28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第三章 愛され開発生活本番

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 うとうとし始めた頃、左側の暖かさに身体を反転させた。

 キツイと気にしている目は、ふんわりと閉じられ、普段の大人っぽい雰囲気はなりを潜めている。
 こんなあどけない顔で寝るのか。と胸の内で何ともくすぐったい感情がうごめく。


 昨夜、ベッドに組み敷いて微かに脅える彼女を見て最後の理性が正気を取り戻してくれた。それが見えていなければ、きっともっと酷くしてしまったかもしれない。
 これでもかというほどに、欲を吐き出す様なキスを浴びせて、容赦なく攻め立てた。
 集まりだした熱を抑えるのにも苦労したし、どうしようもない程に欲しいと思う気持ちを堪えるのにも苦労した。


 日本に戻る為の準備も覚悟も、全てこの手に握って帰って来た。

 この子に相手が居れば、奪ってやる気負いだってあった。それぐらい、俺にとってこの子はいつの間にか特別になった。


 何かきっかけがあった訳じゃない。

 強いて言うなれば、『いつも強く見せようとする人が泣く理由が自分であればどんなに幸運か』という、とんでもない狂気に似た感情を抱いた事がきっかけだったと思う。

 これが世間で言うところのヤンデレという奴なのかと頭を抱えたくなる。
 10も下の子に、こんなにも夢中になるなんて。

 しかも、キスすらした事がなかった…28年間、男を知らずにいたんだ。
 膨れ上がる興奮を抑えられた俺を、自分で褒めてやりたいよ。


 しばらく、むにゃむにゃと寝言を言ったり、時たま眉間にシワを寄せる寝顔を、飽きる事なく見ていた。
 むしろ、それが幸せで仕方なかった。



 「…んぅ…」

 「涼子さん、おはようございます。」

 「ん、おは、よ……っえ?!」


 ガバッと起き上がってびっくりしている彼女に、いつもの調子で声をかける。

 始め寝ぼけていた彼女も、既にスーツを着ている俺に昨夜の出来事を思い出したのか、頬を赤くして下を向いてしまった。


 あぁ、朝から可愛すぎだ。いじめたくなる…。


 エロオヤジのような思考のまま、下を向いて顔を赤くしている彼女に近付いて、さらに追い討ちをかける。


 「このまま昨夜の続きでも、構いませんよ?」

 「なっ?!」

 「さぁ、朝食に行きましょうか!」


 熟れたリンゴのように美味しそうな彼女に声をかけて、彼女の身支度が終わるのを待った。

 2人での朝食も、緊張していた様だったけれど、暫くすると慣れたのか普段通りの飯塚涼子になっていく。


 「どうしたら決裁通るんでしょうか?」

 「ネックはやはり経理部長ですか?」

 「…はい」


 あの狸か。

 あれの叔父も会議では踏ん反り返っているが血筋が無ければあそこ迄にはならなかっただろうな。

 頭の回転が遅くて、指示の出し方も下手な割に突いてくる箇所は割と当たっている事が多い。
 意図していないのがまた苛立たせるんだ。


 「そうですね。あの人は、あまり専門用語や難しい回りくどい表現を嫌います。一度、資料の中身を…職場見学に来た中学生にも分かるような優しい内容にしてみるのはどうでしょうか?」


 きょとんとする彼女だが、あいつはプライドの高い人間だから分からないことを分からないとは言えない。
 かと言ってそれをなぁなぁにする程、無能というわけでもない厄介な人間だ。
 だから、まずは分かりやすく説明して、指摘ポイントを明確にさせる事が1番の近道だ。

 ここで横溝が出てきたりすれば、恐らくあいつの感情を逆撫でするだけだろうしな。
 横溝を敵視しているからなぁ…あいつ。


 ほんの少しアドバイスと言えるほどの物ではないにしても、突破口のヒントを伝えて少し早めにホテルを出た。



 「部長、どんだけ早く来てんですか?」

 「今日はたまたまだよ。」

 「……昨日と服が一緒ですね。週の初めからお盛んな事で」


 からかいにも似た言葉を発するこの男は、永田 一慶。
 かなりの童顔で、ぱっと見は20代後半辺りだが実際には30を越えたおっさんだ。
 この見た目で、酒の飲み方も好みもおっさん。強さは底の抜けた桶だ。

 そんな見た目を、うまく使って営業してくる辺り、あざといと思う。


 「それで、いつになったらお目当の子にそれを返すつもりなんです?」

 「…もう少し、後だな」

 「もう少しって言いますけど、あれから1ヶ月近く経とうとしてますけどね」

 「タイミングがあるんだよ。」

 「タイミングって……たかがワイシャツ返すだけにタイミングだの何だのしてたら、それこそタイミング逃しますよ?」


 永田の言うことにも一理ある。

 正直、今既にタイミングを計り損ねた結果、1ヶ月近く机にぶら下がったままだ。

 関係を進展させるために強引というか、セクハラというか…あまりにも余裕の無さ過ぎる行動を取ってしまった。
 拒否権を与えない返事をさせて、無理矢理繋ぎとめておくしか方法が無かったとは思えない。
 それなのに、そんな卑怯な手を使うしかなかったのは、俺自身に余裕が無かったから。

 余裕がない様を見られることが嫌で、経験不足の女の子が余裕をなくすほどのキスをして誤魔化して…横溝にはばれたくないな。


 「お、春コスメの決裁、再チャレンジですねぇ~」

 「…あぁ、でもこれなら大丈夫だろう。」

 決裁に添付された資料は以前よりも簡略化され、別で詳しい資料も添付されている。
 内容には図面が多くなり、分かりやすい数字の資料も加えられた。
 これなら、次に来る指摘とあいつの気に入らないポイントが分かってくるだろうから、攻め方も変えられる。

 相手によって、攻め方と守り方を変える方法を見つけるには、ある程度関係を持つ他にない。
 だが、彼女がこれ以上別の男たちと関係を広げて、彼女の魅力に気づいてしまう男が出てこない可能性は無い。こんなに気持ちが急くのはなぜだろうか。


 「部長、春樹さんからお電話です」

 「分かった。下に行くと伝えてくれ」


 さて、こちらはこちらでやらなければならないことが山積みだ。

 春コスメと同時期にわが社から出る下着を売り込むために、デザインの再思考を加える。
 テーマや客層ももう少し年代をあげて、それぞれにデザインを考えることにシフトを変えなければいけない。

 今の日本人女性のニーズに合わせて、デザインと性能を変える。

 そのための打ち合わせだ。


エントランスにはグレーのスーツを品良く着こなした長身の女性がいた。

 他の誰よりも目立つその容姿に、行き交う全員が視界の端に彼女を映しこんでいた。


 「いくつか持ってきたデザインは没になりそうね」

 「すみません。もう一度、練り直したいと思っております」

 「そう。じゃあ、話を聞きましょう」


 春樹 ジョアンヌ。

 大学時代の友人の奥さんだ。3児の母とは思えないそのスタイルと、アメリカ人の外見から発せられる流暢な日本語にギャップを感じる人間は多い。
 その旦那が気弱そうな優男であることも、ギャップの一つだろうな。


 会議室に彼女を通し、もう一度企画の筋書きを変えることを伝える。
 これまでは働く強い女性をイメージしたコンセプトを売りにしてデザインも攻めていた。

それに少し手を加えたいというのが本音だ。


 「…ねぇ、洋司。貴方、この下着を着せて脱がしたい女性が出来たんでしょう?」

 「……ノーコメント」

 「やぁだぁ! ちょっと、そっちの方が気になるわよ! 貴方がそんな風に想う相手って、どんな子なの?」

 「…ノーコメント」

「ちょっと、デザイナーは私よ? デザイン案のために聞きたいのに、それでもダメだって言うわけ?」

 「…」

 「いーわ。譲二や郁に言ってしまうから!」

 「…はぁ。分かった。まだ言うなよ?」


 はしゃぐジョアンヌに、頭が痛くなる。

 横溝や妹に知られたら、もう会社に出社するたびにからかいの目線を受けるのが目に見えている。いや、横溝にはもうバレているだろうが……出来れば彼女と本当にうまくいくまでは、面倒事は避けたい。


 「で、どんな子?」

 「強がりだな。責任感が強いがゆえに、抱えられる重さ以上のものを、頑張って抱えようとする」

 「ふぅ~ん…仕事熱心な子なのね」

 「まぁ、そうだな。仕事には真直ぐすぎる程だ。もう少し緩く構えて、周りを頼ってもいいんだろうが、それが苦手なのか無意識に一人で頑張ろうとしてしまうんだろうな。何でも自分がやってしまう方が速いからついつい手を出してしまう」

 「あぁ~、出来る長女タイプね。」

 「それなのに、実はとても弱い。隠れて泣いてしまうから、ついついこっちの手が出てしまう。出来ることなら自分の背中に隠れて泣いてくれればいいのにと願うし、誰にも見せたくないとも思う」

 「…洋司、それは逆でしょう? 誰にも見せたくないから、自分の背中に隠して泣いて欲しいのよね?」


 してやったりとにんまり顔のジョアンヌに、あっけなく見破られてしまった願望。ここまで感情に出やすい人間だったかと自分に呆れてしまう。


 「それで、その子とはどこまで進んでいるの?」

 「っふ…まだこれからだな」

 「あら、面白そうね! じゃあ、このサンプリングはあげるわ! その子、サイズは?」


 持っていたカバンの中を探るジョアンヌが当然知っているだろうという態度で聞いてくる。

 確かに、あのとき彼女に渡したサイズは思いのほかぴったりだったらしい。


 「Bだな」

 「なら、念のためにAとBの両方を渡しておくわ」


 俺は彼女の触れたことのない胸のサイズが分かるほどに、彼女を見ていたのか、それとも想像していたのか…どちらをとってもただのエロオヤジだ。

 手渡された下着はそれぞれセットで袋に入っている。

 攻める働く女性をコンセプトにしていただけに、中々色もデザインも際どく攻めている。

 ハーフカップのブラジャーとおそろいの2種類のショーツ。

 Tバックとバックレースのショーツに、年甲斐も無く少し胸が躍る。


 「その子、すっごく純情な子? それとも、過去ビッチ?」

 「前者だ」

 「どれくらい?」

 「…俺が初めてになるだろうな」

 「あら…それなら、洋司は頑張って耐えなくっちゃね? 初めてはとっても大切だもの。素敵なものにするために彼女の身体をちゃんと時間をかけて解してあげてね?」


 最後にさらりとそんなことを言ってしまっても、下品にならないのは彼女の持つカリスマ性のせいだろう。

 言われずとも、彼女にきちんと教えていくつもりだ。

 時間をかけて、俺の愛し方をきちんと刷り込ませて、俺しか知らない女になってもらわないと困るんだ。

 と考えながら、やはりただのエロオヤジだなと肩を落とした。


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