28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第一章 愛される前の準備

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 「本当に申し訳ない」

 「いやいや? 私もぼーっとしていたので、気にしないで下さい」


 頭を下げて謝るその人は、彫りの深い外国人風の渋い男の人。

 この人、もしかして杏奈の言ってた新しい部長なんじゃ…。

 こりゃまた、随分とイケメンだな、おい。


 白いシャツと少し緩めに絞められたネクタイ、銀縁のメガネがなんとも色気をだだ漏れに…つか、ガタイいいな。肩幅なんて私より一回り以上でかいんじゃないか? それは、言い過ぎか?

 でも、身長は…多分190cmはあるだろうな。

 こんなイケメンで身長あるのに一般人でいいのか、この人。

 とまぁ、ジロジロと見てしまったわけで、ズボンのポケットからスマートにハンカチを差し出してくれている男性を、こんなに食い入る様に見てしまうとは、不審者極まりないな。


 「そんな! ハンカチにシミが出来てしまいますし、後少しで帰りますので大丈夫ですよ!」


 嘘だけど、嘘も方便だよ。大人の嗜みだ。





 と思っていたのに、そんな姿では帰せない。コーヒーのシミを作って何もお詫びをしないのはいけないと言われて、こちらの部まで来て欲しいとお願いされた。

 まだ疎らに残っている新しい部署は小規模部隊らしい。並んでいるデスクは通常の課の半分くらいだろうか。

 私は新しいイケメン部長から白いワイシャツとピンクの薄葉紙に包まれた物を渡された。

 これに着替えて、汚れたシャツやらは別の紙袋に入れてくれと言われた。

 なんでこの部署に女物のワイシャツがあるのかと不思議で受け取ったが、イケメン部長さんは「ランジェリー開発で、使う予定でいくつかストックがあるんですよ」と、苦笑して教えてくれた。……顔に出てたのか。

 「まさか、こんな所で…こんなのまで着替えるなんて…しかも、こんなに色っぽい…」


 手渡された薄葉紙の中は薄紫色のブラジャーだった。

 カップ上部分のレースは薄く透けていて肌が見えるが、胸を覆う部分には大輪の花が咲いた様なレースが大胆にあしらわれている。
 こんなに色っぽくて大人っぽいブラ…持ってねーし。

 つか、今日は生理だったし楽な格好って思ってカップ付きのキャミソールなんだよなぁ…。


 鏡に映った茶色のシミが出来た白いキャミソールに薄茶色の染みを付けた姿の私、28歳アラサー女子。

 何とも滑稽である。

 お言葉に甘えてキャミソールを脱ぐと、ぺったんこのお胸がこんにちは。

 女も憐れむ可哀想な胸だ。

 そこに色気たっぷりの薄紫色のブラを当てがう。

 ぴったり…とまではいかないまでも、綺麗に収まった胸を前に、こんな色っぽいのつけた事ないしなぁ。と鏡に映る自分に驚いている。

 うむ…なかなか…


 「いかがですか?」

 「わひょっ?! あの、だい、じょぶです」


 び、ビビったぁー…

 忘れてた、私今着替えてるんだった。

 しかも、薄いカーテンの向こう側には例のイケメン部長さんでございます。

 あまりの可愛いブラのデザインに、忘れてしまっていたよ。ここが会社だって…。


 白いシャツに腕を通してみて、またビックリ。下着の色が透けてない…。

 いつもなら、キャミソールの色も空けちゃうことあるのに。だから、ベージュの下着が多いんだけどねぇー…ははは。


 パンツスーツにシャツを閉まってカーテンを開けると、さっきのイケメン部長さんは居なくて、数人残っていた筈の社内には帰り支度のこれまたイケメン君が1人。


 「あぁ、終わったんだ。神崎部長ならすぐ戻ってくるよ。それじゃ」

 「あ、えと。お疲れ様です…」


 イケメン君はなんとも爽やかかつ生意気に声を掛けて来て、颯爽と帰ってしまった。

 どう見ても、私より年下っぽい男にタメ口きかれる事になろうとは…イケメンなら許されるとかいう決まりでもあるのか?

 少しムッとしてしまうのは、男という生き物がいつでも優位に立とうとする生物だと偏見を持っているからなわけで…。

 まぁ、例外だってあるんだろうけどさ。


 「あぁ、終わってたんですね。お待たせしてすみません」


 両手に紙コップを持って現れたのはさっきのイケメン部長さんーー確か、神崎部長。

 「はい」と差し出されたのは、オフホワイトのミルクティー。

 少し湯気がたっていて、手に持つとじんわり暖かい。


 「何から何まで、すみません」

 「謝るのは私の方です。汚してしまってすみません。汚れた物は、私でクリーニングに出しますか?」

 「クリーニングだなんて!?」

 「もしお嫌でしたら、代金だけは私が持ちますのでクリーニング行ってくださいね」

 「…はい」


 あ、何だろう。

 別に強制された訳じゃないのに、拒っちゃいけない雰囲気出されてる、気がする…。

 物腰柔らかで、口調も柔らかくて丁寧なのに、断れないって…営業マンとして最強じゃないのか?


 「それから、着心地はどうですか?」

 「え?」

 「下着です。今度、うちから出すデザインですよ」

 「あぁ! このブラ、やっぱり…」


 やっぱり、このイケメン部長が杏奈の言ってた人だ。

 そんで、これがうちの会社で出すブラジャー。なんてハイセンスなんだ!?


「普段、こんなにキレイなもの選ばないのでドキドキしました。でも、着心地いいです。」

「それは良かった。サイズ、大丈夫でしたか?」

「ふぇっ⁈ サ、イズ…えーっと…大丈…」


 大丈夫といえば良いのに、この人の目が「正直に言いなさい」とでも言ってるみたい。

 彫りの深い目とブラウンの瞳、キリッとした眉毛。

 何この、謎の威圧感…イケメンだからか?!

 イケメンだけの所業なのか?!

 自分が今から言おうとしている事にビクビクしながら、イケメン部長から視線を外した。


 「ちょ…ちょっとだけ…お、大きい…かなって…で、でも! 大丈夫です!」

 「…そうですか。大きい筈はないと思ったんですが」

 「ふぁっ?!」

 え、ちょっと見ただけでサイズわかんの? 待って、透視でもしてる?!


 「うーん」と考え始めたイケメン部長は何かを決めたのか少しだけ頷いてから、慌てて白黒してる私を余所に、クルリとデスクに引き返した。


 「そこのカーテンの向こう、もう一度入ってもらえますか? 後でセクハラされたと訴えても構いませんので、シャツを脱いで待ってて下さい」

 「はいっ?!」


 ぐっと背中を押されて再びカーテンの向こう側に戻された。

 このイケメン部長は何を始めるつもりなの?

 こんな今日お会いしました。みたいな私相手にまさか、変な気起こしたんじゃ…

 とは思ってみたけど、鏡に映った自分の姿に、それはないな。と呆れて自嘲気味に鼻で笑っておいた。

 きっと、新しいサイズのブラでも持ってくるんじゃないかな。


 「それでは、失礼します」

 「は、いぃっ?!」


 新しいブラを差し出されると思ったら、カーテンの向こうから手が出てきて、パチンとあっさりホックを外されてしまった。

 その後、グッと肩を前に押されて前屈みになるように言われる。

 でも、頭の中パニックの私には何が何やら…


 「大丈夫、何もしませんよ。さぁ、少し前屈みに」

 「あ、おにょ…えと…はい…」


 また、有無を言わせないみたいに聞こえてしまって、何が何やら分からずにされるがまま。私は催眠術にでもかかっているのか?


 外されたブラは肩から垂れ下がっているだけにされる。カップ部分で胸をすくい上げるように当てられて、一番端っこで再びホックが止められた。

 その後、肩から前に伸びてきた大きな白い手袋をした手が脇の下の肉を引き上げてカップの中に収める。もう片方も同じ。

 その後、背中からも肉を奪われ今度はブラの下からカップの中へ。

 最後に肩を引き上げられて鏡に映る自分を見た。真っ赤な顔をして、詰めていた息を吐いて、少し荒くなった呼吸のせいで上下に上がる肩…そこから下にキレイにブラジャーに収まったいつもより少し大きな膨らみの自分の胸。


 「え…こんな、大きく…え?」

 「身長が高いから、無意識のうちに猫背になってしまうのでしょう。身長の高いスレンダーな女性に多い傾向です。猫背になると、胸の脂肪は自然と脇下や背中、二の腕に流れてしまいます。寝ている時も同じですよ。脂肪はその人の生活の中でゆっくりと移動してしまいます。それを元に戻すのが下着です。男のように筋肉が付きにくい部分ですので、致し方ありませんが」


 なんという…これが私の胸かっ!?

 知らないうちに背筋が伸びて、胸がキレイに見える位置を無意識に探して体が動く。


 「私の胸って…こんなに…」

 「はは、見ていないので上手くいっているか不安でしたが、その声色なら大丈夫ということですね。…でも、これは立派なセクハラですから…本当に申し訳ありません」

 「えっ! いや、そんなことっ…おぎゃっ?!」


 胸がないことを十数年間悩み続け、あらゆるものを試しては断念し、諦めていたアラサーに、希望と感動を与えてくれた!

 それを謝らないでっ!?

 申し訳なさそうな声のイケメン部長に慌てて、振り返ろうとした。




 ※※※ピンヒールで勢い良く180度回転するのは危険です。※※※




 そんなテロップが頭の中にふっと浮かぶ。

 グラリと傾く視界に、やってしまったと一瞬後悔と焦りも浮かぶ。

 が、真後ろにはイケメン部長。

 当然のように抱き留められ、頬が分厚い胸板にくっ付く程の勢いで腕の中に飛び込んでしまった。


 「あっぶなかった…」

 「す、すみません!」

 「いえ、私は嬉しいんですが、この体勢はかなり役得なので…それより、足首捻っていませんか?」


 冗談なのか何なのか、そんな楽しそうな声が振ってきて背中と腰に回る暖かい手袋の感触に再びかぁっと顔が熱くなる。

 恋愛経験ゼロの生粋の喪女に、この体勢はいくらなんでもハードルが高すぎる・・・。

 慌てて離れようとぱっと顔を上げてしまったのが間違いだった。

 こちらを見つめる、ブラウンの鋭い瞳に捕まってヒュッと息が詰まるほど緊張した。

 あぁ、これだからイケメンは困るんだよ。私にイケメンの免疫は無いんだから。






 その後のことは、あんまりはっきりとは覚えていない。

 でも、慌てて離れて上着を引っつかんで、何か焦りながらもごもご言葉を話してダッシュでその場を離れた。

 パニックの収まらない頭で、パソコンの電源を落として、荷物を掴んでこれまたダッシュで帰路に着いた。

 帰りの電車で外国人の男の人を見かけて、ドキッとしたが容姿も身長もあのイケメン部長ではなかったから、ほっとしている自分がいた。
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