28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第三章 愛され開発生活本番

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 「で、この後はしっぽりリア充ですか。あぁ~そうですか!」

 「ご、ごめんってばぁ~!」


 少し落ち着いた2時過ぎのカフェテラスで、ご立腹な杏奈を前に頭を下げる。

 週末の今日、杏奈の買い物に付き合って外に出たのはいいけれど、あまりの暑さに早々にカフェに非難した。アイスティーとケーキセットを頼んで、おしゃべりに花を咲かせる前に、おととい突然神崎部長と週末の夜に会うことになったと話した事を今もこうやって話題に上げられる。

 ご立腹というよりは、じゃっかん面白がっているように見えなくも無いんですが…。


 「ここの奢りと経緯の詳細、それから結果報告を約束するなら、大目に見てあげるわ」

 「えぇっ?! 奢りはいいけど…経緯と報告は…」

 「…先に約束してたのは?」

 「杏奈さんです」

 「よろしい。」


 文句は聞かない。というドヤ顔の美人を相手に、これ以上食ってかかっても敵いっこないのは目に見えているので、ひとまず観念することにした。というか、これ以上は面倒くさかった。


 「で、何で急にそんなことになったの?」

 「いやぁ~…なんでだろう?」

 「…まぁ、付き合ってればデートくらいは当然あるんだろうけど、そんなに強引だったの?」

 「なんていうかね…こう、断れないというか、断るとかわいそうというか…でも、なんで私なんだろうって疑問は拭えないし」


 そう、なんで私なんだろうか。

 これは付き合うことになったあの日からあった私の疑問だ。特別な魅力も、杏奈のような色っぽさも無いし、女として頑張っているわけでもない。ただひたすらに、男と同じだけ、いや女だからって舐められないように仕事をしてきただけ。本当にそれだけの私なのに、何がいいんだろう…

 いや、自分で言ってて悲しくなるけど、事実なのだから仕方が無い。


 「ん~…好きになるのにわざわざ理由つけてたらキリないでしょう?」

 「そういうもん?」

 「…じゃあ、私を友人として好きな理由、具体的にあるの?」


 杏奈を友人として好きな理由…確かに難しい。

 黙ってしまった私に杏奈が仕方が無いという表情を見せて、あれこれ難しく考えてしまう私に助言をくれる。


 「神崎部長も同じなんじゃない? お涼を好きな理由はたくさんあるんだろうけれど、だから好きになった理由というわけではないと思うわよ。恋愛って、そうなってしまった原因を考えるよりも今自分がどうしたいのかを優先する方が楽だし、案外上手くいくものよ」

 「そういうもの? …じゃぁ、神崎部長に告白したっていう子たちも同じだったってこと?」

 「…まぁ、ミーハーもあるんだろうけど、そうだと思うよ。…ところで、その告白した後輩に対してやきもち妬いたりしないの?」

 「…やきもち…ってどういうのを言うの? 別に気にならないわけじゃないよ? だって、私よりかわいいし…胸、だってあるわけだし、女の子っぽいし、男性社員にもモテてるみたいだし…そんな子達に言い寄られて喜んだんじゃないかなぁって思ったりはしたの。でも、だからって漫画の中のヒロインみたいにイライラしたり悲しくなったり…ってことにはならなかったし…」

 「…あんたの場合、その“私なんて”って自分を卑下する思考をどうにかしないと前進は望めなさそうね」


 はぁ とため息をついた杏奈に、痛いところをつつかれて視線が下がる。

 だって、男にも「男みたいだ」って納得されてしまうような女の自分と同性を比べたときに、やっぱり自分は女として劣っていると思ってしまうんだ。男よりも女の子にモテて、周りからもそういう風に見られて、それが当たり前だったのに…今更どうしろっていうんだろう。


 「神崎部長、相当焦ってたのね」

 「え?」

 「だって、どんなにあからさまなアプローチも、“私なんて”って思考の女の前じゃあんまり意味がないのよ。やきもちを妬かせようにも“自分は女だ”って自覚のない人間にはムリだし、恋愛に発展させようものなら少し強引過ぎる手を使う他に方法が無かったってこと。だから、女である自覚ゼロのお涼相手にするには“涼子は女で、俺が女にしたんだ”って荒療治が一番効くってこと」

 「…だから?」

 「だから、あんたは今日28年間守り続けた純潔を捨てる可能性が大いにあるってこと」

 「…え? えぇ…え?…ちょ、え?」

 「じゃ無かったら、下着渡して好きなの着けて来いなんて言わないでしょ?」


 そう、買い物に来る前の日の夜。

 部屋の片隅に置いてあった紙袋の中にはキレイになったワイシャツとベージュのキャミソール、それからブラとショーツのセットが3つ入っていた。

 ただし、これまでの人生で選んだことの無いようなセクシーなデザインの下着。

 どれを選ぶべきなのか、それとも選ばないでいる方が正解なのか分からず途方にくれて杏奈に助けを求めた。


 「そういや、どれにしたの?」

 「え、どれって…いや、ほら…あの、ねぇ?」

 「…まさか選んでないの?!」

 「いや、選びました。選びましたとも! …一番、大人しそうなデザインのやつ…」

 「ふぅ~ん…まぁ、どれも攻め攻めだったからなぁ~。肉食系女子が好きそうな、攻めのセクシーな下着だったし。アレはアレで、別のコンセプトで売りに出してもいいと思ったけど、たぶんバレンタインあたりが売り時だろうなぁ」

 「…こんな下着、着け慣れないからさ。なんか、むずむずする」

 「そう? 私、生理以外はいつもTだけど、慣れれば普通よ?」


 あぁ、そうですか。杏奈さんほどの方にもなればほぼ毎日Tでも無問題ということですね。

 Tバック…家で履いてみたけど、お尻の間に布が食い込む感じと、お股の大事な部分を覆ってくれるはずの布が少なすぎて不安になったから、速攻で却下した。もう一つのショーツは、布面積がある程度あって(私が持っているパンツと比べると明らかに布は少ないけど)まぁ、無難かなと思って履いてみたけど、後姿がとんでもないことになっていて不安になった。

 だって…だってね! 全部レースなんだよ! お尻の割れ目が微かに…いや割とくっきりと見えるんだよ! しかも、お尻を6割くらいしか覆ってくれないんだよ! 私のケツが小ぶりでなければ、まず間違いなく割れ目が『こんにちは!』しているに決まっているんだよ!

 ブラはハーフカップでレースとリボンがアクセントになっているから、お情け程度の膨らみでもある程度はかわいらしく見える。(はず。)でも、このおパンツは頂けない! 女の子は身体を冷やしたらダメなの! だから、こんなに布の面積が少ない下着なんて頼りない! と、鏡の前で悶々とする私に、電話越しの杏奈が『デートの数時間くらい、我慢しなさい。それが女への第一歩です』と叱ってくれたので、何とか着て来る事が出来た。


 「でも、さすがねぇ~。そんだけスリムなデニムのスキニー履いてても、下着のライン見えてないんだ。私も今度社割で買おうかな」

 暢気なことを言ってくれる杏奈に、最後にもう一つケーキをサービスして、神崎部長との約束の場所へ向かった。



・ ◆ ・ ◆ ・ ◆ ・



 あそこで待っているあの人は、やはり神崎部長様でしょうか?

 なんというか…振り返ったり、立ち止まったりする女の人多いですよ? つーか、モデルですか、貴方は!

 駅の改札口に、濃い青のチェックシャツに少し緩めのデニム。ボタンが3つ外れたシャツの下から白いシャツがチラ見え。雑誌の中から飛び出てきました。って雰囲気の神崎部長に、出て行くのが申し訳なくて暫く改札を出られなかった。


 「おっひゃ?!」


 手の中でスマホが震えて、あまりのビビリ具合に変な声が出た。

 と思ったら、電話の主はその神崎部長様で私の変な声に気づいて、まぶしい笑顔を向けて近づいてくる。

 ぎゃぁー?! イケメンがまぶしすぎて、直視できない! 出来ないけど、このまま改札に背を向けて立ち去れるほどの度胸は私には無い!


 「す、すみません。お待たせして」

 「いえ、楽しみで早く着いてしまいました」

 「はは、ははは」

 「…スーツの涼子さんもステキですが、私服だと色っぽさがあっていいですね」

 「ふぁっ?!」


 色っぽいって…なんだ。別に普通じゃないか?
 デニムのスキニーに、黒のパンプス。トップスはプルオーバーのストライプシャツ。いたって普通だと思っているけれど、これが色っぽい? どこがだろう…。

 というか、これはこの後どんな反応をしたらいいんだ。色っぽいなんて、普段言われ慣れていないから、顔に集まる熱を逃がす方法が思いつかない。
 しかも、本人は何とも蕩けそうな笑顔を向けていて、すれ違う女の子たちが顔を赤くして振り替えったり、チラチラと見てきゃぁきゃぁと小声で話す声が聞こえる。
 この人は、まじで歩くフェロモン製造機だ。


 「近くに車を停めてあるので、行きましょうか」

 「は、はい!」

 「ふふ、そんなに硬くならなくても…今はまだ、何もしませんよ」

 「ひょぇっ?!」


 突然耳元に振ってくる甘い声に、まだまだ慣れない私の身体はびっくり拍子にバランスを崩して、神崎部長に寄りかかってしまった。
 近づいて気づく程度のムスクの香りにどきりとして身体を離そうとするが、やんわりと腰を抱かれて引き寄せられる。


 「この距離、なかなかそそりますね。色々と」

 「い、いや! あの、えっと…ぶ、ぶちょっ」

 「洋司、ですよ?」


 目じりに皺を少し寄せて、柔らかく微笑む神崎部長に人差し指で遮られてしまった言葉で、さらに頬が熱く火照っていく。

 この人、絶対分かってやってるんだ! こういう事、絶対色んな女の人にやってきたに決まってる! だから、こんな風に焦ったりテンパったりするのを見るのが珍しいんだ!


 「…もう少し、頑張ります」

 「え? 何をですか?」

 「いえ、こちらの話です」

 スマートに腰を押されて駅を出た。こんな歩き方をスマートにやってのけて、レディーファーストもお手の物だし、車の助手席だって開けてくれて…え、何だろうこのお姫様かお嬢様を相手にしているような対応。こんなの、28年間で初めて…いや、男の人と車に乗るっていうのも父親以外では初めてで、こういう時に車内で何を話せばいいのやら…。


 「色々考えたんです」

 「ひょ…す、すみません…あの、何を?」

 「ふふ。今日のことですよ。レストランとか、和食とか…居酒屋がいいかなとか、考えたんですけど…」

 「けど?」

 「…嫌でなければ、うちに来ませんか?」


 え…うちって…家?
 自宅?
 HOME?
 誰の?
 部長の?
 …これが所謂お家デート?

 頭の中に浮かんだ疑問を口にする余裕も無く、ショート寸前の思考に、神崎部長お得意のゴールデンレトリバーのロイが顔を出す。(神崎部長はそんなつもり無いんだろうけど…ずるいんだよ、その顔は!)


 「えっと…断れ…」

 「ないと思って欲しいんですが、どうしても嫌なら考えます」

 「……」

 「どうすれば来てもらえるのか」

 「あの、お邪魔でなければ…」

 「ありがとうございます!」


 あぁ、嬉しそうだ…人間ロイさんが、大変喜んでいらっしゃる。

 私の選択肢が、「お邪魔する」以外に無かったことに、観念するしかない。

 28歳喪処女の飯塚 涼子。
 本日、28年間計らずも守り続けることとなってきた貞操を、初めてできた彼氏様に捧げることになりそうです。

 もらった下着…つけてきて良かった。
 ほんと、まじで。


 横で爽やかな笑顔の神崎部長がスマートに運転する車の中で、このまま夜が来なければいいのにという気持ちと、これからどうなるのか不思議と期待を寄せる気持ちに翻弄されながら、沈み始めた太陽を憎々しげに眺めた。

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