2 / 12
序章 暴虐の悪龍クリムゾン
第2話 覚醒
しおりを挟む
―――混沌暴帝龍・クリムゾンが眠りについてから幾星霜の時が流れていた。
かつては全世界で暴れ回りその悪名を轟かせていたドラゴンだが、長い時間を経ることで、彼の龍が起こした大災害はもはや伝説となり、その実在を信じる者は現在の地上にはほとんど存在しない。
同じ時代を生きた龍種と、一部の例外を除いては……。
暗く深い海の底で……一頭のドラゴンが悠久の眠りから覚醒しようとしていた。
ドラゴンの眠る深海を訪れる者は深海クラゲや甲殻類と、それらを捕食する深海生物だけである。深海には海藻がほとんど生えておらず、被捕食者にとっては隠れる場所に乏しい環境だ。そんな中で深海に転がるドラゴンの体は彼らの絶好の隠れ場所となっており、その周囲にちょっとしたビオトープを形成していた。深海生物が何をしたところで頑強なドラゴンの体に影響を与える事はなかったのだが、ある日ちょっとした事件が起きた。深海魚に追われる小さな海老が必死に逃げ惑った末に、ドラゴンの鼻の穴に入り込んでしまったのだ。
「ぶえっくしょい!」
爆発と聞き紛う轟音とともに、ドラゴンの巨体が跳ねてちょっとした地震が起きた。長い年月の間に降り積もったマリンスノー|(深海に降り注ぐプランクトンの死骸)は、ドラゴンの全身を覆い固めてまるで卵の様になっていたが、くしゃみの振動によってバリバリと破れ、深紅の球体が姿を現した。
生存競争という世界最古の闘争が、戦いを好む暴龍を目覚めさせたことは、偶然とはいえ宿命めいた因果を感じさせる事象であった。
こうして最強のドラゴンはその長い眠りから目覚めたのだ。
寝起きのドラゴンは、さっそくその真ん丸な巨体を浮上させ海上に姿を現した。そして長い首を前後左右にゆっくりと振って周囲の様子を探ったが、深い海溝の真上にある海域は大陸から遠く離れているため、一面海原が広がっているのみで辺りには何もない。ドラゴンは周囲を見回しながら、未だ夢現でぼんやりしている頭を、長い首ごと物理的に捻って眠気を覚ました。そして少しずつ眠りに付く前の事を思い出し始めていた。どのくらいの期間眠っていたのか、がっつり熟睡していたのでドラゴン自身にもわからなかったが、そう短くはない年月が経過したであろうことを感じていた。深海から浮上する際に見た海洋生物達は、ドラゴンが眠りに付く前に見慣れたそれとは明らかに違っており、彼らの進化が数千年単位の時間の経過を示していたのだ。
「とりあえず今の世界情勢が知りたいな。」
広大な海にただ一頭漂流するドラゴンは小さく呟いた。もちろんそれに答える者はなく、ウミネコに似た海鳥がミャーミャーと鳴くのみであった。
かつては全世界で暴れ回りその悪名を轟かせていたドラゴンだが、長い時間を経ることで、彼の龍が起こした大災害はもはや伝説となり、その実在を信じる者は現在の地上にはほとんど存在しない。
同じ時代を生きた龍種と、一部の例外を除いては……。
暗く深い海の底で……一頭のドラゴンが悠久の眠りから覚醒しようとしていた。
ドラゴンの眠る深海を訪れる者は深海クラゲや甲殻類と、それらを捕食する深海生物だけである。深海には海藻がほとんど生えておらず、被捕食者にとっては隠れる場所に乏しい環境だ。そんな中で深海に転がるドラゴンの体は彼らの絶好の隠れ場所となっており、その周囲にちょっとしたビオトープを形成していた。深海生物が何をしたところで頑強なドラゴンの体に影響を与える事はなかったのだが、ある日ちょっとした事件が起きた。深海魚に追われる小さな海老が必死に逃げ惑った末に、ドラゴンの鼻の穴に入り込んでしまったのだ。
「ぶえっくしょい!」
爆発と聞き紛う轟音とともに、ドラゴンの巨体が跳ねてちょっとした地震が起きた。長い年月の間に降り積もったマリンスノー|(深海に降り注ぐプランクトンの死骸)は、ドラゴンの全身を覆い固めてまるで卵の様になっていたが、くしゃみの振動によってバリバリと破れ、深紅の球体が姿を現した。
生存競争という世界最古の闘争が、戦いを好む暴龍を目覚めさせたことは、偶然とはいえ宿命めいた因果を感じさせる事象であった。
こうして最強のドラゴンはその長い眠りから目覚めたのだ。
寝起きのドラゴンは、さっそくその真ん丸な巨体を浮上させ海上に姿を現した。そして長い首を前後左右にゆっくりと振って周囲の様子を探ったが、深い海溝の真上にある海域は大陸から遠く離れているため、一面海原が広がっているのみで辺りには何もない。ドラゴンは周囲を見回しながら、未だ夢現でぼんやりしている頭を、長い首ごと物理的に捻って眠気を覚ました。そして少しずつ眠りに付く前の事を思い出し始めていた。どのくらいの期間眠っていたのか、がっつり熟睡していたのでドラゴン自身にもわからなかったが、そう短くはない年月が経過したであろうことを感じていた。深海から浮上する際に見た海洋生物達は、ドラゴンが眠りに付く前に見慣れたそれとは明らかに違っており、彼らの進化が数千年単位の時間の経過を示していたのだ。
「とりあえず今の世界情勢が知りたいな。」
広大な海にただ一頭漂流するドラゴンは小さく呟いた。もちろんそれに答える者はなく、ウミネコに似た海鳥がミャーミャーと鳴くのみであった。
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる