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つかの間の休息 ある日の週末
28 *
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車に乗るのは何年ぶりだったろうか。
大学卒業前に、実家で父親の運転する車に乗って以来かもしれない。
いや、待てよ。
あのときは私が運転していたから、助手席はもっともーーっと前のことかもしれない。
真横に父親が座っていたが、今は真横で優雅に運転するフェロモン製造機である我が彼氏様。
こんなことは初めてだ。
というか、あの私に彼氏がいるってだけで驚きなのに、その彼氏が誰もが羨むイケメンの年上だなんて…誰が想像したか。本人がまだ他人事のようなのに、他人が受け入れられるわけがない。
「今日行ったレストラン、ワインのラインナップはなかなかだったな」
「洋司さん飲めないのに、私だけすみません」
「いや、美味しそうに飲む涼子が見れたからいいよ」
ほら、一般人が口にすると歯の浮くようなくっさいセリフもこの人が言えば、ロマンチックな映画のワンシーンのようだよ。
この人、本当になんで一般人なんだろう。
というか、私もなんでこんな人と付き合えているんだろうか。
改めて見た横顔は、スっと通った鼻筋が高く、薄い唇がセクシーで、彫りの深い目元は柔らかくシワが入っている。
こんな40間近のオヤジは一般人にはそうそういないだろうと思う。
「こら、そんなに熱っぽく見つめるな」
「え、す! すみません!」
ぎゃぁー!
何見つめちゃってんだよ、私!
いくらイケメンだからって、じぃっと見られたらキモチ悪いに決まってるじゃないか。
「飛ばして帰りたい所だけど…涼子が乗っているし、安全運転で帰るよ」
「あの、すみませっんぅ!?」
信号待ちで止まっていた車が発信する直前に、間近に迫った洋司さんが私の言葉を遮った。
遮った方法はイケメンフェロモン製造機の得意技、不意打ちのキス。
最後の語尾は、洋司さんの口の中に吸い込まれて、チュッと軽く音を立てて離れていった。
「帰ったら…分かってるよな?」
にやりと笑った顔が、街灯に照らされて色っぽく映る。
反射的に火照った身体が、久しぶりの熱を思い出してじわりと潤い始めた。
あの、洋司さん…私に100のダメージ与えて余裕そうにしていないで下さい。
「んぁ…待っ、てぇ」
「だめだ。待たない」
玄関を入ってすぐに、壁に押し付けられるようにして洋司さんに翻弄される。
あっという間にブラウスのボタンが外されて、スーツのベルトまで外された。
さっき靴を脱いだばかりなのに、もう脱がされる一歩手前。なんて早業なんだろう…一体、どれだけの経験を積めば、静止を振り切って異性の服を脱がせるなんてことが出来るようになるんだろう。
「よ、じさん…お、お風呂」
「一緒に入りたいって?」
「ち、ちが!」
「知ってる。でも、待たない」
今から噛み付きますと言わんばかりの熱を持った目が迫ったかと思うと、深く重なった唇からぬるりと舌が侵入してくる。
まだ慣れない私の目をじっと見つめながら、逃げ惑う私の舌を捕まえては遊んで、たまに逃がして追いかける。その最中も器用に動く洋司さんの手が、ブラウスを肩から脱がしてキャミソールの裾から横腹を直になで上げた。
くすぐったくて身をよじるのに、くすぐったいだけじゃないその感覚に無意識に彼の腕へと手が伸びている。
はぁっと息を吐いて、至近距離で見つめ合うと洋司さんの口元がほんの少しだけ持ち上がった。
「…涼子、色っぽい顔してる」
「ん…色っぽい?」
「そう。女の顔してる。これから隅々まで俺に食われるんだって考えて、待ち遠しいって顔してる」
「そ! …んな顔、してる?」
否定しようとして出た言葉だったけれど、本当に否定できるのか分からなくて疑問形になってしまった。
だって、生まれてこの方異性に迫られた経験などただの一度もなかった。
彼を除いて、私に迫ろうという男性がいた事がない。そもそも、異性として意識された経験がないのに迫られた経験があってたまるか!
待て待て…私もいい加減に慣れよう。うん、慣れ…ていいのだろうか。
「現実逃避しても逃がさないぞ?他のこと考えてると、どんどん脱がしていくからな」
「ふぁっ?…ひゅがっ」
「っふ…もう少し色っぽい声はベッドの上だな」
ぐらっと視界が揺れると、身体がふわりと宙に浮かんだ。
ようは『お姫様抱っこ』と言われるものをされてしまっているわけである。
あぁ、神様…ずっとゲームや漫画の中の話だけだと思っていた『お姫様抱っこ』を経験させてくれてありがとうございます。
そもそも、私の身長と容姿でお姫様抱っこをしてくれる異性がいるとは…する側になることは度々あったけれど、こんなにも恥ずかしいものだとは思ってもいなかったなぁ…。
「ふふ…随分と余裕だな、涼子」
「よ、余裕なのは洋司さんの方です!」
「そうか? これでも焦ってるよ。俺は涼子より10も上なのに、余裕はない」
「う、そだぁ…ひゃ、っ」
ベッドに下ろされると、鼻がくっつきそうな距離まで洋司さんが迫ってきている。
呼吸をすると触れてしまいそうで、色素の薄いブラウンの瞳は熱っぽく揺れて潤む。
「本当だよ…涼子が嫌がる度にもっと見たくなる…涼子のその困った顔、可愛くてたまらない」
そう言った洋司さんがペロリと舌なめずりして見せて、「教えた通りに舌出して」と誘導される。
もう何度も奪われた私の経験不足な舌先は、その後脳みそがぐずぐずに溶けてしまうほど甘ったるいキスをされることを期待して震える。
「んぁ…」
絡み合った舌から熱いほどに火照った唾液が、口の端から漏れる。
その感覚すら、今の私には刺激が強くてそれだけでもうクラクラと頭がほうけてくる。
世の中のカップル達はいつもこんな…中毒性のあるキスをしているんだろうか、それとも洋司さんが特別に上手くってそうなってしまうだけなんだろうか。
「ほら、また別のこと考えているだろう」
「え、あ…ごめんなさ」
「ダメだ、もうお仕置きだからな」
あ、やばい…何かのスイッチを押してしまったらしい。
洋司さんの瞳がギラリと色を変えて、じゃれていたゴールデンが狼に変身してしまった。
「んあぁっ、も、やだぁ」
「嫌じゃないだろ…ん、こんなに濡れてるんだから」
「そ、なとこでぇっ…んぅ! しゃ、べらないでぇ」
さっきまで私の胸先を虐めていたはずの舌は、私の中央でいやらしく動かされている。
それはもう、耳をふさいでしまいたいほどの水音を響かせて、視界の端に股の間に収まる洋司さんの頭が見える。
イキそうになる度に、ワザとらしく刺激を弱めて太ももにキスをする。
また波が収まりかけた時に刺激を与えられて…そんなことをもう何度も何度も繰り返されて、熱くて火傷しそうな熱に浮かされている。
「どうして欲しいか、言ってくれなきゃ分からないだろ」
「も、ぃじわ…あぁ、やだぁあぁん」
「涼子…言え、どうされたい?」
怖いくらいに熱くて鋭いブラウンの瞳がじっと私を見ている。
それだけで、私のお腹の奥がきゅうっと熱く収縮するのがわかってしまう。
「も、洋司さんが…洋司さんのが、欲し、よぉ」
「よく、できました!」
「ひゃ…あぁぁーー!」
「ん、あっつ」
「だ、めぇ…あぁ、んぅ…あっ」
熱く固い洋司さんのソレが、中心を押し広げて奥に向かって深く刺さる。
刺さるという表現が正しいのかわからないけど、でも貫かれるんじゃないかって程に強い律動はズシンと重く奥の方に響いていく。
肌のぶつかる音に粘り気のある水音が混じって、鼓膜まで犯されているみたいだ。
洋司さんとの行為は、いつもいつも必死でしがみついていないとどこかに持っていかれるような感覚に落とされる。
「涼子」
「あっ…あぁっ…んぁ」
名前を呼ばれる度に、また奥がきゅぅっと熱くなる。
熱くなると、洋司さんのが中でドクリと大きく固くなるのがわかってしまう。
わかってしまう程に何度も求められて、いつもどれくらいされたか分からないで落ちていく。
「好きだよ、りょーっこ!」
「あぁ、あぁあんぅーーー!」
そして、また今日もまた目が覚めたらキレイにされて洋司さんの寝顔を見つけるんだろう。
ふわっと持っていかれるような感覚に思わずしがみついて、洋司さんが余裕なく顔を歪めた所で私の視界は暗転した。
──神崎 side──
あぁ、またヤってしまった。
腕の中にぐったりとして、身体をビクつかせる涼子を抱いて大きくため息をつく。
ここのところ、涼子も俺も仕事の忙しさでまともに会う事も出来ずに、トラブル続きの毎日。
それもこれも俺がうまくフォロー出来なかったせいもある。
会えなさ過ぎて、涼子が俺を忘れてしまっているんじゃないかと…会えないことにイライラしているのは自分だけなんじゃないだろうかと、子供っぽい自分にまたさらにイライラしてしまい、彼女の部署から来てもらっている新人に対して態度を疎かにしてしまった。
もう少し、うまく断って穏便に済ませる事だって出来たはずだったのに、売り言葉に買い言葉だ。
『私だったら、逢いたくて不安になって仕事も手に付かなくなりそうです』
『…なんのことかな?』
『…飯塚主任のことです。なんだか、あの人ってどうでも良さそうなんですよね』
『……』
『恋愛とか、恋人のこと…蔑ろにしそうですし……でも私は、私だったら!』
『…個人的な感情を優先させて、仕事を疎かにされて、周りに迷惑をかけても関係なさそうな人よりは信用できるし、大人だと…私は尊敬するけどね』
現に、あの子が俺を好きで別の子とトラブルを起こしているのは知っていたし、そのせいで俺も涼子も猫の手も借りたいほど忙しくなってしまった事も事実だった。
それでも、俺自身は涼子に会いたいと思っていたけれど、涼子はそうではないのかもと焦っている自分に図星を刺されたことに苛立ちを隠せずに、火に油を注いでしまった。
もう、30も超えていい年になったのに、何とも情けない。
そのせいで、涼子が責められる結果になったと聞いて、フォロー不足だったのではないかと焦って…これで四十前のオッサンなのだから、心底情けない。
これまでの恋愛で、こんなにも余裕がなくなるほど心を乱される相手に出会ったことはない。
どちらかというと相手の女の方に余裕がなくなる事のほうが多かった。それを冷静に冷やかな心情で見て、離れる準備をしていたのも事実。まぁ、要するに最低な男だったというところだ。
その俺が、10も離れた相手の女の子にこんなにも心を乱されるとは…これまでの女性と何が違うのかと言われるとどこまでも真っ直ぐで純粋無垢なところだろうか。
最近の若者には珍しく、一切の汚れを知らず危機感の薄い所なんかは男心に興奮すらする。
俺があと10年若くても、その当時の俺では彼女に惚れることはなかったかもしれない。あの頃の俺はそれほどまでに馬鹿だったからな。
汗やらナニやらでベタついた彼女の体を、濡らしたタオルで軽く拭き取る。
拭き取りながら、持ち上がろうとする己に呆れを覚えつつ、後で風呂場で治めてやるからしばらくは待ってくれと第三者的目線で冷静にツッコミを入れた。
先ほどまで艶っぽい姿を見せていた彼女は、どこか幼いような寝顔で深い呼吸を繰り返している。
涼子は『えぐれた可哀想な胸』をコンプレックスに思っているようだけれど、小ぶりではあるけれど膨らみがあって柔らかさもある。その上、服の上からでも敏感に反応する乳首はベビーピンクときたもんだ。
薄っぺらい腰に丸く上がったケツ。
どっからどう見てもスタイルがいい極上の女であることに変わりはないのに、何度伝えても彼女はそれを信用していない。
「ん…よ、じさん?」
「あぁ、すまない。起こしたか?」
「ううん、だいじょう…っ!」
最初の頃に比べると少しだけ俺との行為に慣れてきたのか、覚醒した涼子が視線を慌ててそらした。
耳まで真っ赤にした彼女の反応は、実にいたずら心を擽られるもので、初めてでもないのに恥ずかしそうに俺の持ち上がりかけたソレの存在を意識している。
「…見るの、初めてじゃないだろ?」
「いや、だって! こんなに明るいところでは、その…初めて…じゃなくて! 隠してください!」
「…涼子が自分で隠せばいいだろ?」
「な!」
「ほら、隠せるものはたくさんあるんだし…それとも、触ってみるか?」
さらに真っ赤になった涼子の反応が面白くて、可愛い。
精一杯顔を逸らして逃げようとする涼子を捕まえて、手を取るとゆっくりと熱を持ち始めたソレに近づけた。
「………?」
「…ほら、あとは触るだけだ、ん?」
目を瞑って熱が触れる瞬間を待っていた涼子は、いつまでも手に触れることのない温度に薄目を明けて確認しようとした。
本当に嫌そうならこれ以上は強要するつもりはないが、そんな様子もないのでハッパをかけてみる。
「な! そんなの! む、無理です!」
「…涼子、本当に無理?」
この数ヶ月で、涼子には強要するよりも『せがむ』という行為の方が応じてくれやすいというのがわかってきた。
「ずるい」と不満げに小さく悪態をついてから、ゆっくりと手を近づけてまだ柔らかさの残るソレに涼子の手が触れる。
途端にビクリと反応を見せたものだから、涼子の手もビクリと反応した。
「…軽く握って。そう…そのまま、もう少し力入れて」
俺の指示にも素直に応じ始めた涼子は、どこか興味津々の様子でいちいち反応する俺自身に羞恥心よりも興味を持ったようだ。
無意識に浅くなる呼吸と、たどたどしい手つきの彼女を眼下にしていると、想像以上にクるものがある。
なんというか、視覚的にかなり気持ちが高ぶる。
気持ちがいいかと言われるとそれほどでもないのだが、如何せん気持ちの高ぶりの方が勝っているのか、自分のソコがいつもより熱を持っているような気がしてならない。
「はぁ、涼子…ん」
「あ、の…気持ち、いいですか?」
「ん、いいよ」
物足りないことに変わりはないが、これに気持ち良さまで加わったら男として恥ずかしすぎる程の速さで達してしまいそうで、余裕っぽく強がる。
それに気を良くした涼子の手が、先ほどよりも気持ち速めに動き始めたので、俺からもお礼をすることにしよう。
(正直、何かしていないと気分だけでイけてしまいそうだ)
大学卒業前に、実家で父親の運転する車に乗って以来かもしれない。
いや、待てよ。
あのときは私が運転していたから、助手席はもっともーーっと前のことかもしれない。
真横に父親が座っていたが、今は真横で優雅に運転するフェロモン製造機である我が彼氏様。
こんなことは初めてだ。
というか、あの私に彼氏がいるってだけで驚きなのに、その彼氏が誰もが羨むイケメンの年上だなんて…誰が想像したか。本人がまだ他人事のようなのに、他人が受け入れられるわけがない。
「今日行ったレストラン、ワインのラインナップはなかなかだったな」
「洋司さん飲めないのに、私だけすみません」
「いや、美味しそうに飲む涼子が見れたからいいよ」
ほら、一般人が口にすると歯の浮くようなくっさいセリフもこの人が言えば、ロマンチックな映画のワンシーンのようだよ。
この人、本当になんで一般人なんだろう。
というか、私もなんでこんな人と付き合えているんだろうか。
改めて見た横顔は、スっと通った鼻筋が高く、薄い唇がセクシーで、彫りの深い目元は柔らかくシワが入っている。
こんな40間近のオヤジは一般人にはそうそういないだろうと思う。
「こら、そんなに熱っぽく見つめるな」
「え、す! すみません!」
ぎゃぁー!
何見つめちゃってんだよ、私!
いくらイケメンだからって、じぃっと見られたらキモチ悪いに決まってるじゃないか。
「飛ばして帰りたい所だけど…涼子が乗っているし、安全運転で帰るよ」
「あの、すみませっんぅ!?」
信号待ちで止まっていた車が発信する直前に、間近に迫った洋司さんが私の言葉を遮った。
遮った方法はイケメンフェロモン製造機の得意技、不意打ちのキス。
最後の語尾は、洋司さんの口の中に吸い込まれて、チュッと軽く音を立てて離れていった。
「帰ったら…分かってるよな?」
にやりと笑った顔が、街灯に照らされて色っぽく映る。
反射的に火照った身体が、久しぶりの熱を思い出してじわりと潤い始めた。
あの、洋司さん…私に100のダメージ与えて余裕そうにしていないで下さい。
「んぁ…待っ、てぇ」
「だめだ。待たない」
玄関を入ってすぐに、壁に押し付けられるようにして洋司さんに翻弄される。
あっという間にブラウスのボタンが外されて、スーツのベルトまで外された。
さっき靴を脱いだばかりなのに、もう脱がされる一歩手前。なんて早業なんだろう…一体、どれだけの経験を積めば、静止を振り切って異性の服を脱がせるなんてことが出来るようになるんだろう。
「よ、じさん…お、お風呂」
「一緒に入りたいって?」
「ち、ちが!」
「知ってる。でも、待たない」
今から噛み付きますと言わんばかりの熱を持った目が迫ったかと思うと、深く重なった唇からぬるりと舌が侵入してくる。
まだ慣れない私の目をじっと見つめながら、逃げ惑う私の舌を捕まえては遊んで、たまに逃がして追いかける。その最中も器用に動く洋司さんの手が、ブラウスを肩から脱がしてキャミソールの裾から横腹を直になで上げた。
くすぐったくて身をよじるのに、くすぐったいだけじゃないその感覚に無意識に彼の腕へと手が伸びている。
はぁっと息を吐いて、至近距離で見つめ合うと洋司さんの口元がほんの少しだけ持ち上がった。
「…涼子、色っぽい顔してる」
「ん…色っぽい?」
「そう。女の顔してる。これから隅々まで俺に食われるんだって考えて、待ち遠しいって顔してる」
「そ! …んな顔、してる?」
否定しようとして出た言葉だったけれど、本当に否定できるのか分からなくて疑問形になってしまった。
だって、生まれてこの方異性に迫られた経験などただの一度もなかった。
彼を除いて、私に迫ろうという男性がいた事がない。そもそも、異性として意識された経験がないのに迫られた経験があってたまるか!
待て待て…私もいい加減に慣れよう。うん、慣れ…ていいのだろうか。
「現実逃避しても逃がさないぞ?他のこと考えてると、どんどん脱がしていくからな」
「ふぁっ?…ひゅがっ」
「っふ…もう少し色っぽい声はベッドの上だな」
ぐらっと視界が揺れると、身体がふわりと宙に浮かんだ。
ようは『お姫様抱っこ』と言われるものをされてしまっているわけである。
あぁ、神様…ずっとゲームや漫画の中の話だけだと思っていた『お姫様抱っこ』を経験させてくれてありがとうございます。
そもそも、私の身長と容姿でお姫様抱っこをしてくれる異性がいるとは…する側になることは度々あったけれど、こんなにも恥ずかしいものだとは思ってもいなかったなぁ…。
「ふふ…随分と余裕だな、涼子」
「よ、余裕なのは洋司さんの方です!」
「そうか? これでも焦ってるよ。俺は涼子より10も上なのに、余裕はない」
「う、そだぁ…ひゃ、っ」
ベッドに下ろされると、鼻がくっつきそうな距離まで洋司さんが迫ってきている。
呼吸をすると触れてしまいそうで、色素の薄いブラウンの瞳は熱っぽく揺れて潤む。
「本当だよ…涼子が嫌がる度にもっと見たくなる…涼子のその困った顔、可愛くてたまらない」
そう言った洋司さんがペロリと舌なめずりして見せて、「教えた通りに舌出して」と誘導される。
もう何度も奪われた私の経験不足な舌先は、その後脳みそがぐずぐずに溶けてしまうほど甘ったるいキスをされることを期待して震える。
「んぁ…」
絡み合った舌から熱いほどに火照った唾液が、口の端から漏れる。
その感覚すら、今の私には刺激が強くてそれだけでもうクラクラと頭がほうけてくる。
世の中のカップル達はいつもこんな…中毒性のあるキスをしているんだろうか、それとも洋司さんが特別に上手くってそうなってしまうだけなんだろうか。
「ほら、また別のこと考えているだろう」
「え、あ…ごめんなさ」
「ダメだ、もうお仕置きだからな」
あ、やばい…何かのスイッチを押してしまったらしい。
洋司さんの瞳がギラリと色を変えて、じゃれていたゴールデンが狼に変身してしまった。
「んあぁっ、も、やだぁ」
「嫌じゃないだろ…ん、こんなに濡れてるんだから」
「そ、なとこでぇっ…んぅ! しゃ、べらないでぇ」
さっきまで私の胸先を虐めていたはずの舌は、私の中央でいやらしく動かされている。
それはもう、耳をふさいでしまいたいほどの水音を響かせて、視界の端に股の間に収まる洋司さんの頭が見える。
イキそうになる度に、ワザとらしく刺激を弱めて太ももにキスをする。
また波が収まりかけた時に刺激を与えられて…そんなことをもう何度も何度も繰り返されて、熱くて火傷しそうな熱に浮かされている。
「どうして欲しいか、言ってくれなきゃ分からないだろ」
「も、ぃじわ…あぁ、やだぁあぁん」
「涼子…言え、どうされたい?」
怖いくらいに熱くて鋭いブラウンの瞳がじっと私を見ている。
それだけで、私のお腹の奥がきゅうっと熱く収縮するのがわかってしまう。
「も、洋司さんが…洋司さんのが、欲し、よぉ」
「よく、できました!」
「ひゃ…あぁぁーー!」
「ん、あっつ」
「だ、めぇ…あぁ、んぅ…あっ」
熱く固い洋司さんのソレが、中心を押し広げて奥に向かって深く刺さる。
刺さるという表現が正しいのかわからないけど、でも貫かれるんじゃないかって程に強い律動はズシンと重く奥の方に響いていく。
肌のぶつかる音に粘り気のある水音が混じって、鼓膜まで犯されているみたいだ。
洋司さんとの行為は、いつもいつも必死でしがみついていないとどこかに持っていかれるような感覚に落とされる。
「涼子」
「あっ…あぁっ…んぁ」
名前を呼ばれる度に、また奥がきゅぅっと熱くなる。
熱くなると、洋司さんのが中でドクリと大きく固くなるのがわかってしまう。
わかってしまう程に何度も求められて、いつもどれくらいされたか分からないで落ちていく。
「好きだよ、りょーっこ!」
「あぁ、あぁあんぅーーー!」
そして、また今日もまた目が覚めたらキレイにされて洋司さんの寝顔を見つけるんだろう。
ふわっと持っていかれるような感覚に思わずしがみついて、洋司さんが余裕なく顔を歪めた所で私の視界は暗転した。
──神崎 side──
あぁ、またヤってしまった。
腕の中にぐったりとして、身体をビクつかせる涼子を抱いて大きくため息をつく。
ここのところ、涼子も俺も仕事の忙しさでまともに会う事も出来ずに、トラブル続きの毎日。
それもこれも俺がうまくフォロー出来なかったせいもある。
会えなさ過ぎて、涼子が俺を忘れてしまっているんじゃないかと…会えないことにイライラしているのは自分だけなんじゃないだろうかと、子供っぽい自分にまたさらにイライラしてしまい、彼女の部署から来てもらっている新人に対して態度を疎かにしてしまった。
もう少し、うまく断って穏便に済ませる事だって出来たはずだったのに、売り言葉に買い言葉だ。
『私だったら、逢いたくて不安になって仕事も手に付かなくなりそうです』
『…なんのことかな?』
『…飯塚主任のことです。なんだか、あの人ってどうでも良さそうなんですよね』
『……』
『恋愛とか、恋人のこと…蔑ろにしそうですし……でも私は、私だったら!』
『…個人的な感情を優先させて、仕事を疎かにされて、周りに迷惑をかけても関係なさそうな人よりは信用できるし、大人だと…私は尊敬するけどね』
現に、あの子が俺を好きで別の子とトラブルを起こしているのは知っていたし、そのせいで俺も涼子も猫の手も借りたいほど忙しくなってしまった事も事実だった。
それでも、俺自身は涼子に会いたいと思っていたけれど、涼子はそうではないのかもと焦っている自分に図星を刺されたことに苛立ちを隠せずに、火に油を注いでしまった。
もう、30も超えていい年になったのに、何とも情けない。
そのせいで、涼子が責められる結果になったと聞いて、フォロー不足だったのではないかと焦って…これで四十前のオッサンなのだから、心底情けない。
これまでの恋愛で、こんなにも余裕がなくなるほど心を乱される相手に出会ったことはない。
どちらかというと相手の女の方に余裕がなくなる事のほうが多かった。それを冷静に冷やかな心情で見て、離れる準備をしていたのも事実。まぁ、要するに最低な男だったというところだ。
その俺が、10も離れた相手の女の子にこんなにも心を乱されるとは…これまでの女性と何が違うのかと言われるとどこまでも真っ直ぐで純粋無垢なところだろうか。
最近の若者には珍しく、一切の汚れを知らず危機感の薄い所なんかは男心に興奮すらする。
俺があと10年若くても、その当時の俺では彼女に惚れることはなかったかもしれない。あの頃の俺はそれほどまでに馬鹿だったからな。
汗やらナニやらでベタついた彼女の体を、濡らしたタオルで軽く拭き取る。
拭き取りながら、持ち上がろうとする己に呆れを覚えつつ、後で風呂場で治めてやるからしばらくは待ってくれと第三者的目線で冷静にツッコミを入れた。
先ほどまで艶っぽい姿を見せていた彼女は、どこか幼いような寝顔で深い呼吸を繰り返している。
涼子は『えぐれた可哀想な胸』をコンプレックスに思っているようだけれど、小ぶりではあるけれど膨らみがあって柔らかさもある。その上、服の上からでも敏感に反応する乳首はベビーピンクときたもんだ。
薄っぺらい腰に丸く上がったケツ。
どっからどう見てもスタイルがいい極上の女であることに変わりはないのに、何度伝えても彼女はそれを信用していない。
「ん…よ、じさん?」
「あぁ、すまない。起こしたか?」
「ううん、だいじょう…っ!」
最初の頃に比べると少しだけ俺との行為に慣れてきたのか、覚醒した涼子が視線を慌ててそらした。
耳まで真っ赤にした彼女の反応は、実にいたずら心を擽られるもので、初めてでもないのに恥ずかしそうに俺の持ち上がりかけたソレの存在を意識している。
「…見るの、初めてじゃないだろ?」
「いや、だって! こんなに明るいところでは、その…初めて…じゃなくて! 隠してください!」
「…涼子が自分で隠せばいいだろ?」
「な!」
「ほら、隠せるものはたくさんあるんだし…それとも、触ってみるか?」
さらに真っ赤になった涼子の反応が面白くて、可愛い。
精一杯顔を逸らして逃げようとする涼子を捕まえて、手を取るとゆっくりと熱を持ち始めたソレに近づけた。
「………?」
「…ほら、あとは触るだけだ、ん?」
目を瞑って熱が触れる瞬間を待っていた涼子は、いつまでも手に触れることのない温度に薄目を明けて確認しようとした。
本当に嫌そうならこれ以上は強要するつもりはないが、そんな様子もないのでハッパをかけてみる。
「な! そんなの! む、無理です!」
「…涼子、本当に無理?」
この数ヶ月で、涼子には強要するよりも『せがむ』という行為の方が応じてくれやすいというのがわかってきた。
「ずるい」と不満げに小さく悪態をついてから、ゆっくりと手を近づけてまだ柔らかさの残るソレに涼子の手が触れる。
途端にビクリと反応を見せたものだから、涼子の手もビクリと反応した。
「…軽く握って。そう…そのまま、もう少し力入れて」
俺の指示にも素直に応じ始めた涼子は、どこか興味津々の様子でいちいち反応する俺自身に羞恥心よりも興味を持ったようだ。
無意識に浅くなる呼吸と、たどたどしい手つきの彼女を眼下にしていると、想像以上にクるものがある。
なんというか、視覚的にかなり気持ちが高ぶる。
気持ちがいいかと言われるとそれほどでもないのだが、如何せん気持ちの高ぶりの方が勝っているのか、自分のソコがいつもより熱を持っているような気がしてならない。
「はぁ、涼子…ん」
「あ、の…気持ち、いいですか?」
「ん、いいよ」
物足りないことに変わりはないが、これに気持ち良さまで加わったら男として恥ずかしすぎる程の速さで達してしまいそうで、余裕っぽく強がる。
それに気を良くした涼子の手が、先ほどよりも気持ち速めに動き始めたので、俺からもお礼をすることにしよう。
(正直、何かしていないと気分だけでイけてしまいそうだ)
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