【R18】婚約破棄されたいから悪役令嬢になりたい

えるろって

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「このあたりに、何か面白い資料があるんじゃないかしら」

 
王立図書館。重厚な扉をくぐると、天井の高い静かな空間が広がる。古文書や研究書が整然と並び、魔術や歴史、地理などあらゆる分野の知識が詰まっている場所だ。

 
わたしは人気のない書架をゆっくりと歩きながら、「大災厄に関する古文書」「危険生物図鑑」など、いかにも物騒なタイトルの本を物色していた。昼下がりの光が差し込む中、埃っぽい空気を感じながら背表紙を指先でなぞる。

 
「くしゅん……いけない、埃が……」

 
くしゃみを噛み殺しながらも、何か使えそうなネタがないか探してみる。伝説の魔獣だの、封印された遺跡だの、物騒な単語はいくらでもあるが、実際にそこへ行って破壊活動をするのは危険すぎる……かといって、しょぼい騒動では王子に“さすがにヤバい”と思わせられない。

 
「ここは慎重に……でも大胆にいくのが重要よね」

 
そう呟いたところで、ふと誰かの気配を感じて背後を振り返る。すると、棚の陰から王子――ルーカス殿下が姿を現した。さっき執務室で別れたばかりなのに、なんでここに?

 
「し、殿下……? なんでここにいるのよ」

 
「僕だって王立図書館を利用するさ。資料を探していてね。……君こそ、こんな奥まった場所にいるなんて珍しいじゃないか」

 
王子の問いに、わたしは慌てて目を泳がせる。まさか「ヤバいネタを探しに来ました」なんて言えるわけがない。

 
「い、いいでしょ別に。わたしはわたしの用事があるの。殿下こそ、追いかけてきたわけ?」

 
「まさか。偶然さ」

 
偶然とは思えないタイミングだけど、深く追及しても仕方ないか。わたしは視線を棚の本に戻す。王子の存在を無視して資料を漁ってやる。すると彼が、おもむろに一冊の古文書を指してきた。

 
「それは……“封じられた剣の伝承”か。ずいぶんマニアックな書だよ」

 
「あ、ああ、そ、そうね。ちょっと興味があって」

 
「どんな興味だい?」

 
「た、ただの好奇心よ。あなたには関係ないでしょ」

 
わたしはツンとそっぽを向く。そんなわたしを見て、王子は軽く笑い声を漏らす。まるで「分かりやすいな」という目だ。……やっぱり苦手だ、この人。

 
「まあいい。シロエが何を読もうと自由だよ。ただ、危険な場所へは行かないようにね。僕の騎士団が出動する事態になるから」

 
「そんなの、わかってるわよ」

 
適当に返事をするものの、内心は「やっぱり気づかれてるのかな」と冷や汗が出る。王子の言うとおり、わたしが変な行動を起こせば騎士団が容赦なく出動して阻止してくるだろう。そのチート級の騎士団相手に、果たしてわたしはどこまで無茶を通せるのか――考えただけで頭が痛くなる。

 
「シロエ」

 
「……なに?」

 
「本当に、僕との婚約がそんなに嫌なのか?」

 
図書館の静寂の中で、王子の低い声が響く。わたしは一瞬視線を合わせられず、古文書を強く握りしめる。どうして今さらそんなことを聞くのだろう。もう何度も言っているのに。

 
「……そうよ。何度も言わせないで」

 
「わかった。しつこくて悪かったね」

 
「……別に」

 
気まずい空気が流れ、わたしはそそくさと本を手に取り棚を離れる。王子もまた深く追及せず、足音を立てずにその場を去っていく。まるで最初からそこにいなかったかのようだ。わたしは胸をなで下ろしながら、今開いていたページに視線を落とす。

 
「……伝説の封印、王家の血筋と関係あり……何これ」

 
王子の一族に関わる古い伝説のようだ。詳しくは読み込んでみないとわからないが、もしかして何か手がかりになるかもしれない。王家の秘密を掘り起こせば、王子が慌てるような展開が……なんて期待もある。もちろん危険もあるけれど。

 
「よーし、もう少し調べてみるか」

 
わたしは新たに数冊の古文書を抱え、図書館のテーブル席へ向かう。誰にも邪魔されずにじっくり読んでやろう。こう見えて、わたしは読み始めると集中するタイプだ。

 
「王家の秘密、危険な伝承……うまく利用すれば、きっと悪役らしい大騒ぎを起こせるかも……」

 
つぶやきながら、わたしは本の中にのめり込んでいく。この時はまだ、それが後に大きな事件につながるなんて、夢にも思っていなかった。わたしはただ、“嫌われるため”の一心で資料を読み漁るのだった。
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