28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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第五章 奪わせない愛し愛され開発生活

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 何が起こっているのか、理解するまでにかなり…というか実はまだ理解しきれていない。


 先ほど、昼休憩から戻って来た会社のエントランスで、2週間ぶりに目にした洋司さんに抱き着く受付の人とその横にいる超絶イケメンの外国人。

 その外国人がまっすぐ自分に向かってきて、財布を持っていた私の手を取ってドラマのような口付けをしてきた。

 もう、訳が分からない。

 そのイケメンはすぐに現れた仕事の関係者らしき人に無理矢理引っ張られてどこかへ消えて、洋司さんに抱き着いていた受付の人は「洋司さん、仕事終わりにまた」と一言残して満面の笑みを洋司さんに向けて仕事へ戻っていった。

 残された私と小田ちゃんはびっくりしたまま、洋司さんの後方で頭を抱えていた横溝部長に連れられて部署へ引っ張られて軽いミーティングとなった。


 「…飯塚、大丈夫か?」

 「へっ?! あ、はい。すみませ…あれ?」

 「もう終わってるよ。はぁ、すまんな…俺が、もうちょっと早く郁の電話に気付いてたらあの状況は防げたのかもしれないが、会議の後人事部長に捕まってな」

 「いや、部長のせいじゃ…え? 郁って?」

 「…あぁ、なんだ。聞いてないのか? 神崎の妹が俺の嫁さんで、神崎とは大学からの付き合いなんだよ。だから、まぁ俺は神崎の義理の弟って立場になるな」

 「えぇっ?! そんなの、初めて…あ、いや…なんか色々と洋司さんが言ってたかもしれないけど…聞いてなかったのかな?」

 「あー、まぁだからな、今回のことはちょっとややこしい事が絡んでるんだよ。ちなみに受付に新しく来たっていうのは…まぁ、詳しくは神崎から聞けばいいとは思うんだが、話が前に進むこともなく始まりもしなかったあいつの婚約話のお相手さんだ」


 こん…やく?

 え? こんにゃくじゃなくて、こんやく?

 あの結婚とかを約束しちゃってる相手のこと?

 話も進まずに終わった婚約って何?

 そもそも婚約してるのに話が進まないってどういうことなの?

 婚約するってことは、どっちかが相手に向かって「結婚しましょう」とか「結婚してください」とか言って、言われた相手も「もちろん」とか「はい」とかって了承したから婚約になるって話であって、前に進まない婚約の話はそもそも、そういうやり取りがなければ婚約にすら発展しないわけであって…要するに……どういうことなの?


 横溝部長の話で余計に頭がこんがらがってしまったわけで、その説明をしてくれた本人は電話をするために会議室を出て行って、残ったのはパニック状態の私だけなわけで…。

 もう、何から整理すればこの話の始まりが分かるのか、それすらさっぱり分からない。

 要は、私はメインキャラのはずなのに蚊帳の外でメインストーリーが進んでしまっている物語の登場人物になってしまっているような。
 いや、余計ワケわからん。


 洋司さんからは「ちゃんと説明するから、先に家に帰っていて欲しい」と鍵だけ渡されていて、このあとの展開とか洋司さんからの説明とかがもう予想すらできない。

 こういう時の私のバイブルでは、ライバルが登場して2人でなんとかかんとか解決しながらお互いを再確認するって感じの展開なんだけど…それを自分ができるという想像ができない。

 そもそもこういう時の主人公にはなんていうか、絶対的な自信というか安心する何かがあったりする。

 でも、私にその自信や安心できるなにかがあるようには思えない。



 私に、洋司さんから愛される…愛してもらえる自信って…何であるんだろう。

 無条件に愛してもらえる…何かを私は持っていただろうか?


 私は、洋司さんに愛してもらえるのと同じだけ、何かを返せているんだろうか?








 「ご挨拶が遅くなってしまって、すみません」

 「…え、あ」


 会社の休憩室前の廊下で、小田ちゃんくらいの身長に綺麗なロングストレートを左肩から前側に下ろして、大きな瞳とメリハリのある体つきの“The 女の子”が小ぶりのカバンを持って立っていた。

 女の私が見ても、ドキッとするほどの可愛らしさをしっかりと武器にしている。

 わぁ~…私、こんな人とライバルなの?

 勝目ねぇ~…


 「私、寺崎 百合恵と申します。もうお耳に入っていると思いますが、洋司さんとは両家同士で婚約することが決まっている間柄です」

 「りょ…うけ?」

 「えぇ、両家です。洋司さんは年の離れた私との婚約は私にとって良くないと優しい配慮をしてくださって話が進んでいませんでしたけれど、大学も無事卒業しましたし、私自身でちゃんと自分のことを判断できる年齢にもなりましたので…そろそろ洋司さんのお遊びも控えて頂く方がいいと思っているんです」

 「…えっと…おあ、そび?…って…」

 「これまで…こう言っては失礼ですが、飯塚さんよりも魅力的な女性が何人も洋司さんの恋人として、彼の隣にいたことがありましたが、決まって洋司さんはどなたとも深い関係は結んでいません。それなのに、今回はちょっと趣向を変えて…飯塚さんのような方をお相手にして…どう考えてもお遊びです」

 「それは…どう考えても今、私は喧嘩…売られてるんだよね?」


 しっかりと私を値踏みして意味深な言い方をする寺崎さんに、ちょっと…というかかなり苛立つ。

 そりゃぁ、私は女としての色っぽさとか外見の優位性はあんまりないけどさ…ちょ~~~~っと舐めすぎなんじゃない?

 っていうか、私との関係が遊びって何を根拠に言ってんの?

 っていうか、自分が範疇外だったからって私にやつあた……あれ? 今、私…もしかして…


 「どんな人が洋司さんの隣に来ようと、私には関係ありませんよ。誰が相手でも、私は私の使える全てを使って洋司さんの妻としての立場を私以外の誰かに渡すつもりはありません。例えそれが卑怯だと言われても、私は今家という後ろ盾を使って洋司さんを捕まえることができるんです」

 「……」

 「洋司さんが私を想っていなくても、今は私を想ってもらえなくても…10年後はどうなっているか分かりません。ですから…さっさと洋司さんとの関係、見直してください。あなたのような、愛されて当然、愛してもらって当たり前のスタンスの方に、そこにいられては迷惑ですから」




 グサリ…と突き刺さった。

 ずっとずっと、付き合うようになる少し前からも…どうして私だったんだろうという疑問ばかりで、私自身が洋司さんをどう想っているのか、私は洋司さんにちゃんと気持ちを返せているんだろうかって…もらってばかりじゃないかって…そればかりを考える。

 「では」と言い切って、颯爽と私を通り過ぎて帰って行ってしまった寺崎さんは、私とは違う自信を…確かな自信を持っていた。



 洋司さんを“愛している”という自分の想いに対する自信。




 私にはない、確かな自信。




 手の中の鍵が…急に重たく、冷たく、痛く感じた。

 あんなに、あんなに会いたかった…触れたかった洋司さんに、今触れるのも触れられるのも…





 怖くなった。


 ものすごく…。

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