王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

咲いた恋蕾side桜川恵

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それは高等部の入学式の次の日。

「これからも、桜川様の親衛隊隊長としてよろしくお願いいたします。」
「好きにすれば。」

そう言えば、普段はクールな瀬良が嬉しそうに微笑んだ。親衛隊なんて面倒だけど、まとわりついて来る奴が居なくなるから居た方がマシってだけ。
この学校で高等部になって変わった事なんて少ない。クラスもSクラスのままだし、寮の階が上がったくらいかな。

相変わらず僕を信望する者も多い。このクラスでは騒がれないけど、自分勝手な奴ばっかり…人を見下す者、気位の高い者、他人に全く無関心な者、人を物の様に使う者…。
お前ら気持ち悪いんだよね。このSクラスが一番嫌い。…家族や兄たちに似てて。

新しい席に着いてノートパソコンを開いていると、次第にクラスメイトが登校してくる。

「おはよう。」

ふと、耳慣れない声が耳に入る。誰だっけ?確か、新入生代表挨拶をしてた…高等部からの。
チラリと視線を上げると、偶々目が合い微笑を返された。

わわっ!ええ…あ、何々?!

慌てて視線を外す。あんな綺麗な人間見たことが無かった。漆黒の髪に、白い肌に柔らかく涼やかな笑顔に、鼓動が速まる。

「おはよう、桜川…だっけ?初等部から居るって聞いたんだけど、色々教えてくれたら嬉しいな?」
「…え、あ、知らない。っ他の人に聞いてよ!」 

気付かぬ内に側に来られて、思ったよりも優しい口調で言われた事に慌ててしまい、少々冷たく突き放してしまう。それでも相手は気を悪くする様子も無く「そう、忙しい時に悪かったね」と至極普通に返された。

あ、別に君の事が嫌いとかじゃないし。
そう思うも口には出せない。何だっけ?この新入生の名前…。

考えている内に彼は自分の席へと行ってしまう。何故か彼の後ろ姿を追ってしまっていた。彼の笑顔は、嫌じゃ無かったな。

「…春宮。」
「ああ、おはよう冬宮。隣の席なんだね、よろしく。」
「ああ、よろしくな。」

そうだった春宮だ。って…何で冬宮が普通に話してんの?あいつ、俺は誰にも興味無えって感じで、感じ悪かったのに。

うっわ、笑ってる。同じ三大家だから知り合いだったのかな?
ノートパソコンを適当に弄っているが、やはり春宮が気になって仕方ない。
冬宮が離れた隙を見計らい、新たに春宮に近づく者が居た。

「おはようございます、春宮様。」
「ん?ああ、おはよう園原。朝から君の顔が見られて嬉しいよ。」
「…あっ私こそ、お顔が見られて幸せです。」 

はあ?誰あれ?
思わず二度見した恵は呆然とする。春宮に話し掛けているのは、氷の女王などと呼ばれる、笑顔なんて見たこと無い僕の嫌いなタイプの奴だった。
ぽおっと頬を赤らめもじもじとする姿は、Sクラスの半数近くに衝撃が走っているらしい。

三大家の一つ、春宮の嫡男でスポーツ万能眉目秀麗な春宮に注目が集まるのは当然だった。

何となくだけど、今までのSクラスに居ないタイプだと思う。誰にでも態度を変えないし、優しいし。
それでも、体格の良い者より小柄な者の方が好みの様だ…それが恵の見解だった。

春宮を一言で言うならつまり、お伽噺の王子様って所かな?

少しずつ春宮千里に惹かれていた恵に、ある日決定的な出来事が起こる事となるのである。





いつもの様に登校すると、玄関で妙な光景が目に入った。

「春宮様!俺をぜひ親衛隊の隊長にさせて下さい!」
「…ええと、昨日も言ったけれど少し考えてみてから返事をするよ。」

玄関近くの廊下では、春宮に必死に言い募る体格の良い生徒。たぶんAクラスの生徒だった気がする。
ふーん。何かちょっと戸惑ってるのかな?確かに親衛隊って意味分かんないしね。

こっそりと様子を伺って見ていると、更に生徒は春宮に懇願を続ける。親衛隊の隊長を適当に決めてしまうと、デメリットの方が多くなる。
特に途中入学の場合だと、上手く言いくるめられ肉体関係を強要される場合もある。そんな生徒も見てきたのだ。

しょうがないなあ。別に助けてあげても…。

「…僕もね、そう言って貰えるのはとても嬉しいんだよ。」

あれ?
恵が一歩を踏み出した瞬間、春宮の雰囲気に変化が生まれた。

「でも、まだまだ学校に入って学ぶ事も多い僕だ…君へ負担をかけてしまうかもしれない。だから、もう少し待ってくれるかい?」

目を細めて麗しい微笑を向け、生徒の瞳を見つめる。それだけで、生徒は動きを止めて顔を真っ赤にしてしまう。

何あれ…すっごい格好いい。あー言われたら僕だったら何も言えないな。

思わず見惚れる恵だったが、生徒は赤い顔のまま春宮に愛の告白すらし始めた。
あいつ…駄目だね。親衛隊隊長にぜったい向いてないっつの。

今度こそ恵は一歩を踏み出した。

「おはよう?何か話してる所悪いんだけど、春宮に用事があるんだけど良い?」

あ、はい!と、最初口を挟まれ不快そうだった生徒も、恵の姿に直ぐその場を離れて行った。それに安堵する春宮に気付き「ちょっと来て」と空いた更衣室に連れ立って行く。

「…ありがとう桜川。君って天使の様に優しいんだね?」

天使の様に優しい?!何それ初めて言われたんだけど。

「はあ?!別に違うよ!君が分かってないから教えてあげようと思っただけ。良い?ああいう風に強要する奴は親衛隊隊長にしちゃ駄目。自分に心酔しててしっかり命令を聞く奴にしないとね。」

簡単にメリットやデメリットを伝えると、理解したのか「なるほど」と相槌を打たれる。
とりあえず話が終わった頃、やはり春宮は綺麗な笑顔で恵へ礼を述べた。

「色々とありがとう。また教えてくれると嬉しいな。…これからもよろしく、可愛いお姫様?」
「…へっ?えっ……。」

まともな返事も出来ずに更衣室の扉を閉めた。

おひ、お、おお…お姫様あああああ?!何それ何それ何それえええええ?!ばっかじゃないの?どんなドラマだよ!そんなの…そんなの…かっこ、良かった…。

ドキドキと早鐘の様に鳴る胸を押さえて、温度の上がる顔を俯かせる。
僕がお姫様だったら、じゃあ春宮は王子様??いやいやどんな乙女思考だよ、僕は!

一人で内心突っ込みをしつつ、やはりクラスまで春宮に着いて行こうと思い閉めた扉を恥ずかしさも有り、ゆっくりと開けた。
しかし、開けた筈の扉は直ぐに閉められたのだ。何故なら、恵の目には信じられない物が映っていたから。

ブレザーを脱いだ春宮が、はだけたYシャツの下のサラシを巻いていたのだ。この時千里は緩くなった気のするサラシを巻き直していたのだが、そんな事は恵には知る筈の無い事だった。

(今、何か物音がした?いや、まさか。でも、ちゃんと施錠はしないといけないか)

結果的に千里の警戒心を強めるきっかけとなったのだが、恵はまだ混乱の最中だった。

春宮は、女の子?ええ、じゃあ何で態々男子校に来てるの?え、じゃあ春宮家の嫡男じゃないって事?いやいや、まさか春宮家の家名は気軽に名乗れる物じゃないし…。
聞いてみる?え、何て?無理無理無理無理無理無理無理!まさか…あの春宮家御曹司が、女だったなんて。どうしよう。

この後普通に更衣室から出てくる春宮と共に、自然な流れで教室に行く恵だった。

この日から、恵は春宮千里を強く意識する様になった。男より男として魅力的な春宮。女の筈なのに王子様の様な春宮。

何故か春宮は、僕に話し掛けて来る事が多かった。何でだろ…冬宮の方が死ぬほどアピールしてるのに?
………もしかして、自分より体格の良い人を避けてる?何となくそんな気はしてたけど。

数日後、詳細は知らないが園原が春宮の親衛隊隊長となったらしい。
別に僕には関係無いけどさ。でも、でも女の子って知るのは僕だけだし…虫除け位やってあげても良いかな。

「…桜川。一緒に帰らない?」
「う、うん。良いけど。」

どう見たって、男だよね。このクラスにも女子より可愛い生徒も居る位だし、春宮だって中性的な雰囲気だ。それでも、冬宮の様な春宮より正しく男と一緒だと、少々女性的に見える時もある。

まあ、春宮が女だって知ってるから余計にそう見えるからだろう。

「ねえ、ちょっと聞いて良い?」

この時何で僕はそんな質問をしたか分からない。たぶんだけど、春宮の秘密を知る罪悪感をどうにかしたかったんだと思う。

「うん?何かな。」
「…もしもだけど。もしも、僕が春宮の凄い秘密を知ってたとして、それを黙って知らないふりしてたらどう思う?」

変な質問だよね。不思議そうにする春宮だったが、一度頷いて僕に視線を戻す。

「ありがとう、って言うよ。」
「…っへ?」

あまりに予想外な答えだった。怒るかな?困るかな?謝るかな?…その全てが違った。

「他人の秘密を知るだけでも気が重いのに、だれにもバラしたり、本人に打ち明けたりせずに、黙って抱えていてくれる。お礼を言いたいな、ありがとう。君は強くて優しい人だねって。」

クスっと笑って、視線を前へ向けた春宮。
僕はどんな顔をしてたんだろう。

ただ分かったのは、春宮から目が離せなくなった事だけだった。


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