28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第二章 愛される覚悟の準備

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 「あ、あの!」

 「なんでしょうか?」

 「ふぁ…ちょ、ぶちょ」

 「はい」


 なんの問題もありません。とでも言いたいのか。

 なんて返事をしていいのか分からなかった数十分前、わけも分からず頷いてしまった自分を呪ってやりたい。

 なぜかって? え? それ聞いちゃいます?

 あれから今までの間ずぅ~~っと、部長からキスの雨を受け取っているわけです。

 唇以外への…。

 耳やら首筋やら、鎖骨やら、こめかみやら、おでこやら…もう唇以外のありとあらゆる場所に降るキスの雨。

 それが、下に下がらないことだけがとても嬉しいのですが、これ以上は糖分の取りすぎで中毒起こしそうなんです。


 「飯塚さん」

 「ん…」

 「涼子と、呼んでもいいですか? というか、呼びます」


 えぇー、聞いておいてそれってありですか? という突っ込みを浴びせてやりたいのに、それを許してもらえそうにない神崎部長の糖度高めの攻撃にたじたじ…。


 「涼子も、私を洋司と呼んでください」

 「んぅ…ふっ」

 「ほら」


 ほら。とか言いますけどね、つい数十分前まで28年間彼氏がいなかった女に、こんな猛攻撃浴びせておいて、名前呼びまでさせるって割と急かしてません?

 本当、そろそろマジで心臓が止まる。


 鳴り止まない心臓の音がさっきから体内でずっとドドドドっておかしな速度で拍動している。

 これはいずれ止まるんじゃないかと本気で考えてしまうが、そんな事は知ったこっちゃないんでしょうよ、このイケメンフェロモン製造機は。


 「も、許し…てぇ…ぁふ」

 「あー…それは逆効果だから、却下」

 「へっ?! ほきゃっ!」


 急に神崎部長が体から離れたと思ったら、肩に抱き抱えるようにして170cmを越える私の体がいとも簡単に浮き上がった。

 そのまま、すぐ近くのベッドにボフンと少し乱暴に降ろされて、何度も少女マンガで夢見てきた、『彼氏に組み敷かれる構図』を自分がとる事になった。

 ワンピースから出た脚を神崎部長が膝立ちで跨いで、肘を私の肩付近についている。

 神崎部長と私の距離は、物差し15cmほど。

 さっきよりも距離が出来たことに、ほっと息をする暇は出来たけれど、ギラつくブラウンの瞳は容赦ない。


 「涼子…」

「は、はい」

「キスがしたいのですが、そこまでやると流石に許容オーバーですか?」


 え? それ聞くの?

 さっきまであんなに至近距離でチュッチュしといて、それ聞いちゃうの?

 神崎部長の質問の意図が読み取れない。

 いや、そもそも読み取れていたら、こんな事にはならなかったと思うのです。


 あ、でも…この間読んだマンガであったな。

 キスしたら、すっごく気持ち良かった…的なやつ。あれって本当なのかな?

 とかなんとか、呑気に考えを巡らせられる辺り、私はアホなのかもしれない。


 「黙っていると、肯定と取りますよ?」

 「へっ? あの、私…」


 キスすら初めてです。

 なんて、今更恥ずかしがる事でも無いんですがね…処女だって言ってますし。

 でも、なんか恥ずかしいんですよ!

 なぜでしょうか? 誰か分かります?


 まごまごとどう言えば良いのか、あれやこれやと答えなんて1つしかない事を考えている私に、神崎部長の我慢も尽きてしまったのか、明るかった視界に濃い影が入り込んだ。


 「言ったでしょう? 私が女にしてあげます、と。涼子、キスの仕方を教えてあげます。目を閉じて、軽く口を閉じて」


 何という甘い声なのか。逆らうという事など頭に過ぎらない程の声に導かれる様に、おずおずと瞼を下げた。

 固く結んでいた唇を緩ませる前に、口の中の唾液を少し飲み込む。


 「…もう少し口を緩めて。そう、上手ですね」


 神崎部長に言われて、口をまた軽く閉じる。

 今度はクスッと笑った様な声がして、褒められた。

 おでこに髪の当たる感触がしてすぐ、柔らかく暖かい何かと唇が優しくぶつかった。

 それは、ゆっくりと押し付けられてすぐに離れていく。

 また、クスッと笑われた気がして目を開けると、目尻にシワを寄せて優しく微笑んでいる神崎部長がいた。


 「どうですか? 初めてのキスは」

 「えと…あの。や、柔らかかった…です」

 「ふふ。…君は本当にかわいいですね。では、次は鼻で息をしましょう」

 「つ、次?!」

 「そう、次は私のキスの仕方を教えますから、君はこっちを覚えて下さいね」


 『これからイタズラします!』みたいなゴールデンレトリバーの顔。

 やばい、この顔の時はやばい!

 フェロモンがいつもの2倍になる!

 今日1日で、何となく神崎部長の理性が崩壊する瞬間が分かる様になったのは、ある意味で私の恋愛偏差値が上がったからなのかもしれない。

 そして、迫って来る神崎部長が恐ろしい事を口走った。


 「あ、そうだ。…涼子、キスをした後、君をめちゃくちゃにしてしまったらすみません」

「え? ちょっ! んぅ?!」


 噛み付くように唇をついばまれるキスが続く。

 吸い付くようにチュッとリップ音が混じって、上唇が浮き上がる。微かに離れた瞬間に無意識に開いた唇を逃がさず熱いと感じるほどの舌がトントンと歯列をノックする。

 時折強く抉じ開けるようなノックと、優しく誘うようなノックが混ざる。

 焦れた様に、神崎部長の指が私の右耳をくすぐるように弄り始めた。すりすりと優しく擦るように動いたり、耳たぶをフニフニと摘んだり、親指で耳介上部を撫でられたりと、なんとも言えないゾクゾクとした感覚が全身を駆け巡る。

 呼吸もどうしていいのか分からないのに、そんなことまでされてしまったら私の心臓がいよいよ悲鳴を上げようとする。


 「ふぅ…んッ」


 我慢も限界で、少しでも空気を取り込みたくて開いた口から空気と一緒に神崎部長の舌も入ってくる。

 初めての感触に、身体がじわりと熱を持ち始め、お臍の下辺りに力が入る。



 こんな歳まで性に対する知識が無かったわけではない。大好きな少女マンガの中には、そういうシーンだってあるわけで、大人になればTLだって目にするわけで…このキスがいわゆるディープキスだって事も十分すぎるほどに分かっている。

 その描写を見ているから、知識としてこういう時には女性側も応えていたのだって覚えているのに、実際に自分がそうなるとどう応えていいのか全く分からない。

 目の前の神崎部長のバスローブを掴んで、ただひたすら与えられる感覚を受け入れるしかない。

 歯裏、上あご、舌の下…追いかけてくる神崎部長の熱い舌に翻弄されながら、じわりと熱がこもっていく下半身の感覚と耳に届くクチュリとした水音、弄られっぱなしの右耳。

 もう、わけも分からない。

 本当にさっきまでこんな展開になるなんて微塵も思っていなかった私が、彼氏が出来て、キスまでしてる。

 しかも、その相手はイケメンすぎるほどの神崎洋司部長。

 もう、これは夢かもしれない。目を開けたら、枕を抱きしめて自分の唾液でべちょべちょにしている状態かもしれない。こんなわけの分からない思考をしているから、失敗するんだ。

 開けなければいい目を開けてしまった。


 「涼子、目…開けたらダメじゃないか。…ふぅ、俺だって限界なんだ」

 「ふぁ?」


 ほやぁ~っとしていた視界に映ったのは、キスの最中もきっと目を開けていたままだった神崎部長のキレイなブラウンの瞳で、それが参ったなって表情になって左の肩に神崎部長が頭を埋めた。


 「そんな、気持ちよさそうに潤ませた目で、理性を抑え込んでいる男を見たらダメじゃないか」

 「ぶ、ちょ?」

 「…涼子、今日はちゃんと我慢をするので…頼むから、俺を名前で呼んで」


 あぁ、この人ずるい。

 自分が極上の男だって分かってるんだ。

 私の目が潤んでるとか言うけど、貴方の目だって潤んでいるし、熱い吐息だってさっきから私の身体をさらに熱くさせているし、耳を弄るのだって止めてくれる気もないらしいし。

 今日、色んな初めてを経験したばかりなのに、この人はまだ私を逃がしてくれないらしい。

 それどころか、『お前は俺のものになったんだろ?』って確認したいみたいに、不安げに揺れる視線を浴びせてくる。えさを前に長いお預けを愛犬に食らわせている気分になってくる。


 もう、最後は恥ずかしさと止まった思考の中で、言い慣れない名前をたどたどしくつぶやいた。

 つぶやいてから、盛大に後悔をしたわけです。

 我慢するとか言ってたくせに!! さっき、今日は我慢するからって言ったのに、またあの濃密過ぎるほどのキスを浴びせかけられて、驚くほどに身体を密着させて全身で神崎部長の心地よい重みを感じる事態になった。
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