28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第四章 愛し愛され開発生活

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 「いい加減にしなさい!」

 「…すみません」


 部署の手前、大人しいはずの新任の副主任の子が声を張り上げているのがパーテーションの向こうから聞こえて、続けざまにふてぶてしいような声色のあの子が謝った。

 何事かとパーテーション近くの高木君のデスクに近づいた。


 「なに、どうしたの?」

 「…いや、自分も詳しくは知らないですが、また連絡ミスってアポと会議ブッキングさせて、会議資料の部数大幅に足らない状態であと30分後にそのアポと会議が迫ってるらしいです」

 「…えぇ」


 最悪だ。

 ブッキングしたアポって、私が指示した日程から変更をお願いした分じゃないの?

 嫌な予感しかしないよ…どうするかな。


 「30分後のアポと会議、誰も気付かなかったらどうするつもりだったの! 小田さんが外部からスケジュール確認してくれてなかったら、ギリギリで誰もカバーできなかったかもしれないよ?!」

 「…はい、すみません」

 「すみませんで、済まなかったかもしれないのに…本当に悪いと思ってるの?!」

 「…」


 明らかに悪いと思っていない表情の彼女に、主任の彼女はイライラで顔が真っ赤だ。
 秋の企画に移動してからも、様々なプチミスをやらかす彼女に、秋企画の主任は頭を抱えていた。しかも、冬の企画の引き継ぎもしながらのようで、両企画の主任が揃って手を上げて降参するのも時間の問題のような感じ。

 今回は小田ちゃんが気付いてくれたことで首の皮一枚繋がったらしいが、アポイント先の会社には度々スケジュールの調整をお願いしたり、企画の変更を打診しているからこれでブッキングしたなんてことになったら、うちの信用問題にもなりかねなかった。

 今度、小田ちゃんには焼肉奢ろう。そうしよう。


 「飯塚さん、3番に小田さんです」

 「ありがとう」


 高木くんのデスクには、救世主の小田ちゃんが電話をかけてくれているみたい。

 心拍の速くなった私の焦ったチキンな心臓が、ほんの少しだけ平静を取り戻した気がする。


 「あぁ、小田様! ありがとう!」

 <いえ、いいですよ~! たまたま、私のアポ変更しようと思ってスケジュール見て良かったですー。で、神崎部長から今日だけそっちに帰って作業許可もらったので、今から戻りますね。15分で戻るので、会議出席は私と高木で行きますから先輩はアポの方お願いします。必要資料は高木に送っておいて下さい>

 「了解! 今度、焼肉奢る!」

 <特上でお願いしまーす!>


 さくっと要点だけの簡潔な電話を終わらせて、本当に小田ちゃんができる後輩過ぎて涙が出るようだよ。

 来年の冬企画は小田ちゃん主任の高木君補佐で回せるんじゃないだろうか。


 「アポ、私と行こう。小田ちゃんが15分後に戻って高木君と会議に出てくれるから資料は高木君に預けて」


 副主任の子は、真っ赤っかの顔のまま鼻息荒くして返事をするとデスクの上のファイルと会議資料を高木君に渡してカバンを引っつかんで居心地の悪そうな顔の新卒女子に向くと当り散らすような口調で「このあとの作業は自分で考えて、どうするべきか!」と言い放った。

 まさかここまで仕事に支障をきたしてしまうなんて…洋司さんの存在は驚異だな。

 うまく作用すれば仕事効率を上げてくれるんだろうけれど、熱を上げすぎてオーバーヒートした彼女にはその存在が刺激物になってしまっている。


 「はぁ、どうするべきかね」

 「飯塚先輩。本当にすみません」

 「いやー…起こってしまったことは仕方ないけど、彼女の引き際が本人にももう分からなくなってしまっているんだろうねぇー…どうしたもんかね」


 しゅんとしてしまっている副主任の彼女に「さぁ、アポ頑張って決着させちゃおう!」と喝を入れて、タクシーに乗り込んだ。





・ ◆ ・ ◆ ・ ◆ ・



 「戻りまし」

 「じゃぁ、辞めれば?」 「………たぁ~」


 どうにかアポ先と話の落としどころを決められて、予定より遅くに戻った先でピーンと冷たく張り詰めた部署に冷たい小田ちゃんの声が響くのが聞こえた。


 「……」

 「そうやって黙ってるんだ。いいね、沈黙してればいいんだもんね。そうやって責任から逃げるために辞められるんだもん、お気楽ね」

 「そういうわけじゃありません。これ以上ご迷惑かけるくらいならって」

 「それがお気楽だって言ってるのが、どうしてわからないの。貴女がどこの誰にどんな態度とってどうしようが知ったこっちゃない。仕事と貴女自身の問題を同じ土俵に並べないで」

 「…」

 「ほらまたそうやって、私は悪くないのにって顔するでしょ」

 「してません! そもそも、どうして私だけが悪いと言われているのか分かりません。噂の的である飯塚主任にも、はっきりさせていないからこうなっている理由があるんじゃないんですか?!」


 突然出た自分の名前に、小田ちゃんのこめかみに青筋が走ったのが見て取れる。

 あの可愛らしい小柄の小田ちゃんが鋭い視線を彼女にむけて、今にも噛み付かんと言わんばかりに一歩前に出た。


 「まだ言うか! 自分がどうして選んでもらえないのか考えたことあるの? もしかして、その理由が飯塚先輩だなんて言わないよね? あなたと飯塚先輩の違いが入社時期で自分が先に出会っていれば選ばれるのは自分だとでも思ってるの? っふ、どこまでお気楽な思考回路してるの?」


 捲し立てる小田ちゃんは、恥ずかしさと苛立ちで顔を真っ赤にした不機嫌な彼女に尚も早口で迫っていく。

 見ているこっちがハラハラしてしまうのに、話に割って入れない空気が張り詰める。


 「先輩はね、責任感があって、真っ直ぐで、私たち後輩がどうすれば仕事しやすく取り組めるか先を読んで割り振りしてくれてるの。その上、後始末もフォローも自分が頭下げて背負ってくれてるの。本人は意識してないだろうけど、あの背中で私たち後輩を守りながら自分の仕事してくれて、真摯に向き合ってくれてるの。そんなできた女性を、選ばない人がいる? っていうか、飯塚先輩より自分が選ばれて当然なのにと思っている貴女は、自分を外見でしか捉えていないから、あの人より勝っていると変な勘違いをしてる。神崎部長に、聞いたことないでしょ? あの人を選んだ理由と自分が選ばれない理由」


 恥ずかしいくらいの小田ちゃんのその発言に、ほんの少しだけ目頭が熱くなる。

 失敗しながらもなんだかんだ頑張ってきて良かったんだって、なんとなく報われた気がするな。

 ただ、この場をどう収めればいいのか…全員がわからないまま沈黙が流れる。


 「おーい! そろそろお開きだ! 2人ともあとでそれぞれ俺のとこ来いよー!」


 パンパンと張り詰めた空気を突き破るような手拍子が聞こえて、全員が私の後方に視線を注いだ。

 大柄な熊…もとい横溝部長ともう一人の噂の的である洋司さんが並んで現れた。

 第三者が現れたことで、全員がこの場が収束したことを感じて、ほっと胸を撫で下ろしてそれぞれの仕事に戻っていく。

 にっこりと笑う洋司さんがすれ違いざまに「あとで」と口にして横溝部長と小会議室へ入っていった。


 「お帰りなさい、先輩」


 気まずそうな、照れくさそうな小田ちゃんが私から視線を逸らして小会議室へ向かって、そのあとに続いてあの子も中へ入っていった。




 アポの報告資料とスケジュール調整をしているところに、戻ってきた小田ちゃんと横溝部長。

 小田ちゃんは私に「ほんっと、すみません! 焼肉は割り勘でいいっす!」と頭を下げてくれて、思わず笑ってしまった。

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