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プロローグ 1(異世界に帰る)

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 「はぁーー。 暇過ぎて死にそう」

 僕、野中影次(のなか えいじ)は 病院の個室でリクライニング機能の付いたベットに横たわりながら呟いた。

 僕が病院のベットに横たわっているのは、勿論入院しているからだ。
 事故に遭って怪我をしたから? 

 違う!

 先天的あるいは後天的な病に冒されているから?

 違う!

 世界的にも有名な大学病院で、数年に渡り幾度となく検査した結果。
 僕の体はいたって健康と診断された。

 そう僕の体は、医学的検知から見たら健康体で入院など必要ないのだ。
 しかし、現状僕は病院のベットの上にいる。
 
それは突然だった。

 僕が小学2年生で、教室で算数の授業を受けていて、計算ドリルを解いている時に鉛筆を持つ手が麻痺して動かなくなったのだ。

 僕は手が動かせない事を担任の先生にすぐに告げた。
 最初は、先生も困惑して算数の授業を受けたくないから嘘を言っているのだと疑っていたが、麻痺が本当だと気付くとすぐに授業を中断して僕の両親に連絡を取って、先生の車で病院に連れて行ってくれた。

 結果は問題なし。 原因不明だった。

 原因は不明だが、麻痺の症状は年と共に進行して、発症から2年たった現在、僕の両手両足はとも麻痺して寝たきりになってしまった。
 
 幸い?心臓や肺、首から上は麻痺していないので生命活動に支障はないがこのまま悪化すれば人工心肺機などの機械を装備する事になるだろう。

 そこで不思議なのだが、体が動かなくなる、麻痺する難病は、色々ある 。
 
 一番有名?なのは『ALS』筋萎縮性側索硬化症だろう。
 重篤な筋肉の萎縮と低下をきたす病だが、僕はこれに当てはまらない、いやその他の『パーキンソン病』『ギラン・バレー症候群』『進行性筋ジストロフィー』にも当てはまらないのだ。
 確かに筋力は低下しているが、運動していない場合の平均的な筋肉のおち方で 異常ではない。

 僕の病は、全くの謎なのである。

 僕の両親は、最初は頻繁に面会に来ていたし、世界的な名医がいると聞けば金に糸目を付けず招いたりもしていたが、最近は放置されている。
 僕の事をどうやら見放したようだった。
 それでも世間体を気にして資産家な我が家でも高額な医療費を払って僕を、豪華な個室に入院させているが、面会に来るのは月に一回が良い方だった。

 僕には眉目秀麗で文武両道な優秀な兄がいる。
 心根も優しく将来は医者になり、僕の病を治してやると誓ってくれた人だ。
 実際、最難関の医学部に在籍しており。成績優秀らしい。そして、勉学に忙しい筈なのに僕に会いに3日に一回は病室に来てくれている。

 兄の名前は光輝(こうき)と言う。
 その名の通り光かがやくような人だ。

 それに比べて僕の名前は次男で光の対義語が影だから影次(えいじ)だ。

 最初から期待されてない感半端ない。

 僕は何の為に生まれて来たのだろう?

 僕は最近考える、何かを残したい。僕が生きた証を残したい。
 そしてそれは、誰かの役に立ち、誰かが喜ぶ事であってほしいと・・・・・。

 でも現状寝たきりの僕に何が出来るだろう。

 そんな事を考える毎日を送っているある日、僕の運命の選択を迫られる事件が起きた。

 それは兄が僕の病室に来る途中、車道に飛び出した子供を庇い車に引かれて、僕の入院しているこの病院に運び込まれたと言うものだった。

  その事故を知った僕は言葉が出なかった。と言うか、暇過ぎて死にそうと呟いた日から僕の病は悪化し、のどを切開して人工呼吸器を付けているので物理的に出せないのだけれども・・。

 兄の手術が終わり、父と母が僕の病室に兄の現状を伝えに来てくれた。

 兄の心臓などの臓器がメチャメチャに損傷していて今現在、人工心肺機に繋いでかろうじて生きているのだとか、今日中に心臓やその他の内臓を移植しないと助からないのだと教えてくれた。

 僕の病室が重苦し沈黙に包まれる。
 すると突然その沈黙に耐えられなくなったのか母が泣きながら僕に抱きついてきた。

 「どうして私の愛する子供達が苦しまなければならないの~~」 

 母のその言葉と痛すぎるくらいの包容で僕は気付いた。

 両親は、僕を見放してない。
 ただ、日に日に弱って行く我が子を見るのが辛かったのだと。

 僕は愛されている!!

 父は、泣き崩れる母を連れて兄がいる集中治療室に向かった。今夜が峠のようだ。 

 僕は動かない体に力を入れる。
 何かに突き動かされながら、数時間粘った。

 すると今まで全く動かなかった体が動いた。
ただし、まるで素人が操り人形を操る如くその動きは緩慢でぎこちない。

 僕はゆっくりとベットから腕を上げ、のどに付いている人工呼吸器を外す。
 今の僕はこれがないと呼吸が維持できない。数分で窒息死する。

 「ゼェー、ゼェー」

 息が苦しい。

 でも、これでいい。
 
 僕が死んだら僕の臓器を兄に移植できる。
僕の体は、検査では健康体だ。兄と兄弟だし血液型も一緒だ。このまま生きていても死ぬ僕と助かるかもしれない兄なら兄が助かるべきだ。

 どうか僕の体兄を助ける為に頑張ってくれ。
 どうか神様僕の体が兄の命を守れるようにして下さい。

 「ゼェー、ゼェー、ヒュー、ヒッ・・・」

 神様に祈ったところで僕の命は終わりを迎えた。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 それは真っ白な空間だった。
自分がその空間に漂っているのを感じていた。

 僕はどうなったんだ?

 兄は?
 
 ここは何処だ?

 俺がそんな事を考えていると、何処からともなく声が響いてきた。

 不思議な声で男にも女にも、幼子にも老人にも聞こえる声だった。

 《最初の疑問から答えよう》

 《君は死んだんだよ》
 
 《そして、君の兄は君の臓器を移植されてたすかったよ。 術後の経過も順調だよ。
 因みに、君の兄は、医者になって多くの患者さんを助けて感謝されて、99歳で子供達や孫達に見守られながら安らかになくなる予定だよ》

 《ここは、君達が死後の世界と呼ぶところさ!!》


 それが、僕と異界の神様との出逢いだった。
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