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三章~新風紀委員会・親交会~

嵐の前

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…ん、朝か。
ある意味でのハードな一日が終わり、夜が明けた朝は妙に爽やかだった。結局恵とちゃんと話して居ないな…。僕の秘密をどうやって知ったかとか。
朝の支度を終えて、夏雪が用意したのだろう珈琲を口にし、軽い朝食を摂る。

うーん…。あまり月宮と顔を会わせたく無いな。もう諦めて大人しくは、ならないだろうな。
息を吐いて気を落ち着け、普段通りに学校への足を進める。一見変わらない校内の様子に安堵してしまう。

「千里!おはよう。」

クラスの席に着くと、可愛いらしい靴音が近付いて来た事に気付き顔を上げた。

「おはよう、恵。今日も可愛いよ。」
「えへへ。千里はとってもとお~っても格好いいよ!」

ぎゅうっと腕に自分の腕を絡める相手に微笑む。登校して来た生徒達は驚いてチラチラと見る者、何か小声で囁き合う者も居る。
クラス内の雰囲気的には『月宮が負けた』という印象となっただろうか?

丁度登校して来た直久は特に変わり無く、むしろ嫌そうに眉を寄せただけに留め、智は何か納得したのか一人頷いていた。
そういえば、直久は城ヶ根との縁談を上手く取り消したらしい。どうやったのかは不明だが、やはり手腕は流石だと思う。もう少し落ち着いたら、早苗も家に帰せるかな?

「千里ちゃーん、おっはよ―。あ、桜川ちゃんも。」
「おはよう、明日霞。何だかご機嫌だね?」
「…おはよ、秋道寺。」

朝からテンションの高い明日霞に挨拶を返す。恵は大きな経験を終えて何か思う所があるのだろう…珍しくちゃんと挨拶をしている。
そんな恵の反応を気にしない明日霞は、上機嫌なまま千里に「実は」と続けた。

「俺さ、ちゃーんと1ヶ月我慢出来たんだよ!凄くない?って訳で、後で場所と時間決めよーね。」
「…うん?分かったよ。」

鼻唄を歌い自分の席で携帯のゲームを始める明日霞を見送りつつ、首を捻って思案する。
1ヶ月我慢?…って、何の話しだったっけ。

最近の多忙に紛れ、すっかり明日霞との約束を忘れていた千里だった。不思議そうな恵と直久の視線に、千里自身も「うん?」と呟く。

「おはようございます、千里君。一昨日はお世話様でございました。」
「おはよう、美景。君こそ、色々と協力してくれてありがとう。」

桜川邸への侵入に一役買ってくれた美景は、その後の事後処理も情報源収集も見事に務めている。

「千里君…あの、傷の具合はいかがですか?」

心配そうに千里の手を見つめる美景に、手をひらひらと振っておく。直ぐに処置して貰ったからか、傷も綺麗に塞がって薄くなっていた。

「心配してくれて嬉しいよ。本当に僕は君に助けられてる。」
「…そんな、私にはまだまだ足りない位です。」

照れてはにかむ表情は、見慣れた千里でもやはり可愛いらしいと思う。
あれ?さっきから恵の反応が無いな。

然り気無く恵へ視線を向けると、何やら難しい顔で美景を横目にチラチラ見ている。お礼を言いたいのだろうか。ああ、でも何故か恵って美景の事あまり好意を持って無い様だし。
暫く様子を伺っていると、話しを終えた美景が席に戻ろうとする。踵を返した美景へ、恵の声が掛けられた。

「…あの、園原。」
「?はい、何でしょうか?」

(う。やっぱりお礼を言わなくちゃ駄目だよね?でも、言いたくない…ああ、でも、人として…)

見るからに苦悩する恵は「うー」と唸りながら、思い切って口を開く。

「あの、今回はありがと!」

恵の勢い込んだ礼に対し、あくまで美景は冷静であった。

「いいえ。…今回は何より【千里君の為】でしたので、桜川君はお気に為さらずに大丈夫ですよ。」

にこやかな美景の言い分は、謙虚に一歩下がっている様に見えるだろう。勿論、千里にもそう見えていた。しかし、その視線を受けた恵は違った。

(お前の為じゃ無いから勘違いするな…って事だよね。やっぱりあいつ気に入らない!)

そんな中、いつも通りに担任が教室に入りHRが行われる。

「…えー。では、朝の連絡を…」

いつもは淡々と聞いていくその中に、気になる情報が入っていた。

「………えー、月宮君は今日は家庭の事情で欠席で…………」

うん?

「………明日は、転入生が来ます。………」

この時期の、Sクラスへの転入生?
何となく胸騒ぎを感じる千里には、他の情報は特に気にする必要は無いと思っていた。

「…………副担任が産休に入るので、代わりの先生が来ます。………」

月宮の欠席と、半端な時期の転入生か。何だか嫌な予感がするな。
隣の席の直久も何か似たような事を思ったのか、思わず視線を交わしたのだった。





千里が思い悩む同時刻、Dクラスでは部屋の施錠を終えて黒板に横に長い表が貼られていた。月に一度の集計だが、いつもと違うのは前に居るのがクラス長の夏雪では無い事だ。

「…さて、執事長がご用事が有り、今日は俺が代わりを務める。」

夏雪の様に学生時より執事を務める者も居ない訳では無いが、クラス長となれば皆無である。しかし不在の時、狼狽える事は勿論無い。何故なら、Dクラスには上位10名が居るからだ。10名とは言っても、執事長が一位となるので9名とも言えるが。

今回黒板の前で話すのは、実質2位の如月きさらぎと、集計のチェックを行うのは3位の門倉かどくらである。

「…なるほど。相変わらずCクラスの素行は悪いな。」

夏雪の時とはまた違う緊張感が、クラス内に漂う。端に座る矢代は恐怖で怯えている程だ。

(…こ、怖い。何であんなに目付き怖いんだろう)

気弱な生徒なら一目で怯む目付きの鋭さは、夏雪には「人を5人は殺せる」と言われている。
常に睨んでいる様なその目付きと、クールを超えて素っ気ないと言われる態度のせいでムチの如月とも呼ばれていたりする。ムチというのは、飴と鞭の事。夏雪は両方を使って上手く人を使うが、如月はほぼムチらしい。

集計のチェックを行う門倉の方は、妙に気だるげに表を見つめて溜め息を吐いた。

「…まるで、終焉の炎に焼かれてろって感じですね。」
「…何だそれは。また何かの漫画か?」

門倉の感想に鋭い目付きのまま突っ込みを入れれば、1冊の漫画を示してきた。

「知らないんですか?最近流行ってんですよ。」

パラパラ捲りうんうんと頷くその目の下には、くっきりと濃い隈が見える。やる気の感じられない猫背と、疲れた様な溜め息だが…彼の通常運転である。

門倉の突っ込み満載の言葉にも「そうか」と返し、如月は進めて行く。

「未だ+は春宮様が先行されている。これからも各自業務を遂行する様に。」
「「「「はい!」」」」

月の集計を終えたDクラスは、素早く片付けが行われる。主に下位の面々が掃除をする中、上位10名は話しをしていた。

「何故、如月君は春宮様が好きじゃないのですか?」
「…は?」

何となくDクラスの主である千里の話しとなり、そう聞かれた如月は舌打ちをしかける。

(前も聞かれた気がするな。)
「言っただろ。まず、主に対して好きとか嫌いがあるのはおかしい。仕えると決まれば、それを行うだけだ。」
「如月君は、真面目だからですね。」

ふう、と溜め息を吐いた興味なさそうな門倉に、今度は如月が同じように質問を投げ掛けてみた。
門倉は外見はこうだしクセも強いが、基本は飴の部類だろう。

「そうだな。春宮様って、あれに似てる。私の好きな戦隊物のブルーに。」

やはりずれている。
如月は面倒になり、話しを打ち切る事となったのだった。Dクラスクラス長夏雪の手足とも言える二人は、執事としては限り無く優秀である事に間違いは無いらしい。

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