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第1章 龍の巫女クリム誕生
第10話 巣作りドラゴン(巣作りするとは言っていない)
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―――人類が住む大陸から遠く離れた北方に、厚い氷に閉ざされた絶海に浮かぶ孤島があった。
あまりの寒さからそこに棲む生物は少なく、ペンギンに似た飛べない鳥、寒さに耐えるために脂肪を蓄え丸々と太ったアザラシの様な哺乳類、そしてそれらを捕食する白熊の様な肉食獣が細々と生きているのみである。平易に言い換えれば北極っぽい環境だった。ただし北極のような陸地を持たない氷山の塊というわけではなく、降り積もった雪の下には大地が存在しているれっきとした島である。
一つ補足しておくと、北極にペンギンがいないのは有名な話である。それは人類に狩りつくされ絶滅してしまった為であるが、また話が逸れるので少し触れるにとどまろう。
名もなき孤島は人類が住むには適さない厳しい環境と、人類の支配領域を鑑みた場合の地政学的な優位性の低さから、世界中を見渡してももはや数えるほどしかなくなった人類未踏の地の1つとなっていた。
そんな孤島に一頭の巨大なドラゴンが舞い降りた。その正体は、もちろん異形の深紅龍・クリムゾンだ。
眷属を産み落とす産卵地として、誰にも邪魔されない静かな環境を探し、南方の海からはるばる飛んできたのである。とはいっても、先だって発動した魔導反響定位法により、世界中のある程度の状況は把握していたため、ただ闇雲に飛び回っていたわけではなく、ある程度の目星をつけて飛んできたのであるが、実際にその目で確かめるまでは産卵に適した環境であるかどうかは分からないので、探して飛んできたという表現は間違いではない。
「ちょっと寒いかな?」
クリムゾン自身は暑いのも寒いのも得意であり、地中深部で灼熱しているマントルの中であろうが、絶対零度の氷結地獄であろうが涼しい顔で居座ることが可能だ。しかし産みたての卵がその環境に耐え得るかどうかは、産卵初体験のドラゴンに取っても未知数である。そして念を入れて少し暖かい場所を探す事にするのだった。
クリムゾンは孤島の上空をしばらく旋回しながら周辺を観察し、島の中央にそびえる小高い山の中腹に巨大な洞穴があるのを発見した。
「あそこなら寒さもしのげそうかな?」
さっそく洞穴へと降り立ち内部に入っていった。
洞穴内部は巨体のクリムゾンが通れるくらい巨大な縦穴が地底に向けて深く続いており、さらにその脇には細い横穴が迷路のように入り組んでいた。それは巨大な樹木の根がきれいに消え去ってしまった跡のような構造をしていた。ちなみに細い横穴はクリムゾンの巨体では当然入り込むことができないが、例のエコーロケーションによって内部構造を即座に把握したのである。そしてクリムゾンは主幹部分の太い縦穴が地中深く伸びた先に、巨大な地下空洞がある事に気付いた。
「なんなんだろこの洞穴?誰もいないし自然にできたのかな?」
不可解な構造を持つ洞穴にドラゴンは疑問を抱いたが、世界最強とまで言われた存在に恐れるものは何もないので構わず進んでいく。
地中深くに潜っていくと、次第に洞穴内の気温が上がっていることに気が付いた。そしていよいよ最深部の大空洞へと到達する頃にはすっかり居心地のいい気温になっていた。それは地底のマグマが発する地熱の影響であったが、大雑把なドラゴンはなんだか暖かいな、と思いはしたが深く考えることはなかった。
「ここなら卵も平気かな?」
大空洞内を見渡すと内部は思っていた以上に広く、巨体のクリムゾンが飛び回るのに十分な空間を持っていた。そして床面は起伏がなく平坦で、ドラゴンが寝転がるのに気持ちよさそうな地形をしていた。
さらに鍾乳石のつららから垂れる水が床面の一部に地底湖を作っており、その水は幾重にも重なった岩盤や粘土、土砂の層を通った地下水であるため、天然のフィルターによって濾過されて透き通っていた。加えて岩盤層のミネラルが適度に溶け込んでいるため、人類が飲用するのに適したものであった。もっとも汚水でも聖水でも強固な内臓を持つドラゴンにとって大した違いは無いのだが。
地下深くでは気圧上昇、酸素濃度の低下や換気の問題、ガス溜まりの危険等があるが、地底深くの大空洞で独自進化したらしい苔類が床や壁面にまばらに生えており、空気環境を地上と同質にまで改善していた。それは人為的な物を感じる到底自然とは言えない進化であったが、深海の最深部という厳しい環境でさえ数千年の間呑気に居眠りしていたクリムゾンは、環境適応力が高すぎるがゆえにその程度の細かい事を気にするはずがなかった。
クリムゾンの事はいったん置いておいて、要するに大空洞内部は人類が住みやすい快適空間だったのだ。
「よし、ここに決めた。」
前述の通りクリムゾンはどんな厳しい環境であろうと平気で棲みつけるのだが、この巨大地下空洞になんとなく居心地の良さを感じたので、眷属を産み出すまでの当面の拠点にすることを決めた。
こうして流離のドラゴンは初めての縄張りを手に入れたのだった。
あまりの寒さからそこに棲む生物は少なく、ペンギンに似た飛べない鳥、寒さに耐えるために脂肪を蓄え丸々と太ったアザラシの様な哺乳類、そしてそれらを捕食する白熊の様な肉食獣が細々と生きているのみである。平易に言い換えれば北極っぽい環境だった。ただし北極のような陸地を持たない氷山の塊というわけではなく、降り積もった雪の下には大地が存在しているれっきとした島である。
一つ補足しておくと、北極にペンギンがいないのは有名な話である。それは人類に狩りつくされ絶滅してしまった為であるが、また話が逸れるので少し触れるにとどまろう。
名もなき孤島は人類が住むには適さない厳しい環境と、人類の支配領域を鑑みた場合の地政学的な優位性の低さから、世界中を見渡してももはや数えるほどしかなくなった人類未踏の地の1つとなっていた。
そんな孤島に一頭の巨大なドラゴンが舞い降りた。その正体は、もちろん異形の深紅龍・クリムゾンだ。
眷属を産み落とす産卵地として、誰にも邪魔されない静かな環境を探し、南方の海からはるばる飛んできたのである。とはいっても、先だって発動した魔導反響定位法により、世界中のある程度の状況は把握していたため、ただ闇雲に飛び回っていたわけではなく、ある程度の目星をつけて飛んできたのであるが、実際にその目で確かめるまでは産卵に適した環境であるかどうかは分からないので、探して飛んできたという表現は間違いではない。
「ちょっと寒いかな?」
クリムゾン自身は暑いのも寒いのも得意であり、地中深部で灼熱しているマントルの中であろうが、絶対零度の氷結地獄であろうが涼しい顔で居座ることが可能だ。しかし産みたての卵がその環境に耐え得るかどうかは、産卵初体験のドラゴンに取っても未知数である。そして念を入れて少し暖かい場所を探す事にするのだった。
クリムゾンは孤島の上空をしばらく旋回しながら周辺を観察し、島の中央にそびえる小高い山の中腹に巨大な洞穴があるのを発見した。
「あそこなら寒さもしのげそうかな?」
さっそく洞穴へと降り立ち内部に入っていった。
洞穴内部は巨体のクリムゾンが通れるくらい巨大な縦穴が地底に向けて深く続いており、さらにその脇には細い横穴が迷路のように入り組んでいた。それは巨大な樹木の根がきれいに消え去ってしまった跡のような構造をしていた。ちなみに細い横穴はクリムゾンの巨体では当然入り込むことができないが、例のエコーロケーションによって内部構造を即座に把握したのである。そしてクリムゾンは主幹部分の太い縦穴が地中深く伸びた先に、巨大な地下空洞がある事に気付いた。
「なんなんだろこの洞穴?誰もいないし自然にできたのかな?」
不可解な構造を持つ洞穴にドラゴンは疑問を抱いたが、世界最強とまで言われた存在に恐れるものは何もないので構わず進んでいく。
地中深くに潜っていくと、次第に洞穴内の気温が上がっていることに気が付いた。そしていよいよ最深部の大空洞へと到達する頃にはすっかり居心地のいい気温になっていた。それは地底のマグマが発する地熱の影響であったが、大雑把なドラゴンはなんだか暖かいな、と思いはしたが深く考えることはなかった。
「ここなら卵も平気かな?」
大空洞内を見渡すと内部は思っていた以上に広く、巨体のクリムゾンが飛び回るのに十分な空間を持っていた。そして床面は起伏がなく平坦で、ドラゴンが寝転がるのに気持ちよさそうな地形をしていた。
さらに鍾乳石のつららから垂れる水が床面の一部に地底湖を作っており、その水は幾重にも重なった岩盤や粘土、土砂の層を通った地下水であるため、天然のフィルターによって濾過されて透き通っていた。加えて岩盤層のミネラルが適度に溶け込んでいるため、人類が飲用するのに適したものであった。もっとも汚水でも聖水でも強固な内臓を持つドラゴンにとって大した違いは無いのだが。
地下深くでは気圧上昇、酸素濃度の低下や換気の問題、ガス溜まりの危険等があるが、地底深くの大空洞で独自進化したらしい苔類が床や壁面にまばらに生えており、空気環境を地上と同質にまで改善していた。それは人為的な物を感じる到底自然とは言えない進化であったが、深海の最深部という厳しい環境でさえ数千年の間呑気に居眠りしていたクリムゾンは、環境適応力が高すぎるがゆえにその程度の細かい事を気にするはずがなかった。
クリムゾンの事はいったん置いておいて、要するに大空洞内部は人類が住みやすい快適空間だったのだ。
「よし、ここに決めた。」
前述の通りクリムゾンはどんな厳しい環境であろうと平気で棲みつけるのだが、この巨大地下空洞になんとなく居心地の良さを感じたので、眷属を産み出すまでの当面の拠点にすることを決めた。
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