28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第三章 愛され開発生活本番

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 またもや残業漬けの日々。コーヒーの酸味と苦味が身体に染み渡ります。

 まばらになった人の中には、高木君の頭も見える。

 小田ちゃんと関根さんの引継ぎを受けて、業務量が増えたことで要領を掴むまでに少し時間がかかっているみたい。それでも、前より精度も効率も上がって来ているから安心している。


 「はい、企画営業1課、飯塚です」


 デスクのピッチが鳴ってディスプレイに小田ちゃんの名前が並んだ。


 <お疲れ様です。小田です>

 「お疲れ様ぁ~」

 <先輩、高木君どうですか?>

 「頑張ってくれてるよ~効率も上がってきたし、期待できるね」

 <良かった。で、先輩にニュースです>

 小田ちゃんも、なんだかんだ言いながら、高木君を気にしちゃうのね。まったく、素直じゃない先輩なんだからぁ。

 「なに?」

 電話を肩に挟んでカチカチとマウスを動かす。
 小田ちゃんの声が心なしか、少し興奮しているように弾んで聞こえるが、どんなニュースなんだか。


 <辞めたいって言ってる女子2名、なんと色恋沙汰が原因らしいです>

 「はぁ? なにそれ。」


 いや、色恋沙汰って…10代の高校生じゃないんだから、そんなことで辞めるって有り得る話なの?
 そんな事が原因で、私の業務量増えてるってことか…なんかむなしくなって来たぞ。

 大きなため息をついて、電話の向こうで詳細を話したがっている小田ちゃんに先を促す。


 <とある人に憧れ以上の感情を持った2人の内1人が抜け駆けして、その人に告白したみたいなんですよ。それを噂で耳にして今度はもう1人が猛アタックを仕掛けているみたいです>

 「なにそれ。しかも仕掛けているって現在進行形なの?」

 <そうなんですよ。今も業務用として聞いている連絡先を駆使して、食事に誘ったりだとか相談に乗ってもらったりだとかをしようとしてるみたいですよ。ただ、その人もヒラリヒラリと上手くかわしているみたいで中々捕まらずで、女の子2人の関係はどんどん悪化…しかも運が悪いことに同期なもんだから同期の間でも話題に上がってて、散々なことになってるみたいです>

 「なによそれ…しかも、そのアプローチされてる人もいい迷惑じゃないの。もう、頭痛い」

 <ですよねぇ~…最近の新卒ちゃんたちってわかりませんね。でも先輩…その相手を聞いても驚かないで下さいね?>


 驚くなってことは、私の知っている人なんだろう。と思ったら、1人しか頭に浮かばなくてさらに頭が痛い。私が平穏に仕事をこなせる日はいったいいつ来るの。


 「神崎部長とか言わないでよね…」

 <わぉ! 彼女の勘ですか?!>

 電話の向こうではしゃぐ小田ちゃんに、大きなため息をついてしまう。

 今会社の中で騒がれていて、そんだけアプローチを受けてさらには取り合いになりそうな男性社員なんて、1人しかいないだろう。想像に容易いだけに、自分の後輩たちの行動が情けなくて肩が重くなる。


 「勘ってねぇ~…もう、迷惑掛けまくりじゃない。今度謝っておかないといけないなぁ」

 <……先輩、焦ったりしないんですか?>

 「…焦る? なんで?」


 まぁ、焦らないわけではない。なんて言ったって、今年一番の目玉新商品の売り出し時期に、後輩が迷惑をかけてさらに現場を引っ掻き回しているなんて聞いたら、上司・先輩として焦らないはずがない。

 小田ちゃんの声のトーンが少し低くなって、ちっちゃなため息が電話のスピーカーから聞こえた。

 そうよね、ため息つきたくもなるわよね。


 <先輩、いいですか? 23歳の女子2人。あの二人かわいい系で今年の新卒の中では男子にも人気があるって聞いてます。そんな若い子が自分の彼氏にアプローチしてるんだから、彼女ならこういうときに焦って、彼氏の顔見に行って甘えるのが定石なんです。分かりますか?>


 いやいや、分かりますか? ってねぇ。

 仕事しに来てるんだから余計なこと考えて無駄にするなんて勿体無い事…そういうのは漫画かドラマの中だけで起こるからときめくのであって、リアルに起きたら鬱陶しいでしょうが。


 その後も小田ちゃんはあーだこーだと色々と言っていたけど、最後には『これだから社内の人間に恋すると厄介なんですよ。面倒くさいことこの上ないです』と言って電話切った。

 ほら、小田ちゃんだって面倒くさいって言ってるじゃないの。

 と言いつつも、気にならないわけではない。


 やっぱりモテるんだなって再確認することにはなった。そう言えばあの新卒女子2人…私より胸あるし結構大きいよね、確か。と、思わず自分の胸元を確認して、ペッタンコのかわいそうなお情け程度の膨らみに空しさが増してゆく。むしろ、私より胸のない人がいるなら仲間だと賞賛して、酒を酌み交わしたいくらいだ。

 何度か温泉で杏奈の胸を触らせてもらった事があるけれど、大きくてふわっふわの柔らかい胸に同性なのに幸福感を感じたなぁ~…やっぱり、なんで神崎部長が自分を好きになってくれているのか全く分からない。

 神崎部長、貧乳専なのかな? と思っていたら、この間の神崎部長の潤んだブラウンの瞳と少し熱い吐息を思い出して、カァッと頬が火照った。

 あぁ、思い出してこんなになるなんてまるで覚えたての性に夢中になる10代みたい。初めてTL読んだのも10代だったもんな…思えば、私の性に対する興味本位はその辺からしか知識を得ていないんだよね。

 ぼけぇ~っとそんなくだらないことを考えていると、高木君の「お疲れ様です。お先に失礼します」という声に我に返った。
 いけない、いけない。集中しないと。

 もう一度パソコンの画面に顔を向けて、1つ伸びをしてから気合を入れなおした。


 ・ ◆ ・ ◆ ・ ◆ ・




 「飯塚さん、いらっしゃいますか?」

 「はい!」

 「あぁ、良かった」


 気づけば私一人になっているフロアに、神崎部長の低い声が響いた。

 1週間半ぶりに会う神崎部長に、先ほどまでの思考がぶり返して少し恥ずかしい。


 「これ、渡そうと思っていたんです」

 「え?」


 手渡された紙袋にはクリーニング店の袋と赤い薄葉紙が2つ入っている。薄葉紙は神崎部長にもらった薄紫のブラを想い出させて少しデジャブる。


 「中々時間がとれずにすみません」

 「いえ、そんなこと! 今が一番忙しい時ですから。…そんな時にうちの部の子がご迷惑をお掛けしていて申し訳ありません」

 「…迷惑って、どうしたんですか?」


 驚きの表情を浮かべる神崎部長に小田ちゃんから聞いた話の一部を掻い摘んで伝える。

 少しだけ表情が険しくなっているように見えるけど、それも当たり前だろうな。あぁ、本当に情けなくて頭が痛い。


 「…飯塚さんはそれを聞いて?」

 「本当に、申し訳ないです。一番忙しくて大変なときに、浮ついた事でご迷惑をかけてしまって…」

 「…はぁ」


 短いため息が頭上から聞こえて、ビクリと身体に力が入った。
 そりゃそうなる。私だって、何度ため息が出たか分からないんだ。当事者はもっと疲れるだろうな…。

 と思って視線を上に向けると、神崎部長の身体がぐっと近づいてきていた。立ち上がっている私をデスクで挟んで、無意識にのけぞってしまう身体がデスクの上に少し乗りあげる。


 「…もう少し違う反応が見たかったんですが、中々手強いですね」

 「あ、あの! か、神崎部長?」


 あぁ、やばい! 悪戯好きのゴールデンレトリバーになってる…。と、思ったときにはとき既に遅しで耳元に唇が触れるほどの近さで甘い声が響く。


 「涼子、今は2人だけですよ? この間言ったはずです。洋司と、呼んで欲しいと」

 「い、いえ、あの! …ふぁ」


 ピチャリ、チュッと首筋に熱い舌と吐息の感覚に身体がきゅっと内側から締まった。

 右耳を神崎部長の長い指に弄られて、ゾクリとした感覚が背筋を駆け上る。

 逃げたくても逃げ場が無いのは、この間と同じ。でも、この間とは違うシチュエーションに戸惑いと焦りで心臓が破裂しそうなほどバクバクと音を立てている。


 「んぅ…あっ」

 「今日もキャミソールなんですね」

 「やっ、ちょ・・・ぶちょ、うんぅ?!」


 いつの間に捲られたのか、スーツから出されたワイシャツの裾に神崎部長の大きな手が差し入れられていた。わき腹を撫でられ背中に回った手の動きにくすぐったくて身をよじるが、部長の発言に全身がざわりと火照った。


 「楽なのは理解しますが、あまりに無防備すぎますよ」

 「っ…ふぁ、んぅ…」

 「ほら、こうやって悪戯をする輩だっているかもしれませんし」


 こんな悪戯、私相手に好んでするのは貴方くらいです、神崎部長。とは言えるわけも無く、聞きなれない自分の鼻にかかった声に羞恥でさらに身体が熱くなる。

 神崎部長の手はいつの間にか、私のお情け程度の膨らみを包み込んで、やんわりと揉み上げた。

 びくりと跳ねる身体に自然と浮いた腰を神崎部長の空いた腕が支えて完全にデスクの上に座らされてしまう。


 「ひぅ…ぁ…」

 「っふ…かわいい反応、してくれるんですね、涼子」

 「んぅ…だ、だめ…です」

 「…そうですね、これ以上は私の抑えが効かなくなってしまいそうです」


 すっとワイシャツから熱が遠ざかると、寂しいのか切ないのか、良く分からない感じに体が熱を追いかけそうになって神崎部長の胸元に身体を預けてしまった。

 神崎部長のワイシャツ越しに感じる熱に、腕が伸びてクシャリとシャツを握ってしまう。

 この後、どうする事が正解なんだろうか…というかここまで来て、私何してるんだ!? え、ちょ、待て待て!! 何を乙女チックな事をしてんの?


 「あの! す、すみませ」

 「はぁ…何も無ければ連れて帰えられるのに…」


 自分のした事に慌てて離れようとした私の肩に神崎部長のセットされて少し固い髪の感触と重みが乗っかる。両腕は座っているデスクの腰あたりに置かれて、旗から見れば私が神崎部長に抱きついているような状態になっているんじゃ…。

 えぇ、恋愛経験無いのにこんな状態でどうしろっていうんだろう。私が読んできたバイブルたちにはこんな時の対処法なんて載っていない…いや、正確にはどうすればいいのか載っていた気もするけれど、それをそのまま行動に移すと間違いなく大人の階段を一気に上りきってしまう気がする。


 「涼子さん、今週末時間をもらえませんか?」

 「え…っと、今週末、あの、」

 「予定、入っていますか?」


 今週末は杏奈と買い物の予定があるけれど、どうやって断れば…いや、むしろ断っていいの?

 だって、ゴールデンレトリバーが目の前で大きな瞳をうるうるさせているわけで、断ると間違いなく眉毛が下がってしまうような気がする…。

 昔実家の隣の家が買っていたゴールデンレトリバーのロイに、よくおやつをおねだりされて困っていたな…あぁ、また余計なことを思い出してしまった。


 「予定が終わった後でもいいんです。会えませんか?」

 「…っ…夜からで、いいなら…大丈夫、です」


 搾り出した言葉に、神崎部長の眉毛が上がって嬉しそうな顔になる。

 あぁ、そんな嬉しそうな顔…年上の上司に失礼だけれど、益々ロイに似てる気がして、可愛いとすら思うよ。


 「では、週末はその紙袋の中のもの、着けて来て下さいね」

 「ひゃっ」

 「楽しみに頑張ります」


 にっこりと笑った神崎部長が最後に頬にキスを一つ落とした。

 「あまり遅くなりすぎないように」と注意をされて、忙しい心臓を落ち着ける暇もなく取り残された28歳処女の私。

 あまりの展開の速さに追いつけないのは、私が喪処女だからなのか、神崎部長が手練れだからなのか、はたまた両方なのか、もう考えることすら疲れる状況に、早く家に帰ってキンキンに冷えたビールを飲み干して、眠りについてしまいたいという欲望に駆られた。(忘れたいだけとも言う。)
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