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第1話 出会いは夜会にて
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「ようこそ、ヴァレンタイン王国の夜会へ」
豪奢な宮廷ホールに集まった貴族たちの声が、どこか浮ついた熱気を帯びて飛び交う。
「……すごい人……」
男爵家の次男リオン・クレイドは、大勢の中で目立たぬよう壁際に身を置いていた。いつもは地味な装いだが、今宵は父の命で夜会用の礼服を着ている。
「リオン、少しは堂々としろ。せっかくお前にとっても大切な機会になるかもしれんのだ」
父アルベールの声が耳元で聞こえる。しかしリオンは慣れない場に落ち着かず、一人でそっと息をつく。
「……王族の方々もいるし、失礼のないようにしないと……」
そう思いながらも、華やかな人々を観察する。着飾った女性や高位の貴族たちが笑顔で会話し、楽団の演奏が控えめに流れている。
「おや、あれが第二王子のエデン殿下だ。……噂通りの美貌だな」
隣にいる若い貴族が囁く。リオンもつられて、その視線を追った。金色の髪を持ち、気品に満ちたエデン王子は、明らかに周囲の中心にいた。
「(……すごいオーラ……)」
初めて目にする王子の存在感に、リオンは一瞬で心を奪われる。だけど、王子がこちらを振り返るはずもないと、リオンは小さく肩をすくめた。
「失礼しました」
人混みを避けるように、リオンはホールの隅へ移動しようと歩を進める。だが、その瞬間、誰かの腕にぶつかってしまう。
「……なんだ、気をつけろ」
低く冷ややかな声が耳を刺す。リオンが慌てて顔を上げると、そこには先ほど見かけたばかりの金色の髪――エデン王子自身が立っていた。
「す、すみません、殿下……! 大変、申し訳ありません!」
リオンはとっさに頭を下げる。心臓が破裂しそうだ。こんなにも近くで、その王子と対面しているなんて。
「……お前、誰だ」
エデン王子は面倒そうに眉をひそめる。周囲の目を気にするでもなく、リオンを鋭く見つめた。
「ク、クレイド男爵家の……次男、リオンと申します」
声が裏返りそうになるのを必死でこらえる。エデンは一瞥するようにリオンの姿を見下ろすと、無関心そうに視線をそらした。
「ふん。気をつけるんだな」
それだけ言い残すと、エデンはリオンに背を向け、人垣の中へと戻っていく。リオンは呆然とその背を見つめ、わずかに震える手を握りしめる。
「(……怖かった……でも……)」
どうしようもなく胸が高鳴っている。エデンの声、姿、そして漂う強い存在感が、なぜかリオンの中に熱を灯した。
「リオン、大丈夫か?」
父アルベールが駆け寄ってくる。だがリオンは首を振り、すぐさま平静を装う。
「だ、大丈夫です。ちょっと人にぶつかっただけで……」
アルベールは心配そうだが、リオンの様子を見てそれ以上は問いたださなかった。
「(あれが……エデン殿下……)」
名前を思い浮かべるたびに鼓動が速くなる。彼を思い返すだけで、なぜか瞼の裏に金色の輝きがちらつくのだ。
その夜会の後、リオンは胸の熱を冷ますことができずにいた。
豪奢な宮廷ホールに集まった貴族たちの声が、どこか浮ついた熱気を帯びて飛び交う。
「……すごい人……」
男爵家の次男リオン・クレイドは、大勢の中で目立たぬよう壁際に身を置いていた。いつもは地味な装いだが、今宵は父の命で夜会用の礼服を着ている。
「リオン、少しは堂々としろ。せっかくお前にとっても大切な機会になるかもしれんのだ」
父アルベールの声が耳元で聞こえる。しかしリオンは慣れない場に落ち着かず、一人でそっと息をつく。
「……王族の方々もいるし、失礼のないようにしないと……」
そう思いながらも、華やかな人々を観察する。着飾った女性や高位の貴族たちが笑顔で会話し、楽団の演奏が控えめに流れている。
「おや、あれが第二王子のエデン殿下だ。……噂通りの美貌だな」
隣にいる若い貴族が囁く。リオンもつられて、その視線を追った。金色の髪を持ち、気品に満ちたエデン王子は、明らかに周囲の中心にいた。
「(……すごいオーラ……)」
初めて目にする王子の存在感に、リオンは一瞬で心を奪われる。だけど、王子がこちらを振り返るはずもないと、リオンは小さく肩をすくめた。
「失礼しました」
人混みを避けるように、リオンはホールの隅へ移動しようと歩を進める。だが、その瞬間、誰かの腕にぶつかってしまう。
「……なんだ、気をつけろ」
低く冷ややかな声が耳を刺す。リオンが慌てて顔を上げると、そこには先ほど見かけたばかりの金色の髪――エデン王子自身が立っていた。
「す、すみません、殿下……! 大変、申し訳ありません!」
リオンはとっさに頭を下げる。心臓が破裂しそうだ。こんなにも近くで、その王子と対面しているなんて。
「……お前、誰だ」
エデン王子は面倒そうに眉をひそめる。周囲の目を気にするでもなく、リオンを鋭く見つめた。
「ク、クレイド男爵家の……次男、リオンと申します」
声が裏返りそうになるのを必死でこらえる。エデンは一瞥するようにリオンの姿を見下ろすと、無関心そうに視線をそらした。
「ふん。気をつけるんだな」
それだけ言い残すと、エデンはリオンに背を向け、人垣の中へと戻っていく。リオンは呆然とその背を見つめ、わずかに震える手を握りしめる。
「(……怖かった……でも……)」
どうしようもなく胸が高鳴っている。エデンの声、姿、そして漂う強い存在感が、なぜかリオンの中に熱を灯した。
「リオン、大丈夫か?」
父アルベールが駆け寄ってくる。だがリオンは首を振り、すぐさま平静を装う。
「だ、大丈夫です。ちょっと人にぶつかっただけで……」
アルベールは心配そうだが、リオンの様子を見てそれ以上は問いたださなかった。
「(あれが……エデン殿下……)」
名前を思い浮かべるたびに鼓動が速くなる。彼を思い返すだけで、なぜか瞼の裏に金色の輝きがちらつくのだ。
その夜会の後、リオンは胸の熱を冷ますことができずにいた。
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