王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

文字の大きさ
87 / 124
二章~親交会・対立~

婚約成立?!

しおりを挟む

金曜日の授業終了後、春宮千里は黒塗りの高級車の内で目を閉じていた。

「あっ春宮様、そろそろ到着みたいです。」
「…そう、ありがとう矢代。」

可愛いらしい声に目を覚まし、礼を述べて窓の外に目を向ける。
此処が、冬宮の本家か。

由緒あるよく手入れの行き届いた洋館といった所か。庭の草花も、今の季節に合わせて目を楽しませてくれる。

冬宮に乗り込もうと言ってみたものの、勿論正面きって飛び込む訳にいかず…。千里が表立って冬宮家に行ったという事実は、月宮に知られるのも良くない。

千里が考えたのは、春宮の名を伏せて自然に入り込む事。それと、顔を知られていない者を選んだ。
車から降りると、案内の者に門へと促される。

「お忙しい所、お越し下さりありがとうございました。ええと、桐埼様でよろしいでしょうか?」

ええ、とにこやかに笑みを浮かべて頷く。どこからどう見ても、良家の子息にしか見えない。

「はい、冬宮直久様のご婚約のお祝いに参りました。僕は、桐埼と申します。」

グレーのスーツに、シルバー縁眼鏡の人物からの丁寧な挨拶に、案内係も何の疑問も抱かない。というのも、普段から冬宮三男の学友に、桐埼家の子息の名を耳にしたからだろう。

(眼鏡をかけた知的な雰囲気の人物だったか。想像よりもかなり美形だな…。さすがお坊っちゃまの友人か。)

案内係に案内をされて中に入り、ホッと胸を撫で下ろす。

よし、上手くいったね。…というか。
慣れない眼鏡を軽く押し上げて、後ろをチラリと振り向いた。

現在の千里は、直久の親衛隊隊長の桐埼の名を借りており、眼鏡をかけて髪は簡単に纏めている。そして、同行者は社交の場で顔が売れておらず、名も知れていない者を選んだのだが。

(なるほど~。冬宮ってやっぱりおおきいんですね~)
(…こ、黒鎖さん、声を抑えて…)

後ろでこそっとやり取りをする二人に知らず息を吐く。
やはり選択ミスだったかな?

今回千里に付き従うのは、黒鎖と矢代という変わった組合せである。
連れてくる人選は本当に迷った。明日霞、智、美景はあまりに有名なので却下…。夏雪はDクラスの纏め役なので、様子を伺っていて欲しい。

幾人か候補はあったが、諸々の理由で候補から外したのだ。黒鎖の顔はあまり知られておらず、その黒鎖と衝突しないだろう従者として、矢代が選ばれた。

(うう…心配だなあ。) 

矢代の不安と緊張を余所に、千里は落ち着いて案内係と談笑する。

まあ、これなら大丈夫だろう。黒鎖はどうやってか、顔の夕顔の花を綺麗に消し去りサングラスをかけて黒いスーツをキチッと身につけて、見事に出来る護衛の様だ。

反対に、矢代は少し不安そうに千里の荷物を抱え、黒いスーツにリボンタイ、短いスラックスを身に付けている。主人に着いてきた年若い従僕フットマンの様である。

「桐埼様方、此方でお待ち下さいませ。」

案内された場所は大広間の様な場所で、既に正装した多くの客人が集まっていた。

うん?
思わず首を傾げ、斜め後ろの黒鎖に口の動きだけで囁く。

「…正式な婚約はまだだと思ったけれど。」
「まるで婚約発表ですね~。」

興味深そうにサングラスの奥の瞳をさりげなく動かす。矢代は二人の会話の意図が掴めず、ただ顔を見比べる。

「…ええと、冬宮様が婚約すると、不味いのでしょうか?」

矢代の問いに、ただ微笑むだけに止めて置こう。
黒鎖の方は「可愛いですね~見習いくんは」とニヤニヤと笑っていた。
困惑する矢代には悪いが、こういった事を口にするのは憚られる。何処で誰が聞くのか分からないしね。冬宮の嫡男が婚約した場合、相手方の一族と繋がりが出来、学園内の勢力がまた変わってくるだろう。
おろおろとする矢代に、黒鎖の意地悪そうな笑いは続く。

それに…。
何となく胸辺りを押さえ、無意味に前髪を整えてみたりする。

直久は本当に婚約するのか?いや、別にどうでも良いけれど。そうだ、今回は直久を学園に連れ帰るのが目的なのだから。

一人頷く千里の姿は表向き特に変わりに気付かないが、黒鎖は読めない視線を向けていたのである。

(気に入らないな、冬宮直久…千里さんに気にかけられて。機会があれば…ふっふっふ)

大広間の近くに居た数人に、何となく悪寒が走った瞬間であった。
暫く、給事に貰った飲み物を口にして、声を掛けてくる者と軽い談笑をする。

「少し、失礼。」

千里が手洗いにその場を退出した時だった。用を済ませて静かな廊下を進んだ時、ふいに耳に入った会話に足を止めた。

「…だから、俺は婚約する気はありません。」

…直久の声?
続いて直久に似通った質の男性の声が続く。

「何?少し前までは嫌だと言わなかったではないか。彼方とも既に話しは進んでおるのに。」
「ですから、俺には心に決めた相手がいるんです。俺は自分の心を裏切れない。」

直久の会話の相手は冬宮当主だろうか?直久の言葉にまた否定する様な口調で続ける。

「それは何度も言ったが、その相手を連れてこれなければ、関係無い。」

有無を言わさぬ当主の態度に、直久も強く出られぬ理由があった。

「…相手は、来られないと申した筈です。ですが、城ヶ根家の娘とは婚約出来ない。」
「お前は、冬宮の次期当主だ。」
「…父上?」

直久の声が戸惑いに揺れる。

「お前は、私が育て上げた冬宮の最高傑作、冬宮の誇りだ。冬宮を裏切るのは許さぬ。」
「……………」

そこで会話が途切れ、千里はまた歩き出す。最高傑作?…まるで、直久が作品の様じゃないか。…彼は人間だ。それより、直久は心に決めた相手が〈来られない〉と言った。

僕は一度も来て欲しいと言われた事はない。それは僕が、〈男〉だからでも春宮だからでも無いだろう。直久はそんな人じゃない。僕に言いたく無かったのだろうか。自分の婚約を破棄する為に僕を利用するのが…。
よし、決めた。

「…黒鎖。」
「何ですか~?千里さん。」

戻った千里は直ぐに黒鎖の側で、周囲に聞こえぬ様に小さく呟いた。嬉しそうな黒鎖へ、千里の口調は淡々と感情の無い物だ。

「ああ。君の変装道具を見せて貰おうかな。」

事と次第によってはこの婚約発表を、ぶち壊す。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...