【R18】婚約破棄されたいから悪役令嬢になりたい

えるろって

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「シロエ、本当に婚約破棄したいの?」

 
姉のローザは、わたしの目を真っ直ぐに見つめながら問いかけてきた。広々とした応接間にわたしと姉、そしてサラだけがいる。ローザの言葉にわたしは息を呑んだ。

 
「そりゃあ……もちろん。そのために必死にやってるんだけど」

 
「わたしには、あなたの行動がむしろ“破棄したくない”ように見える瞬間もあるの。たとえば、人を傷つけるようなことはしないとか、本当に危険な崩落は避けようとしているところとか……」

 
「そ、それは……わたしが完全な悪人になりたくないだけで、目的は王子に嫌われることなのよ」

 
目を伏せて言い返すものの、姉の表情はどこかやわらかい。まるで「わかってるわよ」と言いたげな、包み込むような優しさを感じる。

 
「あなたの本当の願いは……もしかすると、ただ『自由に生きたい』だけじゃない気がするわ。王子殿下のこと、本当に嫌いなの? 心の底から?」

 
「それは……」

 
言葉に詰まる。王子はわたしにとって、最初は堅苦しいだけの存在だった。でも、ここ最近、彼の妙に執着じみた優しさとか、時折見せる独占欲のようなものに振り回されているうちに、心がざわつく瞬間が増えてきたのは事実。嫌いかと聞かれれば……わからない。すごく複雑な気持ちだ。

 
「わたしは、あの人と結婚する未来が想像できない。だって、わたしと王子じゃ住む世界が違うし、王子は王国を背負う立場だもの。わたしなんか……」

 
正直に弱音を吐くと、ローザはそっとわたしの手を握った。

 
「でも、王子殿下はあなたを気に入っているのでしょう? 普通なら考えられないほど、あなたを守り、受け入れている。そこにあなたは何を感じているのかしら?」

 
「感じている……? ……わからない。いつも余裕そうに見えて、わたしがどんなに暴れても受け止められるっていうか、それが逆にムカつくんだよ。心配してるくせに離そうとしないって、変じゃない?」

 
「愛情と独占欲は紙一重……なのかもしれないわね」

 
ローザの言葉に、わたしは動揺を隠せない。愛情? まさか。わたしはあくまで王子に嫌われたいだけ。でも、もし彼が本気でわたしを愛しているとしたら……どうなるのだろう。そんな妄想をかき消すように首を振る。

 
「……そんなの、知らない。わたしは婚約なんていらない。自分で人生を選びたいだけ」

 
わたしが声を荒げると、ローザはわずかに目を伏せて微笑んだ。まるで妹の成長を見守るかのように――。

 
「わかったわ。あなたが本気で婚約破棄を望むなら、わたしもできる限り協力する。だけどひとつ覚えておいて。王子殿下はあなたの意志をちゃんと見ていると思う。もしかしたら……あなたの本音に気づいているかもしれない」

 
「本音なんて……わたしは悪役令嬢を貫くんだから」

 
わたしはあえて強気に言い切った。だけど姉が言うとおり、どこかで揺れ動いている自分がいる。王子のことを本当はどう思っているのか――それを曖昧にしたまま突き進むのは、やはりどこかで無理があるのかもしれない。

 
「とはいえ、もう途中で引き返せないよ。これだけ派手にやらかしてるわけだし、いまさら『やっぱりやめます』なんて言えない」

 
ローザは優しくわたしの頬を撫でると、「あなた自身が後悔しないようにね」とだけ言って部屋を後にした。その背中を見送るわたしの胸には、はっきりしない感情が渦を巻く。

 
「……後悔なんて、しない。絶対にね」

 
自らに言い聞かせるように呟くと、わたしはもう一度拳を握りしめる。姉が何を言おうと、今はまだ引き返す気にはなれない。王子の表情、その真意をはっきり知るまでは――わたしは悪役令嬢を演じ続ける決意を固めた。
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