28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第四章 愛し愛され開発生活

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 トイレを借りて戻ってきたときには、ソファに項垂れた神崎部長を見つけた時にはどうしたらいいものかとソファの近くまでおずおずと近づいた。


 「…すみません。嫌でしたか?」

 「いえ、そんな! あのっ!」


 声を落として呟いた神崎部長を前に罪悪感しか感じない。そりゃそうだよ。これからだって時に拒否されたら誰だってどんな状況でだってがっかりするし…尚且つソレが生理現象だったりしてみたら…目に見えているわけで…


 「いえ…その…イヤ、だったわけではなくって…その…準備というか、状況というか…」


 なんて言い訳したらいいんだ。

 女子のたしなみ的なものが理由でした、とはいくら私に女子力が無くても言えない。そこまで女を捨て切れてはいない。かといって、このまま誤魔化しても…

 神崎部長に触れられると、女であることを実感できた。それはくすぐったくて気持ちが良かった。
 決して、イヤだったわけではない。でも、行為が止まったことにホッとしてしまったのも事実。


 「イヤだったなんてこと無いんです。ただ…あの…」

 「…イヤでないなら、今日はもう少し一緒にいたい」

 「え…」


 先ほどまで意気消沈したような声のトーンが、甘く痺れる様な声に変わったと思ったら、ソファから見上げる神崎部長が右手を私に差し出していた。

 その手を取ってしまったら、私は今度こそ…そんな期待と不安を感じる胸の内とは裏腹に、吸い寄せられるように神崎部長の手を取って促されるままに彼の足の間に身体を納めることになった。


 「こ、これは…」

 「…これくらいは許してください」

 「…洋司さんって、たまに敬語外れますよね」


 耳にかかる熱い吐息にいちいち体が反応して意識してしまう自分を誤魔化したくて、話題を探す。


 「…そんなことは」

 「ありますよー! さっきだって、いつもの紳士的な感じじゃなかったからドキドキしたというか」

 「…意識したんだ?」

 「ひゃっ」


 唇が耳に触れて熱い息がかかると、身体がビクリと反応してしまう。

 お腹に回された腕がゆっくりと左右別々に動いて、左手は太ももへ、右手は首筋から鎖骨部分をふわりとなで上げた。


 これはまたまたそういう雰囲気になってしまったんだろうか!

 シートは水に流せるタイプだったから、何とかなったけれど、またあんなドキドキを体験する羽目になるのかと思うと焦ってしまう。

 私は初めてだらけで、どうしたらいいのかなんて分からないし、この先を続けたとして…もし、神崎部長がやっぱり違ったとでも思ってしまったら、どうなるんだろうか。

 神崎部長はたくさんの女性とこんな経験をしてきたわけで、私みたいなタイプはいなかったから物珍しかっただけなのかも知れない…なんて思ったりして。

 ツキンとまた胸の奥で嫌な痛みが、ドキドキに混ざる。

 それが何なのかを知らない程無知ではないから、自覚するのが怖いとも思う。

 こんなに強引に、『好きだ』と言われて迫られたことなんて無いから、私は舞い上がって『恋に恋をしている』んではなかろうか。


 この人が、今更女を曝け出すことを怖いと思っている私に夢中になる理由が分からない。


 「あ! あの」

 「ん?」

 「ま、待って、下さ、」

 「…すみません、また先走ってしまった…」


 ふわりと肩に乗った重みは、とても暖かくて驚く程にモヤモヤとしていた感情を取っ払ってくれた。

 認めてしまう方が楽なのか、それともその逆なのか…この歳になると初めての事に対しての接触が怖くなる。


 「ふぅ…あなた相手だと余裕がなくなりますね」

 「え…」

 「余裕…あるように見えました?」


 クスリと笑った背中越しの神崎部長に、思わず頷いてしまった。

 そうすると、お腹に回っている手にキュッと力が入って体がピッタリと密着する。

 熱いくらいの体温と、自分のものではない少し早めの鼓動…


 「10も年の離れた女性相手に、ここまで余裕もなく迫って面目ない…でも、それだけ涼子に夢中なんです。弱い所を見せないように強気でいつも前を見て進もうとする芯の強さと、時に少し脆くなる所と…そうやって貴方は強くキレイな女性になっていた。久しぶりに会社のロビーですれ違った時には、目を奪われましたよ」

 「そ、んな…」

 「…君を欲しいと思うのも、焦って自分のものにしたいと急くのも、全て自分の為で余裕なんてものはないんですよ。もし、私に余裕があるように見えてるのなら、それは経験と面の皮で隠しているだけの狡い大人のやり方です。じゃなきゃ、こんなにあからさまに口調を整えたりしない。私のこれは、理性みたいなものです。君に夢中になって今すぐ押し倒してしまいたいと思っている自分を隠すためのものです。…こんな風になるのは後にも先にも、涼子以外に有り得ませんよ」


 神崎部長の声は、すごく穏やかなのにやっぱり敬語のときは少しだけ壁を感じてしまう。敬語ではない神崎部長は、少し強引で性急的で戸惑って二の足を踏んでしまう私をぐいぐい引っ張ってくれる。

 流されていると言えば聞こえは悪いけれど、それも悪くないしむしろ心地良いとさえ思ってしまう。

 私って、M? でも、神崎部長のその行為が私だけに向けられたものだったのなら…そんな風に考えると嬉しくて叫んでしまいたくなるのは…。


 「あ、の…私、その…敬語じゃない時の方が…好きかなぁって…」


 何言ってんだ、私。

 ってゆか、何照れてんだ。違うでしょ! 敬語じゃない時の方が親近感あるからって意味でしょ! 別に、それ以外の気持ちが無いわけでもないけど…でも、それはそれ! これはこれ!

 溢れた発言は元には戻せないのが分かっているから、変な緊張で熱くて喉がカラカラだ。


 「はぁ…分かってないな、君は」

 「へ?」

 「男は、好きな女の前じゃ格好付けたくなるもんなのに…それを悉く煽る、しかも無自覚に」

 「えっ、と…ひゃっ!」


 頸に柔らかい感触と熱い吐息がかかった。

 チュッと軽いリップ音がすぐ後ろで聞こえる。

 その度にゾクリと背中を這う感覚がまた小さく燻る火を大きくしていく。

 それと同時に、ツキンと痛む胸の奥にある思いが混じって嫌な音を立てはじめる。

 これが、アラサー処女を拗らせすぎてしまった結果なんだろうか。

 素直に処女を捨てきれないのは、出し惜しみしているわけでも、高望みしているわけでもない。


 ただ…『怖い』

 自分の体に自信もないし経験もない。

 その上処女でガサツで、拗らせアラサー喪女だし…。

 そんな自分を受け止めてくれていると理解していても、やっぱり。


 「さっきの話、聞いてたか?」


 耳元で低く甘い声が囁くと、ビクッと心音が少し速くなる。


 「せっかく理性を保っていようと努力してるのに、そんな努力せずに襲えって言ってるのか?」

 「あ、いや…ちが、います」

 「違わない…俺にはそう聞こえた」


 益々密着する体に暑いくらいの体温と速くなる鼓動。

 後ろから抱き締められる事がこんなにも満たされることだったなんて、誰が想像しただろう。

 いや、世の中のリア充は体験してるんだろうけどさ…ほら、私は初めてだしさ。


 「涼子って、身長の割には体の線が細いよな」

 「そ、うなんですか?」

 「さっきも思ったけど…」

 「…さっき?」

 「ベッドで。…強くしたら壊れそうで怖いのに、めちゃめちゃにしたくなる」


 めちゃめちゃってなんだ!

 でもそうか…さっき、見られちゃったんだよね、胸。

 小さすぎて引いてないってことかな?


 「で、でも! 男の人って、胸の大きな人の方がいいんじゃないですか?」

 「そういうやつもいるんだろうけど…俺はどっちかというと大きさよりも……いや、いい」

 「え、なんですか?」


 「気にするな」と言ってしまう神崎部長だけれど、途中でやめられる方が余計に気になるという事を知らないのだろうか!


 「そんな途中でやめられる方が気になりますよ! 大きさよりなんですか?」

 「…本当に、それを無自覚にやってるのが信じられん。…量より質というだろ? それと同じ事だ」

 「……うん?」

 「…はぁ! 大きさより、感度の方が重要だって話だ」


 感度…刺激に対して感じる度合や程度のことよね?

 え、そうなの? ってゆか、感度って…


 「あー、くそ。言いたく無かったのに。…こんなの親父臭すぎる」

 「…ふふ、神崎部長でもそういう事思ったりするんですね」

 「俺だって普通の男だから。涼子はどんな評価してくれてるか分からないけど…少なくとも、涼子が思っている以上に男臭いよ、俺は……ってゆか、いつまで神崎部長なの?」

 「え、すみまっわわっ!」


 視界が横倒しになったと思ったら、真上には神崎部長の顔。

 本日3度目のそういう雰囲気になりそうな予感。


 「本当に、涼子はいつになったら俺の事自然に呼んでくれるの?」

 「…す、すみません」


 ロイくんにチラリと顔を出されて思わず謝ってしまったけれど、私はチュートリアルをすっ飛ばしていきなり冒険に放り出されたしがない勇者のようなもので、装備もスキルもしょぼいまま、ラスボスの前に放り出された絶対絶命状態なんですが。

 とは言いつつも、私自身も何処かで防波堤を築いているのかもしれない。

傷つかないように、怖いと思うものに触れないように、自らを守るために“神崎部長”って呼んでいるのかな。


 「謝らなくていいよ。ただ、少し寂しいなって思っただけ」

 「…洋司、さん。本当に私でいいんですか?」

 「…だから、そう言ってるだろ?」


 困ったような顔をして笑っている、“洋司さん”のブラウンの瞳に真直ぐ見つめられる。


 「…胸もないし」

 「関係ないって言ってるだろ?」


 洋司さんの手が優しく頬を撫でる。


 「…ガサツだし」

 「不器用なだけだ」


 くすぐったい触り方で首筋を撫でられて、思わず身を捩ってしまう。


 「そこらの男よりお酒強いし」

 「それは体質の問題だ」


 おでこに柔らかく触れるだけのキスが降る。


 「しょ、じょ…だし」

 「知ってる。この間言っただろ? 涼子のソレは極上のスイーツと同じだって」


 クスリと笑った洋司さんが頬に口付けて熱い身体の距離が縮まる。


 「男っぽいし」

 「涼子は女だよ。俺は、女相手にしか起たない」


 熱を持っているのは身体だけじゃない。速くなる鼓動も熱を持って脈打つ。


 「……」

 「…それから?」

 「…洋司さんは…きっと色んな女の人と恋愛してるから…」

 「…気になる?」

 「気になるって言うか…気になっちゃうって言うか…気にするって言うか…」

 「全部同じ意味に聞こえる………涼子とは10歳も違う。だからその分多くの人と出会っているし、もちろん、恋愛だってしてきた。自慢じゃないけど、困った事だってない」


 ツキンと痛んだ胸にもう後戻りが出来ない気持ちを理解してしまう。

 相変わらず困ったように笑っている洋司さんが少し揺れて見えるのは、泣きそうだからだろうか。


 「でも、何を振り返ってもここまで必死になったことなんて無かったし、これからの時間を誰かと一緒にいたいと思ったことだってない」

 「…でも、どうしたらいいか、なんて…分からない」


 ついに零れてしまった涙を洋司さんが親指で拭ってくれた。


 「わからなくていい。今は俺に愛されて、可愛がられていればいいよ」

 「…だって」

 「いいんだ。俺がそうしたいし…涼子を女にするのは、俺がいい。だから、大人しく俺の好きなように愛されていなさい」


 最後は口付けをされて、深くなるその行為に翻弄されながら、じわじわと満たされていく感情に名前をつける覚悟をしようと思う。








 きっと私は、洋司さんが『好き』だ。

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