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第23話「リリアンの再度の策動、呼び出しの誘い」
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「シルヴィア様、こちらを」
アリスが手渡してくれたのは、薔薇の飾りが施された奇妙に豪華な封筒だった。差出人には“リリアン・ノースバレー”とある。開けてみると、そこには短い文章で「お話したいことがあります。明日の昼下がり、王都のサロンにてお待ちしています」と書かれていた。
「……なんで私がわざわざリリアンに会わなきゃいけないの」
思わず呟くと、アリスは神妙な面持ちで首をかしげる。
「差出人の事情はわかりませんが、警戒は必要かと。お嬢様お一人では行かないほうがいいのでは?」
「そうよね……でも、リリアンが直接私に呼び出しをかけてくるなんて珍しい。何を企んでるんだろう」
できれば無視したい気持ちもある。でも、ロイ王子が噂の出どころを探っている今、リリアンと話をするのもひとつの機会かもしれない。もしかすると彼女は何か隠し事を抱えていて、それを餌に私を陥れる気なのだろうか。
「シルヴィア、ちょうどよかった」
そこへセレナが部屋へやってきて、私が封筒を持っているのを見て軽く首をのばした。
「その手紙、リリアンから?」
「そう。明日サロンに来てほしいって」
セレナは小さく息を吐き、即答する。
「私もついて行くわ。二人きりで会ったら、どんな罠があるかわからない」
「うん……ありがとう。アリスも一緒に来てくれる?」
アリスは穏やかにうなずき、「もちろんです」と言う。こうなれば、リリアンが用意しているのが罠でも何とか対処できるかもしれない。心強い味方がいる。
しかし、翌日の朝。グレイメリア家に急用が入り、セレナがそちらへ駆けつけなければならなくなった。父も同様に出かけるらしく、私とアリスだけで会いに行くしかない状況になる。
「すみませんお嬢様、私もセレナお嬢様の用事に呼ばれてしまいました。先方の館に必要な資料を運ばねばならないらしくて……」
アリスまでもが急な用事で同行できなくなったと聞いたとき、私は天を仰いだ。まさにリリアンの思惑どおり、私を一人にしようと何か手を回したのかもしれない。
「行きたくないな……」
それでも、ここで逃げては何も始まらない。ロイ王子のことを思い浮かべれば、これも自分から動くチャンスだと気合を入れ直すしかない。私は仕方なく一人でサロンへ出向くことを決めた。
当日、王都の中心にある高級サロンは華やかだが、リリアンは予約を取っていたのか奥の個室で待っていた。扉を開けると、彼女はにこやかな笑みを浮かべて迎える。
「よく来てくれたのね、シルヴィア。あなたとはゆっくり話したことがなかったから嬉しいわ」
「……そう。で、話って何?」
素っ気なく返す私に、リリアンはわざとらしく頬に手を添えて微笑む。その表情の裏には、どうにも不穏な気配を感じる。
「あなたも分かってるでしょ。私がロイ殿下との縁談を望んでいたのに、邪魔が入ったっていうこと」
「邪魔……?私が邪魔してるわけじゃないでしょ。王子が自分で決めてるだけ」
リリアンの言いがかりに、私は眉をしかめる。だが、彼女は動じずにカップを持ち上げ紅茶をすすった。
「あなたの噂を聞いて、殿下は面白がってるのかしら。……でも、そんな関係長くは続かないと思わない?」
軽薄な笑みと挑発的な言葉。いよいよ嫌な予感が強まる。私はテーブルに手を置いて、彼女を見据えた。
「何が言いたいの?」
「あなたが自分の意思で王子から身を引けば、余計な争いは起きないわよ。お互いに……そう思わない?」
リリアンの口から放たれる言葉は、まるで私を脅すようだった。果たしてこの誘いにどんな策略があるのか。心臓が早鐘を打ち始めながら、私は彼女の真意を探ろうと身構える。
アリスが手渡してくれたのは、薔薇の飾りが施された奇妙に豪華な封筒だった。差出人には“リリアン・ノースバレー”とある。開けてみると、そこには短い文章で「お話したいことがあります。明日の昼下がり、王都のサロンにてお待ちしています」と書かれていた。
「……なんで私がわざわざリリアンに会わなきゃいけないの」
思わず呟くと、アリスは神妙な面持ちで首をかしげる。
「差出人の事情はわかりませんが、警戒は必要かと。お嬢様お一人では行かないほうがいいのでは?」
「そうよね……でも、リリアンが直接私に呼び出しをかけてくるなんて珍しい。何を企んでるんだろう」
できれば無視したい気持ちもある。でも、ロイ王子が噂の出どころを探っている今、リリアンと話をするのもひとつの機会かもしれない。もしかすると彼女は何か隠し事を抱えていて、それを餌に私を陥れる気なのだろうか。
「シルヴィア、ちょうどよかった」
そこへセレナが部屋へやってきて、私が封筒を持っているのを見て軽く首をのばした。
「その手紙、リリアンから?」
「そう。明日サロンに来てほしいって」
セレナは小さく息を吐き、即答する。
「私もついて行くわ。二人きりで会ったら、どんな罠があるかわからない」
「うん……ありがとう。アリスも一緒に来てくれる?」
アリスは穏やかにうなずき、「もちろんです」と言う。こうなれば、リリアンが用意しているのが罠でも何とか対処できるかもしれない。心強い味方がいる。
しかし、翌日の朝。グレイメリア家に急用が入り、セレナがそちらへ駆けつけなければならなくなった。父も同様に出かけるらしく、私とアリスだけで会いに行くしかない状況になる。
「すみませんお嬢様、私もセレナお嬢様の用事に呼ばれてしまいました。先方の館に必要な資料を運ばねばならないらしくて……」
アリスまでもが急な用事で同行できなくなったと聞いたとき、私は天を仰いだ。まさにリリアンの思惑どおり、私を一人にしようと何か手を回したのかもしれない。
「行きたくないな……」
それでも、ここで逃げては何も始まらない。ロイ王子のことを思い浮かべれば、これも自分から動くチャンスだと気合を入れ直すしかない。私は仕方なく一人でサロンへ出向くことを決めた。
当日、王都の中心にある高級サロンは華やかだが、リリアンは予約を取っていたのか奥の個室で待っていた。扉を開けると、彼女はにこやかな笑みを浮かべて迎える。
「よく来てくれたのね、シルヴィア。あなたとはゆっくり話したことがなかったから嬉しいわ」
「……そう。で、話って何?」
素っ気なく返す私に、リリアンはわざとらしく頬に手を添えて微笑む。その表情の裏には、どうにも不穏な気配を感じる。
「あなたも分かってるでしょ。私がロイ殿下との縁談を望んでいたのに、邪魔が入ったっていうこと」
「邪魔……?私が邪魔してるわけじゃないでしょ。王子が自分で決めてるだけ」
リリアンの言いがかりに、私は眉をしかめる。だが、彼女は動じずにカップを持ち上げ紅茶をすすった。
「あなたの噂を聞いて、殿下は面白がってるのかしら。……でも、そんな関係長くは続かないと思わない?」
軽薄な笑みと挑発的な言葉。いよいよ嫌な予感が強まる。私はテーブルに手を置いて、彼女を見据えた。
「何が言いたいの?」
「あなたが自分の意思で王子から身を引けば、余計な争いは起きないわよ。お互いに……そう思わない?」
リリアンの口から放たれる言葉は、まるで私を脅すようだった。果たしてこの誘いにどんな策略があるのか。心臓が早鐘を打ち始めながら、私は彼女の真意を探ろうと身構える。
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