28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第五章 奪わせない愛し愛され開発生活

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 劇的に穏やかだったのはたったの1ヶ月だった。

 洋司さんとの休日も数回過ごした後にはすっかり忙しくなってしまった。

 それでも、前よりも気分がいいのは、仕事に対して集中できるようになったからっていうのと、私が通したかった企画がしっかりと通ってやっとGOサインが降りたから。


 「高木くん、後でモデル事務所に連絡入れといて」

 「撮影日、来月で日程確定の確認メール投げてます」

 「飯塚さん、後でデザイン画とコンテスト作品に目を通しておいてくださいね!」

 「了解! 時間あるときに第3企画室に広げて施錠しといて」


 バタバタとそれぞれの仕事をこなしながら、冬企画の撮影がスタートしていた。

 ポスター撮影は残り数カットで決着がつく。後はCM撮影のプロットと絵コンテをデザイン家や撮影スタッフさん達と打ち合わせすることになる。

 その日程もなんとか春企画の本格始動までには確定させておきたいし、予備日も作っておかなきゃならない。

 やることはたくさんあるし、今は寝る間だって惜しくて体は疲れているはずなのにこんなにも気分良く仕事ができるなんて、今までなかったような気がする。


 「高木ー! 昼早めにとってアポ行くよー」

 「小田さん、資料忘れてますよ」

 「あ、ごめん」


 高木くんと小田ちゃんもなんだかんだといいペアになってきたし、来年あたりは冬企画のリーダーと補佐をそれぞれに任せてもいけるんじゃないかなぁ~。
 いや、高木くん一年目じゃん。…………ま、いっか。
 後で横溝部長に進言してみよう。





 「ちょっと、お涼…今いい?」

 「杏奈?」


 いつになく神妙な面持ちで顔を出した杏奈にどこかで嫌な予感を覚えた。


 「どうしたの?」

 「…どうしたって後々絶対耳に入るだろうから伝えるんだけど…先週から神崎部長はロスに出張行ってるでしょ?」


 そうなのだ。

 先週から洋司さんはデザイナーと一緒にロスへ出張に出かけている。

 向こうで行われるファッションショーの一部に、出演が決まりその準備と打ち合わせに2週間程滞在予定だと本人から聞いている。


 「それがどうかした?」

 「…それと入れ違いに、受付に新しい子が入ったのは知ってる?」

 「そういえば、見たことない子がいたような気がしたけど」

 「…その子がね、受付の子が使ってる1階の給湯室で言ってたらしいの…神崎洋司さんは私の婚約者でこの会社は叔父から紹介を受けて働いているって」

 「…は?」

 「しかも、来年の夏の自分の23歳の誕生日に結婚式を挙げる予定だって」

 「…な、え…はい?」


 一体、杏奈は何を言っているんだろうか?

 先週、ロスへ出張に行った洋司さんからそんな話は聞いていないし、一昨日電話で話した時だってそんな事は言っていなかった。

 むしろ、早く帰って抱きたいなどと沸騰寸前になりそうな恥ずかしいセリフを吐いて、笑い合っていたのに…寝耳に水とはまさにこのことなんだろうと思う。


 「そんな話、洋司さんからは何も聞いてない」

 「そりゃ、本人に言えるわけないでしょ?!」

 「一昨日だって電話で普通の話したのよ?」

 「…だから、余りにもあんたが普通だったから、おかしいなって思って…話したのよ」


 何がどうなっているのか。

 私は裏切られているのか、それとも同姓同名の人がこの会社にいてその人の事を言っているんだろうか…。

 いや、少なくとも同姓同名がいればもっと有名というか、もっと話題になっているはずだし、私だって知っているはずだ。

 それじゃ、その受付の子が嘘をついてるって事になるの?

 でも、何の為に嘘をつく必要があるの?

 洋司さんと私を別れさせるため?


 「…お涼!」

 「え…あ、何?」

 「…はぁ、とにかく! 神崎部長に話してちゃんと本当の事を聞かなきゃ! きっと何かの勘違いかもしれないし、その受付の子のホラ話の可能性だって十分にあるわ!」

 「う、うん…」

 「今日、話せそうなの?」

 「…いや、どうかな。今日は会場責任者と会議だって言っていたし…会議のあと御飯だって行くんじゃないかなって話してたから…」

 「なんとかして無理矢理にでも時間をもぎ取りなさい! じゃないと」

 「あ、うん…まぁ、大丈夫。うん、私は大丈夫。…この後打ち合わせあるし、ごめん」


 心配そうに背中に手を当ててくれる杏奈の温度がじんわりと伝わる。

 それなのに、私の手足はどうしてか冷たく感じた。

 変な動悸とひやりとした汗に気分もだんだん悪くなる。

 それでも仕事は山積みで、忙しさもMAXだ。

 今私がこんな事で使い物にならなくなるなんて、そんなことはチームの皆にも外部の協力者にも迷惑がかかるんだ。ちゃんと仕事しよう。

 そうして、帰ったら洋司さんにメールしてみよう。

 もしかしたら、タイミング良く返事が返って来て、ちょっと話だって出来るかもしれない。
 声を聞けば、落ち着く……気がする。


 柄にもなく、色恋に焦る自分に現実味を感じることなく、気付けば就業時間を告げるチャイムの音を聞きながら、ほとんど無意識のうちに仕事をしていたらしかった。



 「先輩、まだ帰らないんですか?」

 「うーん…もうちょっとだけやってくよ」


 小田ちゃんが心配そうな顔で背後にいるのが分かる。

 きっと小田ちゃんもあの話を知っているはずだ。

 だから余計に心配してくれているような気がする。


 「小田さん帰りますよ! 駅前の美味しい立呑屋紹介してくれるんでしょ?」

 「え、待って高木! ちょ、先輩! なんかあったら連絡してくださいねー!」


 横から現れた高木君が小田ちゃんの二の腕を掴んで連れて行ってくれた。

 最初の頃なんて忘れたみたいに仲良くなっている2人に笑ってしまう。本当に、いいコンビだと思う。


 今は、他人からの気遣いや心配そうな顔に、どう反応すればいいのか困ってしまう。
 だって、受付の子……さっきの営業帰りに改めて見たらものすっごく可愛かった。
    
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