【完結・BL】揺らめき、たゆたう

リビィ・ベル

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第2章

【大学生・それぞれのふたり22】

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 司の隣りに座る女の子たちの無意識にもれる、綺麗、カッコいい、色気エグいって、という言葉を聞いた瞬間、司の中で何かが溢れ出しそうになった。


  ーー 西澤を見るな、見るなよ ーー


 それはどこかで感じた記憶だった。
 司はその記憶を手繰り寄せた。本能が、やめろ、と叫んでいたが司は構わず続けた。おぼろげながら少しずつ中学の頃の記憶が甦ってきた。

『ねぇ司くん、西澤くんて好きな子いる?』

 中学の頃、もう何度も女子から聞かれた質問だった。

『何で? 好きなの?』

『私じゃないんだけど、友達がね……。西澤くん、好きな子いる?』

『サッカーじゃない?』

『え……そういうことじゃなくて……』

『ごめんだけど知らない。オレらそういう話しないから』


  ーー西澤を見るな、見るなよ ーー


 曖昧だった記憶が溢れ出してくる。

『司! あのさ、西澤くんの誕生日っていつか知ってる?』

『何で?』

『西澤くんにプレゼントあげたいって子が結構いるんだ! 司、西澤くんと仲いいじゃん? 今度聞いておいてくれない?』

『……だる。そういうの。柚花ゆずかもさ、そんなの自分で聞けって言ってやれば?』

『……司、何かごめんね? あんたも大事な大会控えてるのに、こんな話……ごめん、じゃあね』

 去っていく小学生からの幼馴染の柚花にまでこんな冷たい対応しか出来ない自分を罵ってやった。オレはこんなヤツだったか? もっと友達のために何か協力してあげたいって、以前なら思えていたのに……。


  ーー 西澤を見るな、見るなよ ーー


 司はとめどなく溢れる記憶の波にそのまま身を委ねた。
 
 中学の頃、数人の友達と映画を観に行ったときなど、司の隣りの席で肩を震わせ、両手で顔を覆いながら込み上げる笑いを必死で堪えている翔真が、最終的に司の腕に顔をめり込ませて笑う無邪気な姿や、教室の中での何気ない話に笑い転げる翔真の、愛らしくころころと変わる表情に、司は素直に可愛いなと感じていた。けれど、グラウンドでサッカーをする翔真は、それらとは全く違って見え、どこか大人っぽくその澄んだ瞳は常に真剣だった。

 ボールを足元で器用に操り、ひらりと身をかわし、まるでダンスをしているかのように軽いステップで相手からボールを奪う翔真の姿、真剣な眼差しは、司にとって眩しいくらいにカッコよく映った。

 翔真の目を、あどけない表情を、可愛い仕草を、嬉しそうに笑う顔を、サッカーをしている時のカッコいい姿を、真剣な眼差しを、司はいつの頃からか目が離せられなくなっていた。

 部活中、翔真に視線を送っていることを、司はいつも陸上部の部員によって知らされるのだった。

『司? 何ぼーっとしてんの? また翔真見てんの?』

『え? オレ、見てた? あぁ……何かさ、あいつ……西澤って不思議なヤツだと思わね?』

『不思議ってどゆこと?』

『何かいつもはころころ笑ってあどけないっていうか……幼い感じなのに、サッカーしてると大人みたいに見える』

『あぁ、翔真は小学生の頃からそんなだったよ? 司いつも翔真のそばにいて、何だかわかんないけど、あったかいな~って思ったことない? 穏やかだけどやるときはいつも真剣で、でも楽しいヤツでさ! 誰に対しても態度変えずに接してくれるから女子からも男子からも人気だったし、みんなから可愛がられてたな。愛されキャラってヤツ?』

 愛されキャラ、司の中で納得と同時にもやもやとした感情も生まれていた。


  ーー 西澤を見るな、見るなよ ーー


《……西澤が欲しい、あいつの全部が……》


 嫉妬心に加え、翔真を独占したい感情までも追加されていった。司は再びボールを追いかける翔真に視線を戻し、グラウンドで凍える寒さの中、身体から熱く吐き出される翔真の白い息さえも、司は欲しいと思ってしまった。

 友達の多かった翔真は、いつも男子に囲まれていた。同級生だけじゃなく、先輩からも可愛がられていた翔真はいつも肩を組まれたり、後ろから抱きつかれたりしていた。


  ーー お願いだから、頼むから、そんな簡単に西澤に触るなよ ーー


 何でもない男子のよくある光景を直視出来ない自分はどうかしている、と思うも翔真のことになるとどうしても駄目だった。司の心は大きく乱れるのだ。こんな感情、あいつは望んではいない、今日も明日も明後日も、この感情が続くのかと思うと苦しくなった。友達でいなければいけない、そうじゃなきゃ翔真が離れていってしまう、こんな感情は失くしてしまえばいいのだ、翔真を友達以上に想うこの気持ちを消してしまえば、これから先も、ずっと翔真のそばにいられるから……。


《……ウソだろ……ウソだろ……ウソだろ……》


 長い夢から覚めるように、司ははっと我に返った。
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