【R18】婚約破棄されたいから悪役令嬢になりたい

えるろって

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「よし……今度こそ、決定打を打ってやる!」

 
深夜の書斎でわたしは地図を広げ、独りごちる。これまでいくつもの“破壊”を試みては失敗してきたけれど、今回は本当に大規模な作戦を用意した。狙うは王都近郊にある王国最大の貯蔵庫――食糧や貴重品、様々な備蓄物資が集められている場所だ。もしそこを壊したら……さすがに王子も笑ってはいられないはず。

 
「ここを破壊すれば、王国の物流が一時的に大混乱に陥るんじゃない? 今までの“小さな騒ぎ”とは訳が違う。騎士団にも被害が及ぶ可能性が高い……。それでも、これが成功すれば……!」

 
想像するだけで背筋が震える。もちろん人を直接傷つける気はない。しかし、施設を破壊すれば多くの人々が困ることになるはず。そんな理不尽な行為こそ、悪役の真骨頂だ。いくら王子が守ろうとしても、これはさすがに言い訳できないくらいの損害を与えるだろう。

 
「悪いね、みんな。……でも、わたしの自由を取り戻すためなんだ。婚約破棄にさえなれば、あとの後始末は王子がどうにかするでしょ」

 
わたしは自分にそう言い聞かせる。胸がチクリと痛むが、もう後戻りできない。王子があくまでわたしを離さないというのなら、徹底的に破壊して嫌われるまで。覚悟を決めて、深夜のうちに屋敷を抜け出した。

 
「場所は……確かこのあたり」

 
貯蔵庫は厚い石造りの壁に囲まれている。騎士団の巡回も厳重らしいが、それでもわたしはフェンスを乗り越えて敷地内へ潜り込む。夜の冷たい空気の中、見回りの兵士があちこちを歩いているのを確認しながら、物陰へと身を隠す。

 
「ふふ……正攻法で行くのはバカらしい。最初に壁をパンチすれば音が響いて兵士が来るだろうし、なら手早く崩すほうがいいわね」

 
すぐ横には巨大な石壁。これを破壊すれば建物の基礎が崩れて、内部にある備蓄品にも大きなダメージを与えられるだろう。ここなら兵士が寄ってくる前に一気に壊せるかもしれない。わたしは深呼吸して拳を握りしめる。

 
「頼む……成功して、嫌われて……!」

 
どこまでも矛盾した願いを心に抱えながら、わたしは力を込める。ごうん、と空気を震わせる重い一撃が石壁に炸裂した。ゴゴゴッ……と鈍い音がして、壁に大きな亀裂が走る。

 
「ふっ……いい感じ!」

 
もう一撃。パンと粉塵が飛び散り、石が崩れ落ちる。施設の壁の内側がむき出しになり、焦った兵士の声が辺りに響き始める。

 
「な、何事だ!? 誰かが壁を破壊しているぞ!」「急げ、侵入者だ!」

 
「よし、集まってきた。もっと壊せば、誰もが唖然とするはず……!」

 
わたしは一気に拳を繰り出そうとする。だけどそのとき、空からシュンッと矢のような音がした。見上げると、魔術師アルテマの浮遊魔法だろうか、騎士団員が滑空するように降りてきた。その瞬間、騎士たちがわたしの周囲を取り囲む。

 
「シロエ! これ以上はやめろ!」

 
「はぁ……君らの登場が早すぎるって。もう少し待ってくれたっていいじゃないの」

 
わざと茶化すように言うと、数名の騎士が石壁の前で警戒態勢を取る。どうやら簡単には破壊させてくれなさそうだ。だけど今度こそは負けない。わたしは地を蹴り、ひとりの騎士を跳ね飛ばそうとする。

 
「邪魔しないでっ!」

 
バコーンという衝撃音とともに、騎士の盾ごと押し飛ばした。相手は数メートル転がるものの、すぐさま起き上がる。さすが鍛え抜かれたチート級の騎士団だ。血気盛んな若者が「うおお!」と気合を入れてまた立ち向かってくる。

 
「はぁ……まったく、相手が多いな」

 
次々に襲いかかる騎士たちとわたしの激突が、夜の施設内で激しく繰り返される。戦闘というよりは鬼ごっこに近い。わたしが壁を狙えば騎士が止めようとし、わたしはそれを振り払って走り回る。

 
「これで最後の悪事にするんだから、絶対に成功させるわ!」

 
もうこの大悪事を成し遂げれば、王子はわたしを見限るだろう――そう信じて、わたしは拳を固める。騎士団がどう出ようと、わたしの決意は揺るがない。自分の力を最大限に発揮する覚悟で、再び壁へ向かって突進する。

 
ガラガラガラ……と崩れ落ちる石材の破片。わたしのこぶしは確かに施設の一部を破壊した。しかし、その先にはさらに分厚い防壁が……。

 
「なっ……こんな仕掛け、前はなかったはずなのに」

 
どうやら二重構造の防壁になっていて、奥には鉄筋が組まれた強固な構造が施されている。まるで最初から“シロエ対策”をしていたかのように、わたしの破壊が通用しにくい作りだ。嫌な予感が胸を締めつける。

 
「くっ、やっぱり王子の差し金か……。最初から備えていたってこと?」

 
「シロエ、もう手を引いてくれ! これ以上やっても無駄だ!」

 
必死に呼びかける騎士の声が耳に痛い。情けない……こんなに大きな悪事を計画したのに、最初から対策されているなんて。わたしは拳を下ろすか迷いながらも、屈辱と悔しさで胸がいっぱいになる。

 
「くそ……なんで、全部先回りされてるの……!」
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