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幕間 見知らぬアイツ
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「……生きてた」
西山が帰って暫くして。
一人になった私の口から思わずそんな声が漏れていた。
「生きててくれた……」
もう一度、噛みしめるような声が意識せず漏れた。
声と一緒に全身から力も抜けていって、立っているのもしんどくなった私はベッドへと倒れ込む。
(全然イメージとは違ったわね)
授業受けられもしないのに出席日数稼ぎの為だけに学校に来る嫌なヤツ。
聞こえてくる噂だって脱走入院患者だの親殺しだの碌でもないものばっかり。
偶に話した時の印象だって何考えてるか解らない不気味なヤツでしかなかったのに、今じゃむしろ変な真面目さに面白さと親しみを感じてる。
(立花さんと話せるようになりたい、か……)
そこまで考えて、思い出したのは西山の口にした願い。
お金だって身体だって自分に出来る限りなら何でもしようと思っていたのに、あの言葉は衝撃を通り越して戸惑いすら覚えた。
(叶えてあげたい)
自分を殺したとも言える私なんて気にもしてない、柔らかく綺麗でささやかな願い。
だから絶対立花さんと話せるようにしてあげたいって思ったのに。
「なんかもう相手に心当たりありそうなのよね……」
もう私が出来る事なんてなさげで嫌になる。
(駄目、駄目だわ。こういう考えは駄目よ)
殺し掛けた償いはしたい。
だからって、その為に事件が解決しない事を願うのは本末転倒。
アイツが笑っていられるのが一番いいんだから。
(そういえば……)
もし犯人……って言い方は違うわね。
助けてくれた恩人が見付かったとして。
(その人だって、わざわざ西山を苦しめる為に助けた訳じゃないと思う)
憎いなら、それこそ助けずに放っておけばよかった。
だとしたら今の状況は、その人にとっても予定外の状況なんじゃないかしら?
(だとしたら多分、治療には時間が掛かる筈よね?)
それなら私にもまだ、西山にしてあげられる事が残っているのかもしれない。
(治るまで私が立花さんの代わりになって一緒に居る、とか?)
考えている途中から乾いた笑いが出た。
(どう考えても無理よね)
立花さんみたいに優しそうじゃないし。
髪とか赤いし身体はデカいし。
(その癖、胸はないのよね……)
喧嘩ならともかく、女としての魅力ってやつで勝てる部分なんてなさげ。
到底、代わりになんてなれないのは解る。
(だからって何もしないなんてのは有り得ないわ)
せめてアイツが立花さんに近寄れなくなった寂しさを紛らわせられるように。
ほんの少しでいいから力になりたい。
(……なんて、虫のいい話よね)
仮にそれが出来たとしたって、そこまで出来て初めて事件が戻る前の日常を代用品で埋めただけ。
傷付けた分、殺し掛けてしまった分の罪はそのまま残ってる。
(落ち着いてくれば西山だって気付く)
今は事件のショックで混乱してて実感が湧いてないだけ。
冷静になって事態を把握してくれば、今日みたいに平然となんてしてられず私に怒るだろう。
(その時、私に何が出来るのかしら……)
出来る事はしたいと思う。
けれど、西山が何を欲しがるのか解らない。
(身体? お金? それとも他の物?)
解らない。
何をすれば喜ぶのか。
何が欲しいのか。
(……それとも、本当に許せるものなの?)
冷静になって事態を把握した後で、怒るのかも本当は解らない。
あれほど酷い事したのに、自分に怒鳴り散らしたり暴力を振るおうとする西山の姿がどうしても浮かばない。
(今回だけじゃない)
いつだって何を言われたって。
西山が怒った姿なんて見た事なかったから。
(顔も声も名前も成績も知ってるし、立花さんへの想いも聞いたのに)
この一年近く、何度も顔だって合わせてた筈なのに。
(私ってあいつの事、全然知らなかったのね)
普段どんな話をして、どんな顔して笑ってるのかすら知らない事に今更になって気が付いて。
それなのに八つ当たりで酷い事ばかり言ってた自分が情けなくて。
次からは殺し掛けてしまった罪悪感とかを抜きに、西山に優しくしようと私は心に誓ったのであった。
西山が帰って暫くして。
一人になった私の口から思わずそんな声が漏れていた。
「生きててくれた……」
もう一度、噛みしめるような声が意識せず漏れた。
声と一緒に全身から力も抜けていって、立っているのもしんどくなった私はベッドへと倒れ込む。
(全然イメージとは違ったわね)
授業受けられもしないのに出席日数稼ぎの為だけに学校に来る嫌なヤツ。
聞こえてくる噂だって脱走入院患者だの親殺しだの碌でもないものばっかり。
偶に話した時の印象だって何考えてるか解らない不気味なヤツでしかなかったのに、今じゃむしろ変な真面目さに面白さと親しみを感じてる。
(立花さんと話せるようになりたい、か……)
そこまで考えて、思い出したのは西山の口にした願い。
お金だって身体だって自分に出来る限りなら何でもしようと思っていたのに、あの言葉は衝撃を通り越して戸惑いすら覚えた。
(叶えてあげたい)
自分を殺したとも言える私なんて気にもしてない、柔らかく綺麗でささやかな願い。
だから絶対立花さんと話せるようにしてあげたいって思ったのに。
「なんかもう相手に心当たりありそうなのよね……」
もう私が出来る事なんてなさげで嫌になる。
(駄目、駄目だわ。こういう考えは駄目よ)
殺し掛けた償いはしたい。
だからって、その為に事件が解決しない事を願うのは本末転倒。
アイツが笑っていられるのが一番いいんだから。
(そういえば……)
もし犯人……って言い方は違うわね。
助けてくれた恩人が見付かったとして。
(その人だって、わざわざ西山を苦しめる為に助けた訳じゃないと思う)
憎いなら、それこそ助けずに放っておけばよかった。
だとしたら今の状況は、その人にとっても予定外の状況なんじゃないかしら?
(だとしたら多分、治療には時間が掛かる筈よね?)
それなら私にもまだ、西山にしてあげられる事が残っているのかもしれない。
(治るまで私が立花さんの代わりになって一緒に居る、とか?)
考えている途中から乾いた笑いが出た。
(どう考えても無理よね)
立花さんみたいに優しそうじゃないし。
髪とか赤いし身体はデカいし。
(その癖、胸はないのよね……)
喧嘩ならともかく、女としての魅力ってやつで勝てる部分なんてなさげ。
到底、代わりになんてなれないのは解る。
(だからって何もしないなんてのは有り得ないわ)
せめてアイツが立花さんに近寄れなくなった寂しさを紛らわせられるように。
ほんの少しでいいから力になりたい。
(……なんて、虫のいい話よね)
仮にそれが出来たとしたって、そこまで出来て初めて事件が戻る前の日常を代用品で埋めただけ。
傷付けた分、殺し掛けてしまった分の罪はそのまま残ってる。
(落ち着いてくれば西山だって気付く)
今は事件のショックで混乱してて実感が湧いてないだけ。
冷静になって事態を把握してくれば、今日みたいに平然となんてしてられず私に怒るだろう。
(その時、私に何が出来るのかしら……)
出来る事はしたいと思う。
けれど、西山が何を欲しがるのか解らない。
(身体? お金? それとも他の物?)
解らない。
何をすれば喜ぶのか。
何が欲しいのか。
(……それとも、本当に許せるものなの?)
冷静になって事態を把握した後で、怒るのかも本当は解らない。
あれほど酷い事したのに、自分に怒鳴り散らしたり暴力を振るおうとする西山の姿がどうしても浮かばない。
(今回だけじゃない)
いつだって何を言われたって。
西山が怒った姿なんて見た事なかったから。
(顔も声も名前も成績も知ってるし、立花さんへの想いも聞いたのに)
この一年近く、何度も顔だって合わせてた筈なのに。
(私ってあいつの事、全然知らなかったのね)
普段どんな話をして、どんな顔して笑ってるのかすら知らない事に今更になって気が付いて。
それなのに八つ当たりで酷い事ばかり言ってた自分が情けなくて。
次からは殺し掛けてしまった罪悪感とかを抜きに、西山に優しくしようと私は心に誓ったのであった。
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