28歳 喪女な私の愛され開発生活

甘噛屋

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最終章 これからだって愛し愛され開発生活

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 「んじゃ、俺は殺される前に帰るわ」

 「ちょ、やり逃げ!」

 「言い方な!! 誤解を招くからやめろ」


 大剛は、スマホを私に帰してからあっという間に帰り支度を始めてしまっている。

 「俺はまだ死にたくないし、痛いのも嫌なの! 後はお前がどーにかしろ!」

 「どーにかって……」

 どうしろというのか。
 可愛らしく泣いてすがればいいのだろうか?
 でも、そうしたとして洋司さんが私を選んでくれる保証などない。

 「また余計なこと考えてるだろ? そうやって考えるより、今涼がどうしたいかを優先する方がいいぞ。なんせ、お前の彼氏はお前にぞっこんだ」

 「ぞ、っこん?」
 
 「俺が電話に出たとき、俺はきっとこの人に会った瞬間に死んだな。って悟ったからな」

 「は? え、余計分からない」


 カウンターの伝票の上に5000円札を出して、裕子さんとニコリと顔を見合わせている。

 「…どんな人なのかは、今度大剛くんに報告するわ」

 「あざっす! 涼、じゃな!」

 「あ、ちょっと! ずるくないですか?!」

 

 ニコニコとカウンター越しに笑う裕子さんは、これから起こる事が楽しくて仕方ないのか、心なしか体が揺れている。
 挙げ句に可愛らしいハミングまで聞こえる。


 「すんません、涼子さん。裕子さんの事はもう諦めて下さい」

 
 会計を済ませた大剛を見送った晃くんが、頭を下げた。
 その姿は、もう旦那さんそのものだ。
 体格が良く、男前な青年の彼は裕子さんに一目惚れをした普通の大学生だった彼は、裕子さんが男だと知ったときも、「キレイな貴女に惚れた事実は変わらない」と迫ったのだとか。

 「何よぉぅ! いいじゃない! 涼ちゃんの初恋よー!! 興奮する!」

 ふんすと、鼻息荒く楽しそうな裕子さんに苦笑いしつつも、初恋かぁ……と感慨深くなる。
 私の初恋って、洋司さんなのかなぁ?
 
 「そもそも、28にもなって初恋って可笑しくないですか?」

 「あら、じゃぁ涼ちゃんの初恋はいつなのよぅ!」

 「んー、いつ……だっけなぁ」


 と考え込んでしまう辺り、やはり洋司さんがそうなのか。
 改めて身構えると、なんかヤバいぞ。
 今まで自分がしてきた反応がすごく申し訳ない。もう、どんな顔して会えばいいのか………いや、今から会うんだけどさ!


 「ねぇ、涼ちゃん。涼ちゃんは、ずぅっと一人で色んな事に向き合って来たんでしょ? 仕事でも、それ以外でも。それをね、今度は一緒にする相手が出来たって素敵な事じゃない?」

 「一緒に……ですか?」

 「そう。だって、悩んだり、悲しかったり、不安だったりしても、涼ちゃんの横には絶対誰かがいるのよ? その誰かは、いつだって涼ちゃんの味方で、守ってくれる人で、涼ちゃんも同じ様にその誰かの味方で、守りたい人で。それってね、すごく幸せですごく素敵だと思わない?」


 いつも、洋司さんは私に寄り添ってくれた。
 不安なときも、悩んだときも、気が付いたら洋司さんがいてくれて、話を聞いてくれて、それで気付いたら解決してて。
 そんな大切にしてくれる、私の大切な人が私に酷くしたりはしない。

 私だって、洋司さんを───。




 カラン──コロッ──

 ドアのベルが人の入店を知らせて、自然とそちらを目で見ると、いつものスマートな洋司さんとは違う、焦ったような彼がいた。

 汗だくで、いつものオールバックが乱れて色んな所から髪が飛び出ている。
 ワイシャツのボタンも2つ開けて、ネクタイは捻れてしまっていた。



 「良かった。電話の彼は?」

 「えっと」

 「一発殴らせてもらいたい」

 「えぇっ?! あの、大剛はもう帰っちゃってて」


 洋司さんの眉毛がピクリと反応する。
 心なしか、こめかみの青筋がクッキリして───えっと、火に油を注いでしまったの? なぜ?


 「大剛? 名前で呼び合うような関係なのか?」

 「いや、大剛とは大学からの友だちで」

 「友だちが、彼氏からの電話に出て噛みつくのか。涼子、俺は心の広い男じゃないからね、次に彼と会わせないように、気を付けてて」


 あ、ダメだ。
 どうしよう。


 「………涼子?」


 我慢、出来ないかも。
 いや、ほんと、どうしよう。


 「………何ニヤニヤしてるんだ」

 「いや、ごめんなさい。でも、う、嬉しく、て」


 洋司さんの嫉妬をここまで強く感じたことはなかった。
 いや、もしかしたら私が気付いてなかっただけなのかもしれない。
 それを、感じられるくらいには今、私は彼の私に対する想いに自信を持てる。
 そして、それと同じくらい、私は私の気持ちにも自信を持てる。

 「涼ちゃん、ちょっと! なにその全身からフェロモン駄々漏れみたいな男!? 私、見てるだけで妊娠しそうよ??!」

 「ちょ!? 見てるだけで妊娠してたら、私なんてとっくにっ───」


 そこまで言いかけて、自分が何を言っているのか理解して、顔に熱が集まって全身から変な汗が吹き出てくる。

 裕子さんは「キャー! エッチよ、エッチー!!」とか言いながら、ピョンピョンして悶えているし、晃くんは何故かモジモジしながら裕子さんを見ているし、洋司さんは顔を抱えてため息を付きながら肩を震わせている。


 「とりあえず、出るぞ」

 「じゃ、今度はゆっくりしに来てね、涼ちゃん。……彼氏さんも、お望みとあらば大剛くんも招待しちゃいますので!」


 バチンっと音がしそうなウインクをした裕子さんが、洋司さんからカードを受け取って───って、いやいや!

 「わ、私が払います!」

 「いい、この方が速い」

 「じゃなくて! 私が飲んだのにっ!」

 「いいんだ。早く君を連れて帰りたい」

 んっもう!! なんなのっ!?
 はずいわっ!

 「やっだぁ! ちょっと、晃聞いた?! 早く君を連れて帰りたいイケボだってぇー!!」

 裕子さんが、楽しそうに普段滅多に聞くことのないイケメンボイスで、洋司さんの真似をする。


 「余裕がなくてなくて申し訳ないが、今度ゆっくり飲みに来ます。大剛くん・・・・にも、よろしくお伝えください」

 若干、『大剛くん』を強調しているように感じるわけで、それってすごく怖い。
 大剛が帰る判断をしたのは、間違いではなかったようだ。
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