1 / 12
序章 暴虐の悪龍クリムゾン
第1話 ドラゴンの失敗
しおりを挟む
世界最強の種族ドラゴン。
一口にドラゴンと言ってもその強さはさまざまであるが、膨大な時間を生き、飛び抜けた強さを持つに至った者はロード・ドラゴンと呼ばれる。基本的にロード達が争い合う事はなく、各々が眷属を従えて孤島や霊山を縄張りとして、世界各地に君臨していた。
しかしそんなロード達の中に、ただ一頭、異質な存在があった。強ければ誰彼構わず戦いを挑む異端のロード。その者は質の悪い事にロードの中でも突き抜けて強く、まさに最強の力を持っていた。
眷属も縄張りも持たず、いつどこに現れるとも知れない破壊の権化。それは、強大な力を持つ他のロード達に取ってさえも、自然災害そのものだった。
ロード・ドラゴンすら忌避する異端にして最強の龍は、畏怖の念を込めて混沌暴帝龍と呼ばれた。
その龍は真名を『クリムゾン』といった。
名前通りの深紅の鱗に身を包み、山ほども有る巨大な体に細長い尾と首を持ち、体に比して小さい頭部には、これまた小さい二本の角が生えていた。手足は歩行に向いていない程小さく短いが、その背には7対の翼があり、自在に飛行可能だ。その異常な強さのためか、通常のドラゴンとは形態がかなり異なり、不格好で異形のドラゴンとなっている。
また本来ドラゴン種は極めて高い知能と、穏やかな性格を持っており、歳を重ねたロードともなれば、その傾向はさらに強くなり無暗に力を振るわないのだが……。クリムゾンはと言えば、あまり賢くない上に無類の戦闘好きで、常に戦う相手を求めている始末だった。
何処かで紛争が起これば勝手に駆けつけ、どちらに味方するでもなく暴れ回っていたクリムゾンであったが、ほどなくして『彼の龍は紛争さえ起こさなければ絡んでこない』という、非紛争国家からの情報が各国に供された。クリムゾンは戦う意思のある者には嬉々として喧嘩を吹っ掛けるが、幸いな事に無抵抗の相手を滅ぼす事には一切興味がないのだ。そして、彼の龍の暴虐によって、期せずして世界から争いが消失したのだった。
時を同じくして――クリムゾンを除くロード・ドラゴン達は『彼の暴帝は放置する』という密約を結んでいた。
最強の種族であるドラゴンも、それ以外の種族も、クリムゾンを前にしては等しく被害者であり、奇しくも同じ結論に至ったのだ。
『バカは相手にしない』
かくしてクリムゾンは戦う相手を失い、そこで初めて自身の過ちに気付く。嫌がる相手と無分別に戦ってはいけなかったのだ。
しかし時すでに遅し。クリムゾンはもはや同族からさえも疎まれ、相手にされない有様だった。
少しだけ賢くなり、自らの行いを悔いたクリムゾンは、並のドラゴンであれば近寄る事さえかなわぬ海溝へとその身を沈め、深い眠りについた。
自身の悪名が消え失せ、再び世界に争いが起こる日を夢見て……。
一口にドラゴンと言ってもその強さはさまざまであるが、膨大な時間を生き、飛び抜けた強さを持つに至った者はロード・ドラゴンと呼ばれる。基本的にロード達が争い合う事はなく、各々が眷属を従えて孤島や霊山を縄張りとして、世界各地に君臨していた。
しかしそんなロード達の中に、ただ一頭、異質な存在があった。強ければ誰彼構わず戦いを挑む異端のロード。その者は質の悪い事にロードの中でも突き抜けて強く、まさに最強の力を持っていた。
眷属も縄張りも持たず、いつどこに現れるとも知れない破壊の権化。それは、強大な力を持つ他のロード達に取ってさえも、自然災害そのものだった。
ロード・ドラゴンすら忌避する異端にして最強の龍は、畏怖の念を込めて混沌暴帝龍と呼ばれた。
その龍は真名を『クリムゾン』といった。
名前通りの深紅の鱗に身を包み、山ほども有る巨大な体に細長い尾と首を持ち、体に比して小さい頭部には、これまた小さい二本の角が生えていた。手足は歩行に向いていない程小さく短いが、その背には7対の翼があり、自在に飛行可能だ。その異常な強さのためか、通常のドラゴンとは形態がかなり異なり、不格好で異形のドラゴンとなっている。
また本来ドラゴン種は極めて高い知能と、穏やかな性格を持っており、歳を重ねたロードともなれば、その傾向はさらに強くなり無暗に力を振るわないのだが……。クリムゾンはと言えば、あまり賢くない上に無類の戦闘好きで、常に戦う相手を求めている始末だった。
何処かで紛争が起これば勝手に駆けつけ、どちらに味方するでもなく暴れ回っていたクリムゾンであったが、ほどなくして『彼の龍は紛争さえ起こさなければ絡んでこない』という、非紛争国家からの情報が各国に供された。クリムゾンは戦う意思のある者には嬉々として喧嘩を吹っ掛けるが、幸いな事に無抵抗の相手を滅ぼす事には一切興味がないのだ。そして、彼の龍の暴虐によって、期せずして世界から争いが消失したのだった。
時を同じくして――クリムゾンを除くロード・ドラゴン達は『彼の暴帝は放置する』という密約を結んでいた。
最強の種族であるドラゴンも、それ以外の種族も、クリムゾンを前にしては等しく被害者であり、奇しくも同じ結論に至ったのだ。
『バカは相手にしない』
かくしてクリムゾンは戦う相手を失い、そこで初めて自身の過ちに気付く。嫌がる相手と無分別に戦ってはいけなかったのだ。
しかし時すでに遅し。クリムゾンはもはや同族からさえも疎まれ、相手にされない有様だった。
少しだけ賢くなり、自らの行いを悔いたクリムゾンは、並のドラゴンであれば近寄る事さえかなわぬ海溝へとその身を沈め、深い眠りについた。
自身の悪名が消え失せ、再び世界に争いが起こる日を夢見て……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる