となった相手に、あくまで冷静にゲームの開始を告げた。

「では、始めるよ。」

好きな物を5つ当てる、それだけのゲームだ。

「君は、黒が好き。」
「…正解です。ふっふふ。」

これで1つ目。先程の黒鎖の目付きで、わざと否定をする事は無いと確信していた。

「辛い物が好き。」
「おやおや~正解ですね?」
「可愛いタイプより、綺麗なタイプが好き。」
「ええ、そうですね。」

これで3つ目。少しだけ、相手の口調が緩くなっていく。黒鎖の瞳に不安が混じる。既に僕は残りの二つを決めていた。

「君は、月宮より僕の事が好き。」
「………………はい?」

にっこりと笑みを向けて「うん?」と首を傾げて、ただ続きを促す。

「どうしたんだい? 早く進めたいのだけど。」

千里の 反応に後ろ頭を掻いて息を吐く黒鎖は「流石…」と笑いフードを下ろす。

「…はい、正解ですよ?」

やはり黒鎖の瞳は美しく輝いている。それでも、その輝きはガラス細工の様に作り物めいた物だと思う。こうして視線を合わせても、心を読む事は出来ない。

次が最後か…。と思い、懐に大事にしまっていた物を丁寧に取り出す。

「君は、〈夕顔の花〉が好き。」

露に濡れた夕顔を差し出す。それは、黒鎖の目元から首筋に見事に咲く花と重なった。

これは、賭けだった。良い方に転べば良いが…?
読めない瞳でじっと夕顔を見つめていた黒鎖は、ふいに手を伸ばし受けとる。

成功か?

「おやあ?これは綺麗に咲いてますね~。いやあ、嬉しいですねえ。」

不自然な程の笑顔で花の香りを楽しむ黒鎖。

「…それは、よかっ「…なんて、言うと思った?」…た。」

言葉を遮られた千里の瞳には、一切の感情を消した黒鎖の顔が映った。

「…黒鎖?君…。」

美しく咲き誇った夕顔は、取られた手でぐしゃりと潰される。近かった窓を開けて、その花弁をそれは時間をかけて一枚ずつちぎり取っていく。

「てゆーか、夕顔の入れ墨してるからって、夕顔が好きとか単純じゃないですか~?」

はらり、はらりと悲しげに落とされていく。

「…こんなんで、俺が吊られるわけ無いでしょう?単純すぎますねえ?」

無惨に地面にばら蒔かれた夕顔を見棄て、黒鎖はただ笑みを作る。まるで笑顔を忘れてしまった様に。
人間は、何があったらこんな表情が出来るのだろうか。

「なら、不正解とだけ言えば良かった。なぜ、わざわざ手に取ったんだ?」
「それは、どうでも良いじゃないですか~?」
「いや、僕は聞いてるんだけど?」
「だから~。もうゲームは終わりですって。」
「僕は理由だけ聞いて…」
「っ黙れ!」

あくまで冷静に問い続けた問答が終わる。叫んだ自分に驚く黒鎖は、強く唇を噛み締めて千里の間近に近付き見下ろす。

「ゲームは終わり。…この程度で、俺を分かった気になるな。」

何も言わない千里を威嚇する様に拳銃を手に持ったまま、勢い良く扉から出て行った。直ぐに追いかけた時には、既に姿を捕らえられ無かった。

このままだと、秘密が全校放送されてしまう。という事は、もう頭から消えていた千里。

きっと自分は、彼の触れて欲しく無い所へ触れてしまったのだろう。なら、尚更、僕は…。
心のままに何も考えず走り出した頃、窓の外にはポツリと雨足が近付くのだった。


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